世界3大珍味のひとつキャビアが静岡・浜松市の山間部で生産されている。
チョウザメを養殖しているのは、意外な製品のメーカーだ。需要に生産が追いつかず、養殖場の増設も計画している。このメーカーが着目したのは、浜松市の「水」と「熱」だ。
浜松市春野町の「ハルキャビア」
浜松市のフランス料理店。取材したこの時期に限定で提供されているメニューが、キャビアを添えたガレットだ。

LENRI・町田通シェフ:
春野町の「ハルキャビア」を使っています。海外のキャビアですと非常に塩分が強いんですが、「ハルキャビア」は本当にフレッシュ感がある

キャビアを作っているのは浜松駅から北へ約60km、自然が豊かな浜松市天竜区春野町にある「春野キャビアヴァレー」だ。

約1万5000匹のチョウザメが養殖されている。
通信ケーブルメーカーの新規事業
養殖しているのは、通信ケーブルなどを国内外で製造・販売している「金子コード」だ。

本社は都内だが、浜松市でも電話機のコードや医療用のカテーテルを製造している。
これまでと違う事業で会社を活性化させようと、2015年に新規事業として養殖を始めた。
金子コード食品事業部・中村秀憲部長:
一番手前にいる魚たちは2021年夏に生まれた稚魚で、まだ1歳に満たない小さな魚たちです。だいたい3~4年のタイミングでオスかメスかを判別しますから、今はまだオスかメスか分からない状態です

案内してくれたのは、チョウザメの養殖事業を立ち上げた金子コード食品事業部の中村秀憲部長だ。
金子コード・中村部長:
この魚たちはみんなメス、お腹に卵を持った魚たちです。カラーのタグは1匹1匹識別するための目印です。実際には、魚の頭の中にICチップが入っているので分かるんです。その魚がどこで生まれて、何をどうやって食べて、どういう環境で育ってきたかというトレース(追跡)を全部、1匹1匹行っています

チョウザメは同じ春野町内にある別の施設で孵化させた後、10年ほどかけて出荷できる大きさまで育てる。チョウザメは100年以上生きることもあるそうで、養殖場には30年以上育った個体もいた。
浜松名産“ウナギ”で水質管理
水槽でウナギを見つけた。

金子コード・中村部長:
ウナギは、水質チェックのためのテストパイロット的な役割をしてもらっています。水質が悪くなった時に、チョウザメより先にウナギが(水の)状態を知らせてくれるので、そのための水質チェッカーです
場所選定の決め手は「水」
なぜキャビアの生産地として、春野町を選んだのだろうか。
金子コード・中村部長:
ここ(春野町)でチョウザメの養殖をやっている理由は、もう一言につきます。「水」です

水によっては、チョウザメが大量に死んでしまうこともあったそうだ。試行錯誤を重ね、適度なミネラルが含まれた春野町の地下水が養殖に適していることをつきとめた。
2018年にキャビアの出荷を始めてから生産量を順調に伸ばし、当初の20倍以上になった。販売は飲食店向けのみだ。

金子コード・中村部長:
おかげさまでいろいろな飲食店さんに支えて頂きながら、前年比プラスを毎年続けているところです。需要に対して生産がまだ追いついていない
2カ所目は清掃工場の隣
生産量を伸ばすため、金子コードは新たな場所に注目した。浜松市で建設中の新しい清掃工場だ。
春野町の養殖場から車で約1時間、浜松市天竜区青谷では市の新しい清掃工場が建設されている。総事業費約845億円で、2024年の完成が予定されている。

金子コード・中村部長:
ここで5000尾ほどのチョウザメを育てようと思っています
清掃工場は約20年で建て替えが必要で、すでに完成前から同じ敷地内に建て替えのための土地が用意されている。
金子コードは、この建て替え用の1.6ヘクタールの土地を年間100万円で市から借り、ゴミの焼却で出た余熱を利用してチョウザメを飼育する計画だ。

「余熱」を利用…地元も雇用に期待
金子コード・中村部長:
温かい水にすることによってチョウザメが活発に動いて、短い時間でも成長が早くできるというような効果があります

浜松市新清掃工場建設担当・山口佳伯課長:
全国的には温浴施設、例えば浜松市ですとプールが(清掃工場の)横に併設されています。そうした例からひとつ脱却して、もっと地元の皆さんと一緒に働ける場所を作りたいと
チョウザメだけでなく他の魚介類や植物も育てる計画で、清掃工場の廃熱を農水産業にいかす取り組みは静岡県内では初めてだ。

金子コード食品事業部・中村秀憲部長:
一番の目標は世界一おいしいキャビア。それを中心にこの地元・浜松の魅力を使って、世界に誇れる食品をますます増やしていきたい
世界一のキャビアへ。新たな挑戦が浜松の魅力発信にもつながっていく。

(テレビ静岡)