関西私鉄の雄、阪急阪神ホールディングス。今、100年以上続けてきた「街づくり」のノウハウを活かせるのではないかという思いから、「メタバース」事業に取り組んでいる。
デジタル空間に活路を見出そうとする大手私鉄の試行錯誤を取材した。

メタバースに挑戦「梅田での音楽フェスを成功させろ」

今、急速に広まるワード「メタバース」。
世界のどこからでも、アバターに「変身」して訪れることができる、インターネット上の仮想空間。将来的には、ショッピングサイトやSNSがこの空間で一つにまとまり、新しい「社会」になると言われている。

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このメタバースに活路を見出そうとしているのが、関西に電車を走らせて120年、大手私鉄の阪急阪神ホールディングスだ。
現実では不可能な企画、大阪・梅田の中心部での「巨大音楽フェス」を、ことし3月に開催する計画を立ち上げた。

チームを引っ張るのは、グループ開発室の山本隆弘部長(57)。
元々は鉄道の電機部門のエンジニアだったが、2020年にデジタル技術を使った新しいビジネスを生み出してほしいと、新設の部署を任された。

人口減少の社会で、次の時代に成長させる分野はいったい何なのか。
「メタバース」なら、阪急阪神ホールディングスが100年以上ずっと続けてきた「街づくり」を活かせのではないかと考えた。

阪急阪神ホールディングス グループ開発室 山本隆弘 部長:
明治43年に初めて宝塚線を作ったときは、宝塚線にはもちろん街がなかったんです。起点の駅の梅田、梅田も実はたいした街じゃなかったんです。途中は田んぼと畑だけ。
そういう沿線に、街を作りながら鉄道に乗るお客様を作ってきたのが我々です。
じゃあ、デジタルの空間の中に、我々が持っている様々な資産を再現すれば、同じようなビジネスができるのではないかと

事業として成り立たせる…本番前日まで続く準備

今回、仮想の梅田の街で行うのは、アバターで活動するアーティストたちによる音楽ライブ。
リアルの梅田にも広告が並んだ。

流行りに乗った遊びではない。事業として成り立たせるために、会議に臨む山本部長の目は真剣だ。
梅田の街のデザインはもちろん、ホームページの細部に至るまで、こだわっている。

阪急阪神ホールディングス グループ開発室 山本隆弘 部長:
『チケット購入サイト』とか書かないと、このページが何のページなのか分からない。チケット売るために仕事してんねやから、ちゃんと売れるように作ってねって言ってたんやけど。まだマシになってるけど、それ頼みますね。すぐやってください

フェス本番前日。
依頼を受けた神戸市のメタバース制作会社「monoAI technology」では、プロジェクトチームが描く梅田の街を具現化するため、ギリギリまで調整を続ける。

monoAI technology 本城嘉太郎 社長:
確かにすごい夜っぽくなりましたね。少しでもクオリティー上げたいですよね

作業は夜遅くまで続いた。

フェス本番 梅田を再現…8万人近くが来場

本番当日。開演をそわそわと待ち受ける山本部長は、自宅で1人。
主催イベント本番を、それぞれリモートで迎えるのもメタバースの世界ならではだ。

メタバースの世界に入ると、大阪駅前の車道がアバターの歩行者天国となり、阪神百貨店の前には大きなステージが立っていて、梅田が巨大なイベントシティになっている。

ステージの前にはフラワースタンドが並び、出演アーティストのファンからの応援が、リアルさながら、形になって見えている。

記者もフェスに参加してみたが、慣れない仮想空間にとまどっていると…

スタッフ:
こんにちは~!スタッフです。何かわからないこととかありましたか? 今、壁にぶつかっているのが見えたので

記者:
そうなんです!ライブ会場に行きたいんですけれど…

リアルと変わらず、イベントスタッフが話しかけてくれ、仮想空間でもしっかりと人の温かみを感じた。
こうしたイベントスタッフのように、メタバースの世界にも雇用が生まれ、パソコン一つで働けることから、障害や年齢に縛られずスキルを活かせる新しいフィールドになると期待されている。

ライブ会場には、購入した「推しTシャツ」を着たアバターもいる。これは、山本部長もお気に入りの仕掛けだ。

阪急阪神ホールディングス グループ開発室 山本隆弘 部長:
コロナでなかなか外出も友達とできないという中で、やっぱり人ってしゃべりたいですし、出会いたいですよね。推し同士、会話がはずんだらいいなあと思うんですよね

大きなトラブルもなくライブは進み、大トリ、初音ミクのステージを迎えている。
山本部長、感慨もひとしおのようだ。

阪急阪神ホールディングス グループ開発室 山本隆弘 部長:
これはほんまにようやったと思うわ。メタバースになってるもんな

エンドロールが流れ、閉幕…ではなく、最後に「夏の梅田は、アツい」の文字が表示され、第2回開催の告知である。
リモートでつながったチームメンバーは大盛り上がり。やる気満々の様子だ。

阪急阪神ホールディングス グループ開発室 山本隆弘 部長:
さっき速報で8万人近い人が来場したというデータが上がっているので、一定の成功があったとは思います。お疲れ様でした。
あしたは夏に向けた仕込みの一歩目ですよ。海外の方が来やすい環境も整備しますよ。飛行機乗らんで、梅田に来られます。

街を作って120年。
激動の時代を迎えた今、闘いは仮想空間に、そして世界にまで広がっている。

(関西テレビ「報道ランナー」2022年4月12日放送)

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