ロシアの諜報機関の工作員620人の人物情報がウクライナ当局に暴露され、組織が「丸裸」同然になった。

ウクライナ軍情報部は3月28日「欧州の侵略国の犯罪活動に関与したFSB(ロシア連邦保安庁)の雇員」のリストを公表したとツイッターで発表した。

ウクライナ軍情報部のツイッター投稿画面
ウクライナ軍情報部のツイッター投稿画面
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ウクライナ側が暴露したスパイリストの中身

そのリンク先にあるリストは、冒頭に「ウクライナは世界を守っている」という言葉と、今回のロシアの侵攻が始まって以来の日、時、分を告げる数字が掲げられている。

続いて、FSBの巨大な本部ビルの写真と620人の氏名が列挙され、それぞれ生年月日や出生地、FSBでの経歴、住所や電話番号、Eメールアドレス、さらには旅券番号や所有車のナンバーなどが記載されている。

公開された“ロシア工作員”リスト(※個人名部分は編集部で加工しています)
公開された“ロシア工作員”リスト(※個人名部分は編集部で加工しています)

ちなみに、リストの1番目の人物情報を翻訳アプリでロシア語から翻訳するとこうなった。

「1XXX・XXXX・XXXXXX(氏名は伏せる)、03/22/1977(生年月日?)、3802688956(不明), 01/10/2002(採用年月日?)、モスクワ、B.LUBYANKA(ルビヤンカ=FSB本部所在地)、2VCh、連邦情報局、RF、+79773401033(電話番号?)、E54FD81C33BF8586B151B2ABD2345EBE(?)、TV(1)、2395;(?)」

45歳の職員で、現住所はFSBの本部所在地になっているので本部要員であろうと推測するがそれ以上のことは私には理解できない。しかし、これをロシアの情報活動に詳しい人物が読めば組織のさまざまな秘密を読み解くことができるのだろう。

現にこのリストが公表された翌29日、ベルギー、オランダ、アイルランドは一部のロシア外交官をスパイ活動に関与したとして国外追放にした。リスト公表が端緒になったかどうかは定かではないが、リストの名前と旅券番号などを参照すれば「隠れFSB」の外交官はすぐに分かったはずだ。

ジェームズ・ボンドきどりの人物も?

中にはskype名をjamesbond007(ジェームスボンド007)と、スパイ小説の主人公きどりの人物もいるようだが、自身の情報がこれほどまでに詳しく暴露されてしまっては、本物の007が存在すれば赤面の至りだろう。

今回の工作員のリストの漏洩は、ウクライナ軍情報部のハッキングによるものと考えられており、情報戦でもロシア側が苦戦を強いられている様子が窺える。

FSBはソ連時代のKGB(国家保安委員会)が解体された後、ロシア連邦の防諜、犯罪対策を行う治安組織として再編された。その権限は初め国内と旧ソ連邦内に限られていたが、プーチン大統領が長官を務めた1998年ごろから活動範囲を拡大して国際的に工作員を潜入させていると言われる。

今回のウクライナ侵攻作戦でも、事前に数多くのFSB工作員が情報収集を行い、その結果「ウクライナ国民のロシアへの支持は高い」と最終報告をまとめていた。プーチン大統領はそれを頼りに軍事作戦を指示しながら、ウクライナ側の激しい抵抗にあって激怒し、FSBの対外諜報部のトップと次長を逮捕、自宅軟禁にしている他ウクライナ評価に関わった多数の工作員の周辺を捜索したと伝わる。

さらに今回はウクライナ側に組織が「丸裸」同然にされたわけで、FSBは今後ロシア国内、国外を問わず諜報活動に支障をきたし、その存在をも揺るがすことになりかねない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。