那覇市の与儀公園に展示されている蒸気機関車・通称「D51」。長年地域の人たちから親しまれているが、それがどこから来たのか、なぜそこにあるのかを知らない人も多いのではないか?
海を渡ってやってきた蒸気機関車には、復帰して間もない沖縄を思う県外の人たちの思いが込められていた。

鹿児島から海を渡ってきた蒸気機関車

高さ4メートル、全長20メートル、重さ90トン。

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那覇市の与儀公園にある蒸気機関車D51は、沖縄の本土復帰の翌年の1973年に鹿児島県から海をわたって沖縄にやってきた。

50年前に真和志小学校5年生だった 大城武さん:
もう見たままで「欲しいな」って言って、しばらくしたら「本当に来たよ!」っていうのが小学生の素直な気持ちだと思います

2022年3月、那覇市が開いた市民講座のタイトルは「デゴイチものがたり」、約20人の市民が参加した。

那覇市歴史博物館 外間政明学芸員:
この電車は、昭和9年に沖縄県営鉄道開通20周年記念の列車らしいんですけど、こういうのがかつての沖縄に走っていた。すごくいいなって感じはします

かつて存在した鉄道は沖縄戦で姿を消す

今から100年以上前に誕生した軽便鉄道は、沖縄の主要な交通の一つとして人の移動だけでなく、サトウキビなどの運搬も担っていたが、沖縄戦で姿を消した。

那覇市歴史博物館 外間政明学芸員:
本土復帰を迎えた沖縄の子どもたちに、本土の雰囲気を味わってもらおうということで、北九州の門司駅の職員だった山田辰二郎さんたちが発案して、沖縄の子どもに大和に来てもらって、大和の雰囲気を味わってもらう

国鉄の職員たちが沖縄の本土復帰を記念して実施したイベントは、沖縄の子どもたちを約1週間、北九州に招いて職員の家でホームステイさせるというものだった。

講座には、50年前のイベントに参加した当時の子どもたちの姿があった。

50年前に与儀小学校5年生だった 城間悟さん:
内地にいけると、あの時は復帰して本土なんかいったこともないし、テレビでしか見たことがないところいけるよって言ったら喜んでですね、手を挙げました

キラキラと目を輝かせる子どもたち…沖縄に蒸気機関車を贈るプロジェクト

国鉄職員たちに連れられて向かった先は、福岡・北九州市にある門司の車両基地だった。

50年前に真和志小学校5年生だった 大城武さん:
沖縄の田舎者の5年生は、「え!これ欲しいな! 」って言っていた。僕も絶対言っています

キラキラと目を輝かせる子どもたちの声に応えようと、鉄道のない沖縄に蒸気機関車を贈るプロジェクトが立ち上がった。
国鉄職員の呼びかけにより1400万円の寄付が集まり、子どもたちが北九州を訪れてから約半年後、D51は海を渡った。

D51は子どもたちの憧れの的になった。

那覇市歴史博物館 外間政明学芸員:
沖縄は戦争という大きなことがあって、アメリカの支配で日本と同じような陸上交通というのが展開できなくて…D51だったり、かつて沖縄の苦難をしのばせる、そういったものに対する人々の思いが詰まっています

九州で目の当たりにした鉄道…子どもたちの人生にも深く関わる

50年前に真和志小学校5年生だった 大城武さん:
こんな一番前にいますね、張り切っていたでしょうね

大城さんは、現在校長として小学校に務めている。

50年前に真和志小学校5年生だった 大城武さん:
沖縄を思う他府県の人の優しさ、沖縄にいる我々の他府県を見るこの目線がすごく深く感じる。一番は、本当に沖縄を思ってくれてありがとうと。今、本当に改めてわかります

同じく北九州市を訪れた城間悟さんは那覇市役所に勤め、モノレール事業や現在、市が導入を検討している路面電車の事業計画にもかかわっている。

50年前に与儀小学校5年生だった 城間悟さん:
私の人生、ずっとこの経験が大きくなっているのは、沖縄にぜひ鉄道を1回やりたいよねとか、私は市役所の職員ですけど、モノレールの事業にも関わらせてもらって、この経験がベースになっていると思います

さらに、こんな縁もあった。

50年前に与儀小学校5年生だった 城間悟さん:
妻とは高校のとき付き合って、「あのとき行ったの!?」みたいなのがあって大きく縁になっていて、私の人生のすごいスタート地点にも、もしかするとなっているのだろうなと思っています

妻・えり子さん:
待ち合わせはD51の前で、みたいなこともありまして、青春の思い出の場所

講座を企画したのは、那覇市教育委員会で働く川口千賀子さん。
仕事で近くに立ち寄るたびに、D51の前にたたずみ当時に思いをはせていた。

那覇市歴史博物館 外間政明学芸員 川口千賀子さん:
いつか何か講座ができないかなというのがありました。今回復帰50周年、ターニングポイントかなと。皆さんのおかげで開催できたことに感謝しています

本土に復帰したばかりの沖縄の子どもたちの夢を叶えようと寄せられた善意。
市民が憩う公園の顔D51には心温まるエピソードがあった。

(沖縄テレビ)

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