豪雨による土石流の被害を受けた佐賀・神埼市の山あい。「もう一度、ふるさとの景観を取り戻す」と強く決意する住民が、土石流の被害を忘れないように鎮魂碑を建てた。

使ったのは土石流の流木。生まれ育った地区を見捨てるわけにはいかない、住みたくなる地区に復活させようと、地元住民の奮闘が続いている。

倉庫に丸太が直撃も生還「もう怖いものなし」

5メートルほどのスギの木に力強く刻まれた「鎮魂碑」の文字。

三谷地区・福成精時区長:
山の神様の魂を鎮めるというか。自然災害の恐ろしさをみんなに知ってもらいたい、そういう気持ちが一番ですね

神埼市三谷地区の福成区長
神埼市三谷地区の福成区長
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神埼市神埼町の山あいにある三谷地区は、2021年8月の豪雨で大規模な土石流に襲われた。住宅など5棟が全半壊する被害が出たが、幸いにも地区の住民約90人は無事だった。

2021年8月、豪雨による土石流被害に見舞われた
2021年8月、豪雨による土石流被害に見舞われた

あれから7カ月の月日が流れ、2022年3月にようやく本格的な復旧作業が始まった。

三谷地区・福成精時区長:
ちょうどこのあたりですごい音がした。ここに出て1歩、2歩出た時に「ドーン」ってきて。1歩下がれただけで、そのくらい土石流のスピードというのはすごいんですね。挟まって40分くらいは足が動かなくて

福成さんは、土石流の勢いで倒れた家具に挟まれた
福成さんは、土石流の勢いで倒れた家具に挟まれた

約4年前から区長を務める福成精時さん(73)。何事かと外に出たのもつかの間、土石流の勢いで倒れてきた家具などに足をはさまれたという。

三谷地区・福成精時区長:
最後、丸太の直撃を見た時は覚悟を決めたね。それからあとは、もう怖いものなしですよ。もうこれだけのことで生き延びたと言ったら

直後に撮影された上空からの写真からは、福成さんが動けなくなっていた倉庫に流木が突き刺さっているのが分かる。

福成さんが動けなくなっていた倉庫を流木が襲った
福成さんが動けなくなっていた倉庫を流木が襲った

三谷地区・福成精時区長:
天のおぼしめしというかね、なんで助かったかは分からん。なんのために助かったのか、そういうことも考えた。いろいろ考えて、ここの棚田を思い切りきれいにして後世に残そうという気持ちは強かった。このままでは絶対終わらん。そういう気持ちの方が強かった

一瞬で奪われた”6年間の苦労”

三谷地区では6年ほど前から、もともと建設関係の仕事をしていた福成さんを中心に、耕作放棄地となっていた棚田の整備を進めていた。

――これが整備する前?

三谷地区・福成精時区長:
そうそう。整備を始めた当初の頃

 
 

メンバーは、特に専門的な知識はない有志の住民約15人だ。

三谷地区・福成精時区長:
会社が休みの時にここで働いてくれている

2021年8月、土石流に見舞われる直前に撮影された写真。

土石流被害に遭う以前の三谷地区
土石流被害に遭う以前の三谷地区

6年間の苦労を土石流が一瞬にして奪っていった。

土砂に覆われてしまった棚田
土砂に覆われてしまった棚田

三谷地区・福成精時区長:
仲間に「こういう風にみんな壊されたから、やめようか」という話もしました。しかし、みんなね、今までの苦労がつゆと消えてしまうというのは忍びないからもう1回やろうと。65歳、70歳、75歳で…。カラオケ行って遊ぶよりも、こっちの方が面白かろ

故郷の景観を取り戻す「見捨てるわけにはいかない」

土石流が流れ込んだところは、しばらく手がつけられないが、住民たちは直撃を免れた花の手入れなどを地道に続けている。

――これは何の花?

三谷地区の住民:
シバザクラですね。昨年いっぱい植えましたもんね。赤、紫に白。咲いているときはきれいやけど、やっぱり手入れするときは汗かきながら。大変は大変だけどね、きれいなところをイメージしながら(手入れ)するのが楽しみの1つではある

春先には、以前植えた菜の花が土石流にも負けず、黄色の花を咲かせていた。また単に景観を整えるだけでなく、手作りの遊具も整備。

三谷地区・福成精時区長:
ちょうどここがね、元の滑り台を作っていたところ

子供たちも楽しめるようにと整備していた手作りの遊具。土石流前は、福成さんたちのひ孫世代が楽しく遊んでいた。

手作りの遊具で遊ぶ子供たち
手作りの遊具で遊ぶ子供たち

三谷地区・福成精時区長:
ダメになったというよりも、「もっときれいなものを作りなさい」という天の戒め。そういう風に考えています

もう一度、ふるさとの景観を取り戻す…。そう強く決意する中、土石流の被害を忘れないように福成さんたちが建てたのが鎮魂碑。使ったのは、土石流の流木だ。

折れた流木でつくられた鎮魂碑
折れた流木でつくられた鎮魂碑

三谷地区・福成精時区長:
この大きなスギの木が、こういう風に無残で割り箸を折ったような形になっている。やっぱり自然の恐ろしさ、力というか、そういうことが一番伝わるのではないか

三谷地区・福成精時区長:
生まれ育った地区をね…見捨てるわけにはいかないでしょ。もう一度復活して、他の人が住んでみたいなあって思ってくれたら最高やし。やり出したからには、最後まで成し遂げようって。そういう気持ちは強いです

(サガテレビ)