北京五輪閉会式の翌日となる2月21日、外交活動の根幹を揺るがす中国の暴挙が明らかになった。「通常の外交活動」を行っていた日本大使館職員の身柄を当局が一時拘束していたのだ。

外交関係に関するウィーン条約は29条で「外交官の身体は、不可侵とする。外交官は、いかなる方法によっても抑留し又は拘禁することができない」と定めている。また、「受け入れ国は、相応な敬意をもつて外交官を待遇し、かつ、外交官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害をも防止するためすべての適当な措置を執らなければならない」としている。
中国当局はこの「外交官の身体の不可侵」つまり、外交官は身柄を拘束されないという国際ルールを公然と無視したのだ。
当該外交官の安全のため、取材には細心の注意を払った。明らかになった経緯は以下だ。
21日午後、大使館の職員が人との面会を終えてその場を出たところ、5人ほどの当局に取り囲まれた。
職員はパスポートを何度も提示して外交官であることを示し、日本大使館への連絡を求めたが受け入れられなかった。
その後、職員は自分の意に反して数時間に渡って身柄を拘束され、10人程度の当局に事情を聞かれた。
中国当局は外交官と知りつつ、身柄を拘束しており、ウィーン条約に違反する対応をとったことは明白だ。
垂秀夫・中国駐在日本大使は22日夜、中国外務省を訪れ、呉江浩(ご・こうこく)次官補(外交部長助理)に対し、中国側の行為は外交官の不逮捕特権などを定めたウィーン条約に違反するとして厳重に抗議し、謝罪を求めた。関係者によると垂大使は「間違っていること、道理に合わないことを無理に押し通すこと」を意味する成語「指鹿為馬」を伝え、自ら席を立って辞去したという。

しかし、中国側の対応は驚くべきものだった。
中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は23日の定例会見で日本側の抗議に対し、この職員が「身分不相応な活動をしていたため、法に基づき調査、尋問した」と反論した。さらに「日本側には中国の法律を尊重し、駐在している外交官の言動を厳格に規制して、類似の事件が起きないよう厳正に申し入れた」と述べ、日本側に逆に抗議したと述べたのだ。中国側が主張するように、仮に「身分不相応な活動」をしていたとしても外交官の身柄を拘束することは出来ない。

日中両国の間には様々な懸案があり、見解の相違があることは事実だ。だが今回の事案はそれらとは全く別次元の、外交の基礎となるルールが破られた、極めて深刻な事態だと言わざるを得ない。
「拉致問題と本質は同じだ」(外務省幹部)という指摘があるように、日本の主権、国家としての在り方が問われている。
【執筆:FNN北京支局長 山崎文博】