2021年1月の記録的な大雪により倒壊した新潟市秋葉区のガラス工場で、再建に向けた工事が進んでいる。大きな被害を受けながらも、諦めずに立ち上がろうとするガラス職人の思いを取材した。
大切に守ってきたガラス工場 新潟市を襲った大雪で倒壊…
2021年6月、新潟市秋葉区。更地となっていたこの場所に半年前まで建っていたのは、ガラス製品の製造工場だ。
石油や天然ガスが採れ、燃料が得やすいことから、かつてガラス製造が盛んだった秋葉区。

需要の減少や価格の安い輸入品の台頭で廃業が相次ぐなか、2014年にガラス職人の照井康一さん(70)が一つの工場を引き継ぎ、ガラス作りを続けてきた。その工場が『秋葉硝子』。

照井康一さん(2016年):
ガラスの製造、特に吹きガラスの拠点がなくなるのは忍びなくて

約50年の歴史を持つ工場ではジャズライブが開かれるなど、地域に親しまれる場ともなっていたが、2021年1月に新潟市などを襲った記録的な大雪により倒壊してしまった。
照井康一さん:
屋根が真ん中から折れ曲がった

工場のシンボルだった溶解炉も崩れた屋根の下敷きに。
照井康一さん:
何が起きたのだろうと夢のような状況だった

大切に守ってきた工場の倒壊にショックを隠せなかったが、それでも、そこには唯一の希望もあった。
一つ一つ心を込めて作り上げたガラス製品は、奇跡的に被害を受けず無事だったのだ。

「体験できる工房を」地域に開かれた工場再建へ
「また、ガラスを作りたい」照井さんたちは、2カ月後には無事に残った製品を販売するチャリティーイベントやクラウドファンディングで費用を募り、工場再建を目指すことを決めた。
資金集めと並行し、新たな工場のデザインの打ち合わせを行うなど、慌ただしい日々を送ってきた照井さん。

被害から1年が経ったころ工場を訪ねると、倒壊した工場の隣、もともと倉庫として使っていた建物をリノベーションする形で新たな工場の工事が進められていた。

照井さんは、この新たな工場に、今までなかったあるスペースを作る構想を練っている。
照井康一さん:
ここは、ステンドグラスとバーナーワークの工房を作る予定。教室と体験目的。

「一般の人もガラス作りを体験できる工房を」多くの人から寄せられた今回の支援に応えるため、ただ再建するのではなく、地域に開かれた場所にしたいとの思いを込めている。

照井康一さん:
工場倒壊前、体験はほとんどやっていなかった。要はいかに楽しい場所になるか

工場完成を前にガラス作り再開 弟子とともに新たなスタート
“楽しい工場”を目指し、工事が進められるなか、秋葉硝子は再建に向け、大きな一歩を踏み出した。
この日、工事の完了より一足早く、新たに調達した溶解炉が完成。設備はまだ整っていないが、倒壊被害から1年以上が経ち、照井さんのガラス作りが再開した。

(Q.久しぶりに再開して)
照井康一さん:
やっぱりうれしい。体が覚えている

久しぶりの感覚を噛みしめる照井さん。その隣には一人の若者の姿が。
新潟市内の大学を卒業したばかりの沢口萌恵さんは、ガラス職人を目指し、工場の倒壊前から照井さんに弟子入りを志願していた。

沢口萌恵さん:
倒壊時は「もう、ガラスが作れないのか」と心配したが、すぐに照井さんが「またやる」と言ってくれたので希望が見えた

こうした存在も、照井さんが工場再建を目指した理由の一つだった。
照井康一さん:
どうやって、ガラスという素材を若い方が生かしてくれるか。僕の知らない発見が多分あると思う

次の世代に技術を継承しながら、自らも新たな挑戦を考えている。
照井康一さん:
ガラスという素材で何を表現できるのか、今まで自分ができなかった仕事にチャレンジしてみたい

再び立ち上がったガラス工場が、新たな歴史を刻んでいく。
(NST新潟総合テレビ)