ウクライナの首都キエフの近郊で新たに全長64キロに及ぶロシア軍の車列が確認された。首都包囲の動きが進む中、第2の都市では無差別攻撃が行われ、侵攻は一段と激しさを増している。

ロシア軍ハリコフ中心部にミサイル攻撃

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6日目に入ったロシアによる軍事侵攻。ウクライナでは今なお激しい攻防が続いている。ウクライナ政府は、第2の都市ハリコフの中心部にある自由広場近くに着弾した映像をSNSに公開した。映像を見ると時刻は現地3月1日の午前8時01分と表示されている。今から3時間ほど前のこと、ミサイルが撃ち込まれた瞬間とされる映像では、巨大な炎とともに建物から大量の煙が立ち上った。

ショッピングモールも無差別攻撃…11人死亡

ハリコフではショッピングモールもミサイルで攻撃された。映像には「避難しよう!みんな先に行ってて!追いかけるから!」という音声と煙が立ち上る中、いくつもの閃光が確認できる。無差別攻撃だったとみられ、地元当局は少なくとも11人が死亡したと発表した。

ロシア軍「燃料気化爆弾」使用か?

さらにロシアによる新たな兵器の使用も報じられた。ロイター通信によるとアメリカに駐在しているウクライナ大使が「28日、ロシアがウクライナ侵攻で燃料気化爆弾を使用した」と述べたという。燃料気化爆弾は通常兵器に用いる高性能爆薬よりはるかに威力が大きい兵器だ。燃料気化爆弾の使用は民間人などを戦闘から保護する目的で作られた「ジュネーブ条約」で禁止されている。

直接協議も…埋まらぬ溝

第2の都市の戦闘が激しさを増す中、ロシアとウクライナは昨夜、隣国ベラルーシで初めて停戦に向けた交渉を行った。この協議で浮き彫りとなったのは両国の温度差だった。

ロシアの代表団は5人でトップはメジンスキー大統領補佐官。前の文化相で作家でもある一方、外交経験は乏しく、協議に臨むロシア側の本気度が高いとはいえない印象だ。

一方、ウクライナからは与野党の議員など7人が出席。中でも野党の男性議員はロシアに実効支配されているクリミア半島の関係者だ。「クリミア問題も忘れない」との意思を強調し、ロシアに立ち向かう団結姿勢を示した。

両国の温度差は服装からも見て取れる。ロシア側が全員スーツ姿で余裕をうかがわせる一方、ウクライナ側でスーツを着ていたのは2人のみ。キャップをかぶったメンバーなど非常事態の現場から「着の身着のまま」足を運んだような装いだった。

この協議でロシアはウクライナの「非武装化」や「中立化」などを求めた一方、ウクライナは「即時停戦」と「全土からの撤退」を求めた。しかし5時間にわたる交渉で結論が出なかった。交渉の後ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオメッセージを公表。交渉の最中にも攻撃を受けていたことに抗議した。

この会談は我々の領土や都市が爆撃や砲撃を受けている間に行われた。公平な交渉とは交渉する間にお互いがロケット砲を撃ち込まないことだ

両国の代表団はいったん帰国し数日以内に改めて協議することで合意した。ただ、停戦合意できるかどうかは不透明だ。

ロシア軍の車列64キロに

その数日の間にウクライナがさらに厳しい状況に追い込まれるかもしれない。ロシアがウクライナの首都「キエフの包囲」を進める構えを見せているためだ。

衛星画像を見ると、これまでキエフまで30キロに迫っていた距離は約25キロにまで縮まった。さらに、ロイター通信によると全長64キロにわたるロシア軍の車列が首都キエフ方面に向かっていることを確認。部隊をさらに増強しているものとみられる。

米国防総省の高官は、ロシア軍が今後数日のうちに首都キエフを包囲しようと試みていると分析。ウクライナ軍の抵抗などにいら立ちを募らせ、ロシア軍が今後、より攻撃的であからさまな作戦に出る恐れがあるとしている。

犠牲拡大…攻撃の街で出産も

ウクライナでは子どもを含む民間人の被害者も増え続けている。ゼレンスキー大統領は16人の子供が死亡したことを明らかにしている。こうした中、ウクライナ東部ルガンスク州の地下にあるシェルターでは男の子が生まれた。混乱の中で産声を上げた男の子を抱きしめ母親は安堵した表情を浮かべていた。被害から逃れるためハリコフ市内の病院では生まれたばかりの多くの赤ちゃんをシェルターに移動した。

混乱はウクライナ以外にも広がっている。ロシア国内ではプーチン政権寄りのメディアのホームページが乗っ取られた。28日、国営メディアのホームページに突如現れた画面、ロシア語でこう訴えていた。

「プーチン大統領は私たちに嘘をつき危険にさらしている。これは私たちの戦争ではない彼を止めて!」

乗っ取ったのは国際ハッカー集団「アノニマス」だ。乗っ取り被害に遭った国営メディアは「我々とは何の関係もない」と関与を否定するなど対応に追われた。

経済制裁で通貨ルーブル急落

混乱はロシアの市民生活にも及んでいる。世界各国が連日新たな制裁を発表することでロシアの通貨ルーブルの価値が急落しているのだ。ロシアの軍事侵攻が始まる前まで両替のレートは1ドル74ルーブルだったのが、一時109ルーブル台まで暴落。史上最安値を更新した。

米政府は「すでに直接的な制裁の効果が出ている」と強調。ただ、プーチン大統領は制裁を科したアメリカなどを「うその帝国」と批判するなど強気の姿勢を貫いている。

ロシア国内では情報統制

さまざまな情報が飛び交う中、アメリカのツイッター社はロシアへの新たな対応策を打ち出した。ロシアのメディアが発信したリンクのツイートに付けられたのは感嘆符、いわゆる「びっくりマーク」のラベルだ。これにより「情報に注意。このツイートはロシア政府と関連のあるメディアにリンクしています」とツイッターの利用者にロシア側が発信する情報を鵜呑みにしないよう呼びかけた。

背景にあるのがロシア国内での情報統制だ。ロシア国内ではメディアに対し「戦争」や「侵攻」という表現を禁止している。違反した場合は日本円で約530万円の罰金を科すと通告しているため正しい情報が報じられていない。

ロシア各地で連日行われている反戦デモ。SNSを通じて正確な情報に触れた人々が声を上げている。これに対しロシア当局は国内でツイッターやフェイスブックなどの利用を制限する措置をとっている。

ロシアの侵攻 国民は知らず?

ではロシアではこの停戦協議についてどのように報道されているのだろうか?

FNNモスクワ支局の関根特派員によると「停戦協議については報じられているが侵攻については報じられていない。ロシア国営テレビなど主要メディアの報道は親ロシア派武装勢力が支配しているウクライナ東部の情報ばかりで民間の建物が攻撃を受け死者が出ていることなど一切報じられていない。そのためロシアの人はロシア軍がウクライナに侵攻していると認識している人はほとんどいない。むしろウクライナが大量虐殺しているというプーチン政権のプロパガンダを信じている人が多い。若い人はSNSなどで情報を入手しようとしているが、ウクライナ側のサイトは接続状況が悪く写真や動画が更新されにくい状態。正式発表はないがロシア当局がフェイクとしてブロックしている可能性がある。ロシアは徹底的な情報操作で世論を誘導し国内からの反発を抑え込もうとしている」という。

イット!スタジオでは…

フジテレビ「イット!」のスタジオでは、元外交官で外交・安全保障のエキスパート宮家邦彦氏に話を聞いた。

加藤綾子キャスター:
政権の意向に沿った報道をさせても「戦争」や「侵攻」という言葉を使った記事は削除するなど統制を強化、今ロシア国民はロシア軍がウクライナに侵攻していると認識している人はほとんどいないという驚きの報告もありましたが、この情報統制についてどうご覧になりますか?

宮家邦彦氏:
中国ほどではないにしても、情報統制はしているだろうなという気がしますね。その理由としてはこの戦争自体はおそらくロシア人にあまり人気がないと思うんですよね。ですから一つ間違えて自由にさせれば「反プーチン」の動きが出てくることを非常に恐れているんじゃないかと気がしますね。

加藤綾子キャスター:
世代によってもプーチン大統領のやり方に対する印象は変わってくるとは思いますが、正しい情報がない中で国民は今の状況やプーチン氏をどう思っているんですかね。

宮家氏「物言えば唇寒し」

宮家邦彦氏:
私は確かに統制は厳しいとは思いますけれども若い人たちはそれなりに情報を得ていると思うんですよ。どこの国も情報は流れてきますからね。本当は何が起きてるか、ある程度知っている人たちがいると。しかしそれを当局側は徹底的に力で押さえつけるしか他に方法がないんだろうなと。

加藤綾子キャスター:
だから知っていても何か行動すると何か怖いことが起こるんじゃないかってことですよね?

宮家邦彦氏:
知っていても「物言えば唇寒し」ということなんじゃないでしょうか。

加藤綾子キャスター:
力で抑え込まれて何もできないとなると本当に怖いですね。

(イット!3月1日放送分より)