ウクライナからの避難民受け入れの最前線となっているのが隣国ポーランドだ。戦争開始からわずか3週間足らずで、すでに200万人を超える避難民が流入しているポーランドの現状を、宮島昭夫駐ポーランド日本大使に聞いた。

戦闘が激しさを増し手提げ1つの避難民も
「いまはこの国境では避難民が1日4万人程度でほとんど渋滞が無くなりましたが、侵攻開始当時は約14万人いましたので、国境で8時間程度待たなければいけませんでした」
宮島氏は3月5日、ウクライナと国境を接する南東部のメディカに現地入りした。メディカでは支援団体やボランティアなどが避難民を迎え入れている。入国には基本的にパスポートやビザが必要だが、いまは身分を証明するものがあれば入国可能だという。

国境で入国手続きが終わった避難民は無料バスでメディカに来て、ボランティアから温かいスープなどを振舞われ、首都ワルシャワなどに向かうバスに乗り換えるか、この周辺に滞在するか決めるという。
「避難民の様子も変わってきていて、当初は自分の車にスーツケースを乗せてくる避難民もいました。しかし戦闘が激しさを増しているいまは、飛び出すように逃げてきたという人が増えていて、小さな手提げ1つという方もいると聞いています」

無料のSIMカードやミルク、生理用品を提供
ワルシャワにある日本大使館では、ポーランド南部のジェシュフにある連絡事務所とともに、現地での支援活動の情報収集や、ウクライナに残っている日本人の安否や帰国の意向の確認を行っている。宮島氏は2020年11月にポーランドに大使として着任。現在ウクライナの隣国の最前線で陣頭指揮を執っている。

ワルシャワでも避難民を受け入れる施設が次々と設置されている。宮島氏はこう語る。
「国境から最初に向かう大きな街がワルシャワです。多くの避難民はまさに着の身着のままで、まずは避難施設で温かい食事を取って一時休みます。ボランティアは何が必要なのかを避難民から聞き取りして、例えば住むところがないのであれば手配したり、別の都市への車をアレンジしたり、無料のSIMカード、女性や赤ちゃんも多く、シャンプー、ミルクや生理用品などを渡したりします。また衣類や靴も様々なサイズのものがあります」

ただ「ここでもミスマッチの問題が起きつつある」と宮島氏はいう。
「衣服などはどんどん運び込まれてきて整理整頓が十分で無く、どうしてもいわゆるミスマッチが生じます。私は3.11の時、首相官邸危機管理センターで各国の支援物資の受け入れを担当しました。当時も世界中から善意が集まるのはありがたかったのですが、実際に必要とするものが必ずしも被災地の人々に届きにくいとう問題がありました」

「オリガミ」子どもの笑顔は未来への希望
ウクライナからの鉄道が停まる国境に近いプシェミシルの駅で、宮島氏は女性だけの家族に出会った。
「成人男性が国外に出られないので、避難民は女性が圧倒的に多いです。訪れた日は自宅にあった折り紙セットをとりあえず持参しました。ウクライナ語も分からず誰にも声をかけられず、たまたま眼の合ったお母さんに折り紙を渡そうとしたら、女の子が目ざとく見つけて、彼女の方から『オリガミ』と言って寄ってきてくれました」
そしてこの家族と撮ったのがこちらの写真だ。

「折り紙を渡したら、ウィンクしてくれたんです。正直かなり落ち込んでいたので、私自身この子の笑顔に救われた感じがしました。これを見ていたお母さんの表情も明るくなり、それじゃ一緒に撮りましょうかと言って、撮影したのがこの写真です。連絡先も聞けなかったので、送ってあげられないのが心残りです。いつでもどこでも子どもの笑顔は未来への希望です」

より多くの日本人にポーランドの現場をみてほしい
宮島氏に筆者は「いま日本でも様々な形で支援をしたいと考えている人々がいるが、現地では何が求められているか」と聞いた。
「ウクライナ国内でいま一番必要とされているのは、医薬品と食糧だと言われています。しかしポーランドにいる避難民が必要としているものは当然違います。多くの女性や子供たちの避難生活はこれからも続きます。仕事や教育、社会的ケアも必要です」

そして宮島氏はこう続けた。
「日本の方々に募金をして頂いたり、日本国内でウクライナの方々を暖かく受け入れて頂くのは本当にありがたいと思います。一方でポーランドは安全ですので、やはり日本からより多くの方に来て頂いて、現場を見て何ができるか考え、ポーランドや世界各国のボランティアと汗を流して頂くことも1つだと思います」
それぞれが考え行動することから、小さくても一歩が始まるはずだ。

(写真撮影:宮島昭夫駐ポーランド日本大使)
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】