DX時代のスポーツ産業をつくるため「スポーツエコシステム推進協議会(以下協議会)」が1月31日に設立し、4月19日に政財界やスポーツ関係者を招待した記念イベントが都内で開かれた。ではスポーツDXの具体的な狙いや課題は何なのか取材した。
欧米に遅れた日本のスポーツビジネス化
「日本ではスポーツが“産業化”できていない現状があります」
協議会設立の狙いを聞くと、事務局長を務める西村あさひ法律事務所の稲垣弘則弁護士はこう語り始めた。
「もともと日本プロ野球機構(=NPB)と米大リーグ(=MLB)の市場規模は1995年くらいまで同程度でした。しかし1試合当たりの平均観客動員数は日本とアメリカはそれほど変わっていないにもかかわらず、MLBではインターネットを中心とした放映権収入の高騰があり、収益に大きな差がついてしまったんです。JリーグやBリーグも、同程度またはそれ以上に欧米リーグとの差がついてしまっています」

また今回の協議会設立には「部活動の地域移行も関係する」と稲垣氏は語る。
「学校部活動の地域移行の可能性が検討される中で、経済的に困窮している家庭の生徒のスポーツ活動を支援するためには新たな財源を創出する必要があります。その手段としてトップスポーツからの資金循環を起こす仕組みづくりが検討されました。しかしそのトップスポーツ自体の産業としての収益力は、欧米と比べて見劣りしています。その現状を変えようと政府が動き出したのです」
スポーツDX実現に立ちふさがる賭博罪の壁
そこで経済産業省を中心に政府が検討しているのが「スポーツDX」だ。
「これまでプロスポーツの主な収益源は、放映権収入、チケット収入、グッズ収入、スポンサー収入でした。しかし欧米ではすでにスポーツデータビジネス、スポーツベッティング(※1)やファンタジースポーツ(※2)、NFT(※3)やスポーツトークンといったスポーツDX事業が新しい収益源となっていて、欧米との格差は更に拡大している。この分野で欧米との差を縮めないと、日本のスポーツ産業は衰退してしまいます」(稲垣氏)
(※1)スポーツの試合を対象にした賭けで、サッカーや野球、バスケットボールやアメフトなど、あらゆるスポーツが対象
(※2)オンラインスポーツシミレーションゲーム。自分がプロスポーツ球団の経営者となり実在の選手を集めてチームを作り、実際の選手の成績をポイント化して総合ポイント等を競い合う
(※3)Non-Fungible Token ブロックチェーン上に記録される代替不可能なデータ単位

ただスポーツベッティングなどは欧米のビジネスをそのまま実現しようとすると、日本では刑法上の賭博罪という法的な壁が立ちふさがる。
「アメリカではスポーツベッティングが長年禁止されていましたが、いまは過半数以上の州で合法化が進んでいます。またアメリカでは、州によってファンタジースポーツのようなスキル性が高いゲームは運の要素があっても賭博にならないのですが、日本ではアメリカと同じ仕組みを採用することは賭博罪との関係でハードルが高いという問題があります」
数千万円単位で取引されるアメリカのNFT
いまアメリカではNFTが大人気だ。スポーツ業界では、全米バスケットリーグ(NBA)のスーパースターのプレー動画のNFTがパッケージ販売されるサービスが人気を博している。これは簡単に言えばプロ野球カードのデジタル動画版がパックで販売され、同時に二次流通市場が提供されるサービスだ。

レアなNFTだと二次流通市場において数千万円単位で取引されることもあり、まさに桁違いの規模の市場が出来上がっている。こうしたNFTの市場は日本で実現する可能性があるのだろうか。
しかしこちらでも「賭博罪が壁となっている」と稲垣氏は語る。
「アメリカではNFTの販売収益は、各スポーツリーグと選手会に還元されます。日本においても同様のビジネスモデルの実現を望む企業やスポーツ団体が多くありますが、パッケージ販売と二次流通市場の提供を組み合わせると賭博ではないかという疑義が生じており、一歩踏み出せない状態です」
アメリカではスポーツで活用されるNFTビジネスには購入者が転売する二次流通市場が存在するが、日本ではこれがほとんど存在しない。そもそもの受け皿の整備で、日本はアメリカから大きく出遅れている。
選手の入場曲を決められるスポーツトークン
最後にスポーツトークンだが、こちらは主に欧州のプロサッカーチームで盛んに活用されている。
「スポーツトークンは、簡単にいうとブロックチェーン技術を活用した利益配当権のない株式のようなものです。各チームはスポーツトークンをファンらに販売し、購入者はそのチームの運営について議決権を持ちます。たとえばチームが『ホームスタジアムで選手の入場時に流す曲』を決める場合に、スポーツトークンの購入者は入場曲を決める投票に参加することができます」
しかし日本では、スポーツトークンが決済の手段として用いられると、資金決済法上の暗号資産に該当すると考えられる可能性があるという。こちらも壁は高そうだ。
スポーツベッティングの収益は子どもに使われる
アメリカでのスポーツベッティングの市場規模は既に6兆円を超えており、2025年には17兆円を超えるという予想もある。2月14日に行われたNFLスーパーボールの一日の賭け金総額だけで、8000億円にものぼっている。世界ではG7で日本以外は全てスポーツベッティングが合法化されており、世界のスポーツベッティング市場は急速に拡大しているのだ。
その収益の使い道は、スポーツ振興だけではない。
「アメリカの各州におけるスポーツベッティングの収益は、教育、福祉や依存症対策にも使われていて、各州の社会課題の解決に貢献しています。もちろん、日本におけるスポーツベッティングの合法化はハードルが高い問題ですし、不正対策など課題も山積みです。しかし賭博であると思考停止に陥るのではなく、仮に欧米のようなスポーツベッティングが実現した場合にどのような資金循環をもたらすのか、出口論も含めて議論していくべきだと考えています」(稲垣氏)
欧米から「ただ乗り」されている日本のスポーツ
最後に稲垣氏はこう語る。
「実はあまり知られていませんが、日本のスポーツもすでに海外のスポーツベッティングの対象になっています。その額は年間5兆から6兆円の規模になると言われていますが、驚くべきことにほとんど日本に資金循環が生じておらず、国富の流出ともいうべき事態が生じています。国内のスポーツベッティングの合法化以前の問題として、いかに海外のスポーツベッティング市場からの資金循環を生み出すかの方策を考えるべきです」
日本のスポーツが海外から「ただ乗り」されている状況を、ただ黙ってみていて良いのか。まずは国富の流出をいかに食い止め、さらに国内のスポーツ振興や福祉教育予算にあてていくのか、官民が早急に議論を進める必要がある。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】