再生への願いを込めて紡がれた糸から生まれたデニム商品に迫った。

着物を糸に

一見、普通の生地に見えるこのデニムだが、“ある素材”を生かした地球に優しい糸が使われている。

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東京・中目黒で開かれた新商品の発表会。三越伊勢丹など大手百貨店にも出店しているファションブランド「mister it.」が披露したのは、新作のデニムシャツやワンピース。

非常に軽い着心地だが、実は、シルクでできた着物の生地を一度糸に戻したものから作るという、繊維大手「クラボウ」が開発した日本初の技術が生かされている。

クラボウ・田中啓之さん:
着物はシルクという素材でできていて、非常に繊細な繊維なので、再利用すると強度が弱くなるなどいろいろな問題があって試行錯誤しました

まず、シルク100%の着物を裁断し、特殊な機械で毛羽立たせる。ふわふわの綿状になったら、それを紡いで糸にしていく。この糸に、ほかの繊維原料をブレンドすると生地が完成。

シルクの生地を綿状に戻すのは技術的に難しく、成功するまでに1年かかった。

このデニム生地が誕生した背景にあるのは、手放される着物の増加。

共同開発した中古品の出張買い取りサービスの「バイセル」によると、2021年の着物買い取り数は100万枚以上。コロナ禍で在宅時間が増えて、着る機会が減ったことが影響しているとみられている。

シミやホツレで着物としての再利用が難しくても、この技術を使えば日常で使える生地として再利用の幅が広がる。

バイセル フィールドセールス事業本部・谷川祥太郎本部長:
物量がどんどん増える中で、今までは断片的な取り組みになってしまっているなと感じていた。我々に着物を渡してくださるお客さまが多分にいる中で、その思いをどうにか新しい形にできないかと…

「誰かに着てほしい」「役立ってほしい」

そんな再生への願いをかなえたデニム生地。国内はもちろん海外市場も見据えている。

クラボウ・田中啓之さん:
デニムの少し武骨なイメージと着物の繊細な表情がマッチするかなと思いまして。欧米では日本よりもさらにサステナブルな考えが強く進んでいますので、そういったところに対して再利用した生地をアピールしていきたい。着物というところで日本の文化を広められるかと

(「Live News α」4月14日放送より)