ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に、アメリカ政府は次々と経済制裁を発動。強気の背景にはアメリカ国民の支持がある。だが、米政府はあくまで軍隊は派遣しない方針で、ロシアの攻撃を今すぐ止める手だてはないのが実情だ。悩めるバイデン政権の次の一手とは。

約10分の演説で21回呼び捨て

FNNワシントン支局・中西孝介記者:
ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対し、アメリカは対抗策を次々と打ち出しています。ウクライナに対して約1400億円の軍事支援を行ったり、1.6兆円の人道・軍事予算の確保も成立しました。さらに水面下でロシア軍の情報提供も行っています。

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経済制裁も行っています。ロシアの銀行とのドル取引の停止、プーチン大統領や側近への制裁、ロシア産の原油などの輸入禁止などです。

アメリカ国民の生活に影響を及ぼすものもあり、政府は“かつてない規模の制裁”として強調しています。この強気の背景には、アメリカ世論の変化があります。

実は、ウクライナ侵攻が始まった最初の頃、アメリカ国民の関心は国内の物価の急上昇にありました。つまり、当初はウクライナに目が向いていませんでした。しかし、あまりにひどいウクライナの状況が連日報道されると、ウクライナを支援しロシアを制裁すべきだという声が一気に高まりました。

ガソリン価格の上昇を招くため、難しいと思われていたロシア産原油の輸入禁止も79%の国民が支持し、バイデン政権を後押しして実現しました。

そうした中、バイデン大統領は3月8日に行われた演説でプーチン大統領を批判し、何度も呼び捨てたんです。

バイデン大統領(3月8日):
“プーチンの戦力”に再び強力な打撃を与える

バイデン大統領(3月8日):
“プーチンの戦争”への資金提供には反対だ

バイデン大統領(3月8日):
“プーチンの侵略”に団結することが、最大の関心事だ

バイデン大統領(3月8日):
“プーチンの値上げ(インフレ)”を最小限に抑える

バイデン大統領(3月8日):
平和と安定への“プーチンの暴力”に対応する

FNNワシントン支局・中西孝介記者:
演説は10分ほどだったにもかかわらず、その中で21回もプーチン大統領を呼び捨てにして批判しました。つまり、30秒に1回「プーチン」と呼び捨てにしたことになります。「プーチンの戦力」「プーチンの戦争」「プーチンの侵略」「プーチンの暴力」と、この戦争の責任が“プーチンにある”ということを印象づけたのです。

こうした姿勢も影響して、バイデン大統領の支持率は今上昇しています。

ゼレンスキー大統領の”不測の事態”に備え議論か

FNNワシントン支局・中西孝介記者:
そしてもう一つ。アメリカでは今、ウクライナのゼレンスキー大統領の人気が急上昇しているんです。これまでアメリカ国内では、ゼレンスキー大統領のことはほとんど知られていませんでした。しかし、彼の演説に心を打たれるアメリカの国民が大幅に増えています。

SNSでは、大統領の動画を見た女性から「ゼレンスキー大統領が抑えられないほど好き」「彼はとてもセクシーだ」という声も上がっています。そして、男性や子供からも「ゼレンスキー大統領はヒーローだ」という声が上がっているんです。

こうした世論が、バイデン政権にロシアへの対抗策を強化するべきだという後押しをしている事情があるんです。

加藤綾子キャスター:
バイデン大統領は、軍の派遣などには慎重だと伝えられていますけれども、そういった支援についてアメリカ国民はどう思っているんですか?

FNNワシントン支局・中西孝介記者:
軍事侵攻が始まる前も、そして始まった後も、アメリカ国民の大多数はウクライナに軍隊を派遣することには反対しています。その理由としては、アメリカとロシアがもし戦争になってしまうと、第3次世界大戦になる恐れがあること。そして、核兵器を使った核戦争になることを認識しているからなのです。そうした声も踏まえて、バイデン大統領はウクライナにアメリカ軍は派遣しないという方針を打ち出して、現状この方針が揺らぐ気配はありません。

加藤綾子キャスター:
となると、アメリカの次の一手というのは何になるんでしょうか?

FNNワシントン支局・中西孝介記者:
ここが非常に難しいところなのです。今、ロシア軍は首都のキエフの攻撃を強めていると言われていますが、CIAのバーンズ長官は先週、「プーチンは民間人の犠牲を顧みず、ウクライナ軍を粉砕しようとするだろう」とも述べています。

そしてアメリカは、もしゼレンスキー大統領がロシアに捕まってしまった場合、そして殺害された場合に備えて対応を議論しているとも報じられています。ここでポイントとなるのが、ロシアに都合の良い政権を阻止することなんです。

仮に首都キエフが陥落し、ゼレンスキー大統領の身に何かあったとします。そして、プーチン大統領がロシア寄りの政権を作ったとします。その時はアメリカが支援をして、別の指導者を立てて「正統な政府」として擁立し、ロシアの都合の良い政権に対抗することで、ロシアの思い通りにさせないようにしているんです。

このように様々な対応を考えているバイデン政権ですが、その足元を揺さぶっているのが、トランプ前大統領です。バイデン大統領を厳しく批判しています。

トランプ氏が大統領だったら侵攻はなかった?

トランプ前大統領(2月26日):
プーチンが賢いことが問題ではない。もちろん彼は賢いが、本当の問題は我々の指導者(バイデン大統領)がバカだということです

FNNワシントン支局・中西孝介記者:
このようにトランプ前大統領がバイデン大統領を厳しく批判する背景には、「俺だったらプーチンに軍事侵攻をさせなかった」という自負があるからです。

実際に最新の世論調査でも、アメリカ国民の4割以上がトランプ氏がもしまだ大統領であれば、プーチン大統領は侵攻しなかったという考えに賛成しています。

11月に中間選挙も控える中で、トランプ前大統領にはバイデン大統領を弱いリーダーとして印象づける狙いもあります。

こうした弱腰批判を受けるバイデン大統領。今後、ロシアが化学兵器や核兵器を使用するなど、事態がエスカレートした場合にはどうなるのか。その時、アメリカ世論が軍の派遣を後押しするのかしないのかがポイントになってきそうです。

今、バイデン大統領としては、国民の血は流したくない。しかし、ウクライナを見捨てるわけにもいかない。この難しい問題をどう解決するのかに悩んでいます。バイデン大統領が次の一手を繰り出したときに、日本や世界にも大きな影響が生じるかもしれません。

特殊部隊の投入、ロシアの通信傍受も

加藤綾子キャスター:
プーチン大統領は、第3次世界大戦にしたくないというアメリカの足元を見ていますし、長引くほどアメリカも次の一手を次々と出さなければいけないという、本当に厳しい状況だと思います。

住田裕子弁護士:
第3次世界大戦にしないための軍隊を派遣しないという、今の建前は重要だと思っています。しかし、現実にアメリカは、傭兵という名の特殊部隊や情報部隊をかなり投入しています。そこで衛星を使ったりロシアの通信を傍受したりして、防衛に対してかなりの力を入れてるわけです。
また、国境周辺ではアメリカの航空機が飛び回っていて、補給や監視をしています。今後、仮に傀儡政権が立ったとしても、それに対して抵抗できるように常時支援すると思いますし、現在でも持久戦を何とか支援しているというのが実態だと思います。

加藤綾子キャスター:
公表されている情報以上にアメリカも支援しているということなんですね。

(「イット!」3月16日放送より)