国は2021年12月、日本海溝・千島海溝沿いで巨大な地震と津波が起きた場合の被害想定を公表した。
発生が冬の場合、屋外の避難先で低体温症となって死亡するリスクのある人が、岩手県内で最大1万4,000人にのぼると試算されている。(内閣府中央防災会議より)

この低体温症をめぐる東日本大震災当時の状況と、次への備えについて取材した。

東日本大震災で経験した“低体温症”の恐怖

石木幹人医師:
雪がちらちらしていてすごく寒い日で、木製の机などを壊し、火を付けて暖を取っていた状態でした。暖を取っていなければ、結構厳しかったと思う

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東日本大震災の時の状況をこう語る石木幹人医師は、当時、陸前高田市の県立高田病院で院長を務めていた。
市の中心部にあった当時の高田病院は、入院患者がいた最上階の4階まで津波が押し寄せ、160人ほどが取り残された。
取り残された人たちは、4階と屋上の間のわずかなスペースで風をしのぎ、救助まで一夜を明かした。

石木幹人医師:
風が大丈夫という場所に、160人全員は入れない状態。外に出ていても大丈夫な人たちが、30人から40人くらい屋上の外にいた

当時の気象データによると、沿岸南部の気温は日中で4℃から7℃ほど。
観測施設が被災して日没後の気温は記録されていないが、凍えるような寒さだったという。

石木幹人医師:
人肌が温かい。隣に誰かいるとその人の体温が暖房のような感じだった

入院していた患者の中には、津波で水にぬれ、体力が奪われたことで朝までに命を落とした人もいた。

石木幹人医師:
(患者のうち)39人の生存者を屋上に連れて行き、次の日の朝までに3人亡くなっている。(この中には)終末期の患者もいたが、その人もその日のうちに亡くなることは多分なかった

警察庁によると、東日本大震災の犠牲者について、9割は水に溺れて亡くなったとされている。

しかし、当時 統括DMATとして入院や搬送の調整など、医療の指揮を執った岩手医科大学の眞瀬智彦教授は、「津波で体がぬれ、低体温症を発症した例もあったのではないか」と指摘する。

岩手医科大学・眞瀬智彦教授(当時 統括DMAT):
当時の水温を考えると、8℃から10℃くらい。(その水温では)生存時間が1時間半から2時間というデータがある。溺死ではなくて、低体温症で亡くなった数も、結構な人数が東日本大震災の時に存在したのではないか

そのうえで、低体温症を発症する場面を次のように話す。

岩手医科大学・眞瀬智彦教授(当時 統括DMAT):
避難所、自宅も含めて、環境が悪いと低体温症になる可能性はあるし、津波にのみ込まれると衣類がぬれるので、熱がぬれた着物に取られてしまい、低体温症になりやすい

より安全な避難場所作りのために…自治体の取り組み

次の災害にどう備えていくのか。自治体は対応を求められている。

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震で、最大29.7メートルの津波が押し寄せるとされた宮古市。

海からは2kmほど離れた市内の住宅地、緑ヶ丘地区の町内会長・平井昭吉さんに話を聞いた。

緑ヶ丘町内会・平井昭吉会長:
ここが緑ヶ丘では一番低い場所で、(震災の)津波の時も、この辺は床上浸水した

東日本大震災で、一部が浸水した緑ヶ丘地区。
2021年までのハザードマップでも、地区全体には津波が到達しない想定となっていたが、国の新たな想定では、地区の全てが浸水するとされている。

従来はすぐ近くの小学校か消防署の前に避難してきたが、いずれも浸水想定区域に含まれるため、緊急避難場所は新たに近くの高台に変更された。

緑ヶ丘町内会・平井昭吉会長:
そこの高台への避難訓練をしようと、去年から始めた

実際にその高台へと登ってみた。

野中翔記者:
高台の上に登ってきました。ただ、この場所は行き止まりで、ほかの地区へ迂回する道はありません

もし、想定どおり市街地に広く津波が押し寄せれば、住民たちはこの場所で孤立し、屋外で長時間の避難を強いられる可能性もある。

緑ヶ丘町内会・平井昭吉会長:
携帯する食べ物、毛布類、防寒用のものをセットにしておいたらよいのかなと思う。今後の課題だけれども、備えていければよい

まずは津波から逃げる 次の災害に備え、自分で最低限の準備を…

こうした課題に、市では「最優先は津波から逃れること」と強調する。

宮古市・芳賀直樹危機管理監:
そもそも津波にのまれてしまっては、低体温症以前の問題。津波から逃れること。これが第一優先

そのうえで、「緊急避難場所の高台は130カ所あり、管理などを考えると備蓄の物資を置くのは難しい」とし、「一部だけに物資を備えると、避難の遅れを生む可能性がある」と話す。

宮古市・芳賀直樹危機管理監:
装備の整っている避難場所を目指すという風に市民が変わると、危険なエリアを長く移動しなければならない。本来の津波から逃げることから外れてしまう可能性がある。基本は、防寒対策を含めて、自分で最低限の準備はして避難してほしい

市では、寒さ対策として、逃げる際には防寒着だけではなく、帽子やマフラー、携帯カイロなどを持っていくように広報で特集を組むなど、周知をはかっている。

次の災害で犠牲者を出さないために、自治体や住民が一体となって避難に備えることが求められている。

(岩手めんこいテレビ)

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