遠くに雲仙岳を望み、橘湾に面する長崎・諫早市飯盛町江の浦漁港。約350世帯が暮らすのどかな集落だ。

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かつては底引き網やイワシ漁などで栄え、港や家々には大漁と航海安全を祈る恵比須像が祭られている。

しかし、次第に過疎化が進んで商店も閉められ、今は空き家が目立つ。そんな小さな港で海に生きるベテラン漁師と、若き後継者の思いを取材した。

”海の異変”に負けず 魚を釣る喜び分かち合う

漁港で出会ったのは山﨑嘉也さん(66)。漁師歴50年で潜水士の資格を持ち、5隻の船も持っている。

――船の名前は?

山﨑嘉也
さん:
あゆ丸。

――奥さんの名前からつけた?

山﨑嘉也​さん:

いや、娘(長女)です。

山﨑さんには後継ぎとなった娘婿がいる。神原悠希さん(23)。

悠希さんは勤め先をやめて2021年9月、漁業者の道を選んだ。義理の父から指導を受けて修行を積む日々だ。

この日は、港の沖に仕掛けている定置網へ向かった。機械を使いながら定置網で魚を追い込む部分である「箱網」を上げる。力仕事だ。

定置網のほか、アオサやヒジキ取りなど季節ごとに様々な漁を行う。しかし、最近は漁獲量がめっきり減ったという。長崎県周辺でも磯焼けなど、海の異変が続いているのだ。

山﨑嘉也​さん:
素潜りの人もいっぱいいたんですよ。箱メガネでナマコを取ったり、ウニやアワビもいっぱいいた。でも今は全然採れない。それで後継ぎがいなくなって。(悠希さんは)まだ今からですけど、教えることがいっぱいです。まあ頑張ってもらわないと。

神原悠希さん:
(転職した)理由は足場の仕事をしていて、夏には熱中症で倒れたりして。去年、救急搬送までされた。家族にも心配や負担をかけすぎた。どうしようかと悩んでいたら、お義父さんから漁業のことも視野に入れたらどうかと言っていただいて、即決で「行きます!」と。

最初は全てが初めてだったので戸惑い気味だったけど、徐々に慣れて来ました。魚が入った時の喜びが何よりですね。お義父さんと「よっしゃ、入った」と2人で喜んでますね。

漁から戻る時、船から見える自宅から妻と子どもが手を降ってくれる時がある、と笑顔で語る。

山﨑さんは一男二女の父親だが、長男は漁業を継がずに県外で働いている。後継者について悩んでいた時、悠希さんの決意が救いになった。悠希さんは山﨑さんの次女・愛実さんと2人の息子と一緒に母屋の隣に住んでいる。

妻・愛実さん:
本人がやりたいということだったので応援した。

悠希さん:
最初は戸惑いというより緊張はありましたね。初日から(お義父さんに)どやされたらどうしようかと。一度大きなぶつかり合いがありましたね。でも、大先輩が言うことは間違いないと素直に謝りました。

伝統の祭りで大漁を祈願 仲間との親交深め

1月20日は、古くから伝わる江の浦の「二十日恵比須」。航海安全と大漁を祈願する祭りだ。悠希さんも山﨑さんと一緒に祭りに参加し、まず港近くの島に船で向かった。

この一帯は昔から魚介や海藻がよく取れる好漁場。島には恵比須像と龍宮像を祭って、海の恵みに感謝してきた。

また、港にある4つの恵比寿像にもお参りをして、商売繁盛とコロナ収束を祈った。

祭りの仕上げは、神事のあとの宴「直会(なおらい)」。悠希さん以外は皆、高齢者だ。祭りは漁民の親交の場でもあり、ずっと大切にされてきた。これまでは婦人会も一緒に公民館で盛大に開いてきたが、新型コロナのため港でささやかに行った。

自治会長・松尾藤次さん:
これは昔からの伝統行事なので絶やすことはできない。子どもの頃から漁協で育ってきましたから、私たちの時代で絶やすことができない。元気なうちは最後まで続けていきたいですね。今、漁業者がどんどん減っていく中、若い人が1人でも2人でも増えていくことは、非常に地元住民としてうれしいですね。(悠希さんには)ぜひ、頑張ってほしいと思います。

貝の養殖を学び…取るだけでない漁業を

山﨑さんは後継ぎが決まったこともあって、新たなチャレンジを考えている。

80歳の知人から貝の養殖の方法を学んでいて、取るだけでなく育てる漁業を視野に入れている。漁獲量が減っていく中、さまざまなことをやっていかなければならない。

悠希さん:
網の修繕であったり、たくさん覚えることがあるので、いろいろ聞きながら自分で吸収していきたいと思います。

山﨑嘉也さん:
まだ若いし、孫も男の子が2人いるから。頑張れば、彼らがまた継いでくれたらいいんじゃないでしょうか。

天候に左右される仕事だが、家族と過ごす時間が増えたのも魅力だと悠希さんは話す。海を取り巻く環境は年々厳しくなっているが、育てる漁業を見据えて、義理の父との二人三脚でチャレンジが続いてゆく。

(テレビ長崎)

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