澄み渡る青い空と黄金色に輝く大地はウクライナ国旗の象徴だ。しかしこの美しく平和な風景はいま、ロシアの侵攻によって戦火に巻き込まれている。

2006年にウクライナを訪れて以来、この地を撮影してきた写真家・稲田美織さんにウクライナの地と人々の話を聞いた。

写真家・稲田美織さん(左)ウクライナ人女性と
写真家・稲田美織さん(左)ウクライナ人女性と
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「自分は太陽でありたいと思っている」

インタビューの冒頭、筆者は稲田さんに「いまウクライナの平和を願う多くの日本人が、『自分は何ができるのか』と悩んでいるんですよね」と話した。すると稲田さんは「私は北風と太陽であれば、太陽でありたいと思っています。太陽とは、ウクライナの豊かさ、美しさをもっと多くの人に知ってもらうことです」と語り始めた。

稲田さんは2001年のアメリカ同時多発テロの際、世界貿易センタービルが崩壊する様をニューヨークでみた。そして宗教と争いについて考え、パレスチナやチベットなど世界各国を訪れて写真を撮り続けた。

訪れた中にあったのが、平和で信心の深い国、ウクライナだった。

稲田さんはウクライナを訪れ、多くの美しい教会を撮影した
稲田さんはウクライナを訪れ、多くの美しい教会を撮影した

「戦争が無ければウクライナにいたはずだった」

「戦争が無ければ私はウクライナにいたはずでした」

戦争が始まる直前に、首都キエフの国立博物館で稲田さんの写真展が始まった。展示されている写真は、日本の伊勢神宮を撮影したものだ。戦争が無ければ稲田さんは、写真展のために4回目のウクライナ訪問をしていたはずだった。

ウクライナ西部で撮影した少年。はにかむ笑顔が印象的だ
ウクライナ西部で撮影した少年。はにかむ笑顔が印象的だ

写真展を主催したのは、元外交官のウクライナ人だった。日本をこよなく愛していた彼女とは、開催するまで毎日のように膨大なやりとりを行っていたという。

「彼女はポーランドに避難しましたが、避難後は連絡が取れなくなってしまいました。昨晩(3月6日)やっと連絡があって、ご家族と一緒に無事ドイツに着いたそうです」

写真展は3月末まで開催の予定だが、いまも続けられているのか不明だ。

キエフで今年行われていた稲田さんの写真展
キエフで今年行われていた稲田さんの写真展

「ウクライナの人々のはにかむ笑顔が素敵です」

筆者は稲田さんにウクライナの土地や人々について尋ねてみた。

「ウクライナの人たちはとても静かで温厚ですね。声をかけると、子どもも大人もはにかむ笑顔が素敵です。とても信心深くて、どこでも祈りを捧げる姿を見ました。街はきれいでゴミ1つ落ちていません」

「ウクライナでは祈りを捧げる姿をどこでも見ました」
「ウクライナでは祈りを捧げる姿をどこでも見ました」

また、クラシックのコンサートに行くと、子どもたちが大人しく演奏を聴いているのに稲田さんは驚いたという。

「小さなお子さんが、お行儀よく演奏を聴いていました。ウクライナは音楽大国で、多くの音楽家を輩出しています。文化芸術に対して子どものころから親しんでいる国なのですね」

「コンサートでは小さなお子さんが、お行儀よく演奏を聴いていました」
「コンサートでは小さなお子さんが、お行儀よく演奏を聴いていました」

「ウクライナは空気がおいしいんです」

ウクライナの人々は普段どのように生活を楽しんでいるのだろうか?

「ウクライナは空気がおいしいんです」と稲田さんは語る。

「そして食べ物がオーガニックなんです。クワスというライ麦と麦芽を発酵させた飲み物があって、飲んでいると体調がよかったです。黒パンやヴァレーニキ(水餃子)も美味しい。そういえばロシア料理と思われているボルシチは、ウクライナ発祥ですね」

市場には果物や野菜が所狭しと溢れていた
市場には果物や野菜が所狭しと溢れていた

ウクライナは肥沃な土地をもち、ヨーロッパ最大の農業国である。国旗の青色は空を、黄色は小麦を象徴している。稲田さんが見せてくれた写真の中には、キエフ郊外で撮影した菜の花畑と青空の写真があった。青と黄色が地平線でくっきり分かれ、息をのむような美しさだ。また、日本の農村のような風景に出会うこともあったと稲田さんは語る。

キエフ郊外では青と黄色が地平線でくっきり分かれる美しいの風景が広がる
キエフ郊外では青と黄色が地平線でくっきり分かれる美しいの風景が広がる

「美しい街が爆撃され…言葉も出ない」

さらに稲田さんは撮影した街や寺院・教会の写真を何枚も見せてくれた。まるでおとぎの国のようにどの写真も美しい。しかし稲田さんは一枚の写真を指してこう語った。

「この写真はチェルニヒフで撮影しましたが、ここはロシアに爆撃され住民に多くの被害が出たそうです。亡くなった方々もいます。住民に武力攻撃をするとは・・言葉も出ません」

「この教会のある街はロシアに爆撃され住民に死傷者が出ました」
「この教会のある街はロシアに爆撃され住民に死傷者が出ました」

こうした美しい街で平和な日常を暮らしていた人々はいま、その生活だけでなく命さえも奪われようとしている。

「ウクライナの人々は温厚ですが、クリミアの併合後は『これではいけない』と思い立ち、国を守る意識は強いです。日本にとってもこの戦争は遠い国の出来事ではありません。私はウクライナの豊かさを発信していきたいと思います」

2000年に撮影したウクライナ西部の都市リビウのお祭り。こうした景色が一刻も早く戻ってきてほしい
2000年に撮影したウクライナ西部の都市リビウのお祭り。こうした景色が一刻も早く戻ってきてほしい

ウクライナに平和を取り戻すために私たち1人ひとりが何をすればいいのか。どんなに小さく思われることでも、行動を起こすことがいまを変えるきっかけになるはずだ。

(写真提供:稲田美織さん)

稲田さん「私はウクライナの豊かさを発信していきたいと思います」
稲田さん「私はウクライナの豊かさを発信していきたいと思います」

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。