シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。
今回は歯科口腔外科の専門医、日本顎関節学会の指導医で、幸町歯科口腔外科医院の宮本日出院長がコロナ禍で増えているといわれる顎関節症の原因や治療法について解説。コロナ禍の生活で悪化する理由や自分でできる見分け方などについて語る。
この記事の画像(17枚)顎関節症とは
顎関節症は、顎の関節の周りの筋肉に痛みが出る、顎の関節にも痛みが出るかもしれません。そして口を開けたときに音がする、口が開かない。
今お話した症状の一つでもあれば顎関節症です。ただし、その他の病気があって痛みや口が開かない場合は顎関節症とは言わないです。
顎関節と言ってもピンとこない方も多いですよね。というのも見えないからなんです。顎関節は耳の前、ここが顎関節になります。
そして顎の周りの筋肉というと、下顎の辺りやあるいはこのオレンジ色の辺りに筋肉がついています。
最近コロナ禍が長引いてストレスを抱える人がたくさん増えてきましたので、世界的に顎関節症の患者さんが増えていると言われています。
許容量には個人差あるが、顎関節はすごく順応性が高い
顎関節症、顎の関節の許容量には個人差があります。例えば大きくてペットボトルみたいに500ccの人がいたり、あるいは許容量が小さくて小さいペットボトル250ccの人もいたりします。その許容量の中に、歯ぎしりだったり、姿勢だったり、生活習慣とかの原因が入ってきます。
このキャパ(許容量)を超えたとき、溢れたときに顎関節症となって現れます。通常皆さん最後に入ってきた原因を取り除こうとするんですが、実はそんな必要はないです。ここに溜まっている原因のどれかを取り除いて溢れないようにすれば顎関節症は対応できます。
歯列矯正は歯並びが良くなるわけなんですよね。歯並びが良くなるということは噛み合わせも良くなる。つまり顎に無理がかからないんです。
ですので顎関節学会では歯列矯正と顎関節症には因果関係はないと現在のところ判断しています。顎関節って実はすごく順応性が高いです。例えば子供の歯の時、大人の歯、そして入れ歯、いろいろ噛み合わせが変わっても顎の関節はその状態に順応してくれます。
ですから多少噛み合わせが変わったから、そういうことで顎の関節は影響を受けにくいです。
マスク生活で悪化してから見つかるケース増加…自分でできる見分け方
最近リモートになってパソコンとかスマホをする人が増えました。すると、皆さん猫背になっちゃうんですよね。実はこの姿勢も顎の関節への負担が大きいです。
通常姿勢をまっすぐにしていると、下あごは頭に対してまっすぐ下にきます。ところがスマホなんかするときに前向きになると、顎も不安定になっていつもと違う位置に行くんですね。たったこれだけと思うかもしれませんが、それが積もり重なって顎関節症になっていくんです。
コロナ禍でマスクをしているため、悪化してから見つかるパターンがとても増えているんです。マスクをしていると口を開けないじゃないですか。ですから症状を見つけにくいんです。
実は顎関節は、1つの顎に2つ同じ関節があるという、とても珍しい関節なんです。そしてこの両方の関節が同時に同じ動きをしないといけないんです。そうすることで初めて顎がまっすぐ開くんです。
斜めに開くということはどちらかの関節が動いていない可能性があります。
それを見分けるのは、鏡の前に立っていただいて何かを鼻から真下に下ろして基準になるものを置いてみてください。
鏡の前でまっすぐ口を開けて、ゆがみがなければOKです。ですが口を開けたときに、どちらかに歪んでしまう場合その場合は顎の関節が悪いです。
ワンフィンガー、ツーフィンガー、スリーフィンガーの法則
そして口が開くかどうかを見分けるポイントがあります。僕はワンフィンガー、ツーフィンガー、スリーフィンガーの法則と言っています。
指1本をワンフィンガー、指2本をツーフィンガー、そして指3本をスリーフィンガーと言います。ただ、これは日本顎関節学会で推奨している方法ではないです。あくまで僕の個人的なことをお伝えします。
まずワンフィンガー、これが口に入るかどうか、このワンフィンガーも入らない場合は顎関節症よりももっと重い病気になっている可能性がありますから、すぐ歯科医院を受診してください。
そして次にツーフィンガー。ツーフィンガーが入らない場合は顎関節症の急性期です。この急性期は早く治療するとすぐ治ることが多いです。ですからこの場合もすぐに歯科医院を受診してください。
続いてスリーフィンガー、スリーフィンガーが入れば正常です。ツーフィンガーは入るけれどもスリーフィンガーが入らない場合は顎関節症が慢性化している可能性があります。歯科医院で相談してみてください。
顎関節症の治療法
まず治療法としては、顎の筋肉をマッサージするとか筋肉を伸ばします。口を開けるストレッチをする、あるいは口の中にマウスピースのような装置を入れて筋肉を伸ばしたりする方法があります。
でも顎を動かした時にとても痛いときは、逆にこれをやっちゃいけないです。
先に薬を飲んだり、場合によっては顎の関節に注射をすることもあるんですが、安静で行うことも必要です。
通常は、上の歯と下の歯、少し1ミリから2ミリ程度空いているのが普通なんです。ですが案外と無意識で上下の歯が接していることが多いです。これを「歯列接触癖」、専門用語ではTCHと言いますが、ストレスがあるとこの癖が出やすいです。特にコロナ禍ではストレスだらけですからこの癖を持つ人が多いです。
そしてこの癖があると顎関節症の発症リスクが2倍になります。
この場合、自分で自分の癖を見つけるというのはなかなか難しいです。例えば付箋に「噛みしめ注意」とかスマホのリマインド機能を使って自分に注意喚起するとか、そうやって自分で意識すると噛みしめはなくなっていきます。
以前は、治さないといけない病気だと言われていました。ですが、30年前に僕の師匠である先生がある論文を発表しました。
どんな論文かと言いますと「顎関節症は自然治癒もする場合がある」というものなんです。ですから顎関節症になったからといって必ず治療が必要とは限りません。様子を見ていい場合もあります。
ただここに落とし穴があって、自分が様子を見ていいのか、あるいは治療しないといけないのか、なかなか見分けられないんですね。ですから、痛み、あるいは口が開かない、3日以上続いた場合、この場合は歯科医院を受診してください。