なぜ、井上尚弥選手はそんなに強いのか。

4月10日放送の「ジャンクSPORTS」(フジテレビ系)は3時間SP。「井上尚弥の奥の奥」ではボクシングの井上選手を徹底解剖。彼の強さの秘密を本人と共に探った。

この記事の画像(9枚)

4秒先を生きています!

これまで圧倒的な強さで衝撃的なKOの山を築いてきた“モンスター”井上選手の、特に記憶に残っている試合ベストバウト6を紹介しつつ、当時のことを本人の解説と共に振り返っていく。

1つ目、2018年WBA世界バンタム級タイトルマッチ。井上選手の相手は、WBA世界バンタム級王者のジェイミー・マクドネル。10年で一度も負けがないという強敵だが、第1ラウンド約90秒で最初のダウンを奪う。

猛ラッシュを仕掛けた井上選手が圧倒し、112秒でKO。10年間負けなしの相手を、わずか1Rでねじ伏せたのだ。

2つ目は、2018年に挑んだ世界中のボクシングファンが注目する一大イベントWBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)。複数のボクシング団体の世界王者などが参戦し、その階級の真の世界一を決める大会だ。

相手は元世界王者で、KO負けのないフアン・カルロス・パヤノ。井上選手は、試合開始から約70秒でKO勝ちを決め、世界を震撼させた。この試合で繰り出したパンチの数は4発。

対戦相手のパヤノも「すべてにおいて圧倒的に別次元!彼を倒せる人間は誰もいないだろう」と白旗を揚げた。

この衝撃的すぎるKOはアメリカで最も権威あるボクシング誌のKOオブ・ザ・イヤーにも選出された。

この一戦について井上選手は「一つの光が差すように、“ここから入って打ったら当たって倒せるだろう”っていうのがあった。自分の中であの試合が長引くと思っていたんです。まぁ、リング上で対面したときは相手がサウスポーで構えが半身深かったので、パンチが当てにくい印象がありましたが、最後のワンツーは降りてきました」と振り返る。

この試合で解説を務めていた長谷川穂積さんは「山中慎介くんも一緒に解説していて、一言もしゃべらんと帰りました。今からっていう前に終わってしまったんで」と笑う。

そんな長谷川さんは井上選手について「相手の動きを読む力がすごい。4秒先を生きている」と称賛する。

「何気なく倒したパンチも実は4秒前から計算していて、“こう動いたらこっちに動いて、このパンチ出したら、このパンチが返ってきた”みたいなことを計算して倒してるんじゃないかと思う」と推測する長谷川さん。

井上選手が「その通り」とドヤ顔を見せると、番組MCの浜田雅功さんから「4秒後に俺にド突かれるって見えてる?」とツッコむ。

「将棋と同じで、自分がこういう動きをしたら、相手がどう反応してくるか、そこを読んで、対応してきたものに対して、自分がどう対応するか、2手3手先を読みながらパンチを出します」と井上選手は話し、一瞬で駆け引きしながらやっていると説明した。

井上尚弥はリング上で瞬時に計算している?

3つ目は、2019年WBSS準決勝。相手はIBF世界バンタム級王者、エマヌエル・ロドリゲス。

19戦無敗の強敵だが、第2ラウンドで左のカウンターで早くもダウンを奪うと、強烈なボディーをお見舞いし、2度目のダウン。無敗の王者の心まで打ち砕く、圧倒的な強さを見せつけた。

4つ目は、2021年のマイケル・ダスマリナス戦。井上の強烈ボディーの威力に、相手は悶絶し、リング上に横たわった。

そんな戦慄ボディーの衝撃を世界にとどろかせたのが、5つ目の2014年に当時21歳の井上選手が挑んだ“生ける伝説”との一戦。

相手は12年間で27度の防衛回数を誇り、プロアマ通じて159戦で一度もダウンしたことがないオマール・ナルバエス。

デビューしてまだ8戦目の井上選手にとってこの挑戦は「時期尚早」「無謀」との声も上がったが、試合開始わずか30秒でダウン経験なしの王者をガードの上から打ち込んだ右ストレートで吹き飛ばした。第2ラウンドでは、強烈ボディーで王者をノックアウト。

当時、世界最速の2階級制覇を成し遂げた。

この戦いについても井上選手は「最初、ジャブ・ジャブからのボディーを打って、そのときにもう1回この攻撃のパターンを仕掛けたら同じ動きで下がるって思ったんです。自分が攻撃をしたから、それを避けるために避けたのではなく、もう癖でそういう下がり方をしたんだと思って」と計算して狙って倒したと解説。

瞬時に判断して攻撃を仕掛ける井上選手の解説を聞いた長谷川さんは「僕は2秒先まで、4秒はムリですね」と苦笑する。一方、八重樫東さんは「僕は今を生きているんで。駆け引きとか得意じゃないので。やっぱり勝ちに行くっていうハートが大事だから」とそれぞれの戦法があるとした。

自分の血に「うわー!」って興奮

6つ目は2019年、WBSS決勝。相手は5階級王者で高校時代、井上選手の憧れだったノニト・ドネア。

第1ラウンドはいつものように果敢に攻めていったが、第2ラウンドでドネアの左フックが井上選手の顔面を直撃。

今までで一度も顔に傷を負ったことのない井上選手だが、まぶたの上をカットし、人生初の試合中に出血。それでも的確にパンチを当て、有利に試合を運んでいたが、第9ラウンドで右ストレートを食らい、人生初のクリンチ。

そんなピンチの中でも第11ラウンドに井上選手の左ボディーが効き、ダウンを奪うと試合終了。結果は3-0の判定勝ちだった。

激闘を終えた井上選手をそばで見守っていた大橋会長によると、「ドネアと試合が終わった後、医務室に連れて行くときに『疲れた』って言うと思っていたら、『いや~楽しかった』って言っていたのがすごく強烈でした」と明かした。

この一戦について井上選手は「初めて自分の血を見たときに興奮しちゃって。うわー!って。今までこういう激闘をしたことがなかったので、すごい興奮してきちゃって。もうめちゃくちゃ楽しかったです」と振り返る。

浜田さんが「めっちゃ痛いやんとかないの?」と聞くが、「これがボクシングかって思っていました。今までは前半で倒すことが多かったので、あんまり満足することがなかった」とプチ自慢。

目を負傷しながらの戦いに「見えにくかったです。2ラウンド目に眼窩底折れちゃって。その瞬間に二重に見えちゃったりしていて、右手で右目を隠して、焦点を左目で合わせて戦っていました」と明かした。

この試合でも解説を務めていた長谷川さんは「WBSS決勝というプレッシャーの中で、途中でパンチもらった時クリンチしたと思うんですけど、あれは井上選手の強さだと思う。あんまりクリンチはしたくない。でも本当に強い人はピンチの時に自分を守るためにクリンチして、もう一回立て直してやれるところが、強いところだなと思いました」と話す。

一方の井上選手は「クリンチをしたことがなくて、一応練習は想像でしていたんですけど、あの試合終わって言われたのが、『井上尚弥、クリンチ下手じゃね?』って。確かに、見直したら危ないクリンチしていた」と苦笑した。

そんな最大のライバルとの再戦を6月に行う井上選手。

「自分は13ラウンド目からスタートするような感覚。12ラウンドやって手の内を知り尽くしているので。ただ、ドネアに言いたいのは、2ラウンド目からは俺は片目で戦っていたと。13ラウンド目から戦う俺は両目だぞ!とそこを言いたいです」とアピールした。

たか~い時計を買ってモチベーション維持

さらに、井上選手の強さの秘密をひも解いていく。

同じジムの後輩で元K-1 王者の武居由樹さんは、「いろんな選手と対戦したけど、井上選手が一番怖かった。殺されるような感じがした」と慄く。

そんな彼の強さの秘密は「距離」だという。「尚弥さんだけは、距離関係なく、尚弥さんが当てる距離にいる」と武居さんが語るように、長谷川さんも「自分の絶対的な空間を持っている」と同意する。

「相手が5センチ出てきたら、5センチ下がったり、センチ単位で微調整して動いて、足だけじゃなくジャブで相手にダメージを与えながら、その距離をキープしている。相手からするとジャブももらってダメージたまるし、自分の距離で戦わせてくれない。気がついたら、井上選手の距離で自分の距離をつぶされて、あとはやられたい放題」と長谷川さんは解説した。

さらに、井上選手は、自身のモチベーションの維持について「今までは試合をすることが楽しくてやっていましたけど、最近は試合前か後で時計を買うことが多い」と話し、過去には約1200万円の時計を買ったと明かし、浜田さんを驚かせた。

最後に八重樫さんから「現役引退後にやりたいこと」について聞かれた井上選手は「もう考えなきゃいけない時期ではあるんですけど、このボクシングくらい情熱を注げるものがないとやりきれないなということも感じている」と語る。

八重樫さんはセカンドキャリアに、ボクサーのアスリートサポートとして軽貨物運送業をしているといい、現役引退後にはぜひ、と井上選手を誘った。

今後の目標については、「まずは6月のドネア戦」としつつも、「そこをクリアして、スーパーバンタム級で1階級上げるか、バンタム級に残って新たな挑戦者を探すかの二択になります」と話し、井上選手がどう選択するのか、長谷川さんも八重樫さんも期待を募らせた。

(『ジャンクSPORTS』毎週日曜日夜7:00~8:00放送)