冬のスポーツの祭典、北京五輪が幕を下ろした。日本人選手の活躍をはじめ、数々のドラマや感動が生まれた一方、やはり「中国ならでは」の大会であったことは間違いない。新型コロナウイルスが蔓延する中、また習近平国家主席の3期目続投が見込まれる中での大会を総括してみたい。

コロナ対策という名の徹底管理

PCR検査は毎日のように受けた
PCR検査は毎日のように受けた
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海外メディアがまず報じたのは全身防護服の人々、各種検査、外部との接触を徹底的に遮断したバブル方式などの厳しい管理だ。中国に住んでいると至極当たり前のことだが、海外から中国に入り、ごく間近に見るとその迫力も違うのだろう。普段から中国式統制の下で様々な制約を強いられている身としては、その実態が世界に発信され、中国の生活環境や厳しいコロナ対策が広く知られることに、嬉しさすら覚えた。

取材についても不自由を感じた記者は数多くいたはずだ。中国の管理体制は、こうしたイベントの際にはさらに厳しさを増す。

習近平体制の強化

習主席の「指導」は数多く見られた
習主席の「指導」は数多く見られた

この大会は習主席が政権3期目に入るプロセスのひとつでもあった。大会の成功は既定路線、いわば最初から「決められていた」結果ともいえる。習氏は夏に続いて2度目となる冬季五輪を開催しコロナ禍を乗り切り、中国の世界的な地位を高めた偉大な指導者として秋の共産党大会に臨み、その後の政権運営を見据えるという訳だ。

中国の最新技術が紹介された取材ツアー
中国の最新技術が紹介された取材ツアー

海外や地方の記者を対象に行われた取材ツアーは、中国の発展をアピールすることに重点が置かれているのが明白だった。開会式で使われた巨大なLED画面による凝った演出やロボット、人工知能など、中国の最新技術が紹介される一方で、習主席の指導も強調されていた。

コンサートでは故宮の映像などが背景に
コンサートでは故宮の映像などが背景に

五輪のテーマ曲を演奏するコンサートでは、中国の風光明媚な景色や宇宙開発も含めた中国の進化、発展が背景の映像に流された。「中国で音楽と政治は不可分のものだ」(中国音楽関係者)との指摘にあるように、芸術分野も国威発揚の手段として利用されているようだ。

棚上げされた人権問題

アメリカなどの「外交ボイコット」の理由となったのが人権問題だ。その批判をかわすためか、開会式ではウイグル族の女性選手が漢族の男性選手と共に聖火リレーの最終ランナーを務めた。また、元最高幹部に性的関係を強要されたと告白し、一時安否不明となっていた女子テニスの彭帥さんが大会中、競技会場に姿を見せた。

競技会場に現れた彭帥さんとIOCバッハ会長(8日)
競技会場に現れた彭帥さんとIOCバッハ会長(8日)

前者は民族融和を、後者は彭帥さんの無事をそれぞれ国際社会にアピールする狙いだとみられる。ただ、新疆ウイグル自治区での人権侵害問題や、彭帥さんの問題について真相は明らかにされないままで、疑念の根本的な解決には至っていない。

中国が自らの長所や友好をアピールする一方、都合の悪い部分や批判が集中する分野を覆い隠したのもこの大会の特徴だ。

日本に対する親しみ

ビンドゥンドゥンは中国外務省にも登場した
ビンドゥンドゥンは中国外務省にも登場した

大会で話題となった公式キャラクター「ビンドゥンドゥン」は、日本の報道が火付け役となったといってもいい。日本のアニメが中国で人気となっているように、ビンドゥンドゥンが日本で認知されたことが中国での爆発的なブームに繋がった一因とみられている。「成功した五輪」を印象付けるため、当局がビンドゥンドゥンを利用した側面もあるだろう。

羽生結弦選手の人気も根強いものがあった。競技が行われる会場や日本選手団が帰国する日の空港にもファンの姿が見られた。

空港に集まった羽生選手のファン
空港に集まった羽生選手のファン

改善の兆しが見えない日中関係をよそに、中国の国民の多くが日本に対して親しみを抱いていることを印象付けた。

市民との乖離

この大会で一般市民にはチケットは販売されなかった。新型コロナ対策などを名目にしたものだが、そもそも冬のスポーツが中国にはそれほど浸透しておらず、開会前に注目する競技や選手を聞いても答えられない人が多かった。

パブリックビューイングとはいうものの・・
パブリックビューイングとはいうものの・・

公園に設置された「パブリックビューイング」とは名ばかりの会場は、歌や踊りの「出し物」がメインで、競技に熱狂する空気とは程遠いものがあった。大会はごく一部の人たちが関わるもので、市井の人たちとの乖離がある一面も明らかになった。

アメリカなどの「外交的ボイコット」で開催前から不穏な空気が漂っていた北京大会だが、とにもかくにも終了した。

「世界はひとつ」「団結」など、耳障りのいい言葉も見られたが、この大会を通じて見えたのは「世界はひとつではない」ということではないか。アメリカなどが言う正義、正論は中国には受け入れられず、中国には中国の常識や価値観があるとの自己主張がより表面化した。

建前であれ本音であれ、アメリカも中国もどちらも自分が正しいと主張して譲らない。好き嫌い、善し悪しは別にして、それが現実だ。そこから目を背けずに、どう対応すべきかを考えていくしかない。そんな現実を改めてわからせてくれたことが、この五輪がもたらした成果のひとつではないだろうか。

【執筆:FNN北京支局長 山崎文博】

山崎文博
山崎文博

FNN北京支局長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より二度目の北京支局。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。