「ウクライナのタンク・マン」という映像が世界に拡散している。

ウクライナ北部のバクマッハという街でスマホで撮影されたものだが、ロシア軍の戦車の車列が街を通過して行こうとした時、一人の人物が一台の戦車の前にしがみつき素手で押し返そうとする。

ウクライナの「タンク・マン」 SNSより
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気づいた戦車側がそこで止まると、次にその人物は戦車の前に跪いて「私を轢いてから行け」というような仕草をする。その後周囲に居た人たちが抱き抱えて傍に避けさせことなきを得るが、それはかつて中国北京の天安門広場で繰り広げられた光景を彷彿させるものだった。

ウクライナの「タンク・マン」 SNSより

1989年6月4日、天安門前広場での学生たちの民主化を求めるデモが激化し、鎮圧するために戦車隊が出動すると、両手に買い物袋を下げた白シャツの男性が戦車の前に立ちはだかり、戦車が避けようとすると男性も向きを変えゆく手を阻む映像が中国当局の圧政を世界に知らしめることになった。

天安門事件の「戦車男」(1989年6月4日)

天安門の男性は「戦車男」として有名になったが、それにちなんでウクライナの男性も「タンク・マン」とも呼ばれている。

1分ほどの映像だが、ウクライナ軍がSNSにアップし世界のマスコミが転載して拡散し「ウクライナ国民の抵抗を象徴する映像」として知られる。
 

一方的な展開にはならず、ウクライナ軍の抵抗

今回のロシア軍によるウクライナへの侵攻は、最新兵器で装備したロシア軍の一方的に優勢な展開になるのではないかと考えられていた。

しかし、開戦当初のロシア軍による猛烈な空爆やミサイル攻撃にもかかわらずウクライナ軍は激しく抵抗し、ウクライナ国防省の発表では27日現在ロシア側の戦死者4300人、破壊された戦車146両、撃墜された軍用機27機、攻撃用ヘリコプター26機にも及ぶ。

ウクライナ・ハリコフ(2月27日)

この中には首都キエフへ向かったロシア軍でも勇猛さで知られるチェチェン人の部隊がホストメルという街でウクライナ軍の攻撃を受けて56台の戦車を失い多くの死傷者を出して部隊が壊滅したとウクライナの英語ニュース「キエフ・インディペンデント」は伝えた。

侵攻を10日間しのげば…

こうしたウクライナ軍の健闘も国民の間の強い抵抗感に支えられたものと考えられ、それは最終的にはプーチン大統領の野望を挫くことにつながるという見方もある。

英国の大衆紙「デイリーメール」電子版に26日掲載された記事によると、ウクライナの情報機関は、ロシア側の戦費を一日150億ポンド(約2兆3000億円)と試算しているという。

これを受けて、エストニアの元国防相リホ・テラス氏はウクライナがロシアの侵攻を10日間しのげば、戦費は1500億ポンド(約23兆円)にも及び、西欧側の金融制裁の効果とあわせてプーチン大統領に侵攻を継続するか再考を促すきっかけになるだろうと分析すると伝えている。

「タンク・マン」は、本物の戦車を止めることになるのかもしれない。
 

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎


アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。 NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。

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