「プーチン大統領の意表を突いた」積極的な情報開示

ロシア国防省は2月15日、「軍の部隊を撤退させている」として実効支配しているクリミア半島からロシア軍の戦車が列車に乗せられ運ばれている映像を公開した。

ロシア国防省は「軍部隊を撤退させている」として映像を公開
ロシア国防省は「軍部隊を撤退させている」として映像を公開
この記事の画像(5枚)

しかし、その翌日にアメリカ、ホワイトハウスが「ロシア軍は撤退どころか兵士7000人の増強が確認された」と発表、ロシア側の主張は「ウソだと分かった」と真っ向から否定した。

バイデン政権のウクライナ情勢を巡る発表を追っていくと、具体的な数字やディーテールが相次いで公表されていることに驚かされる。

「ロシアは負傷兵の輸血用の血液を追加で備蓄し始めた」(17日オースティン米国防長官)

「軍事侵攻の前に、まずサイバー攻撃や情報空間における偽情報の流布が増加するだろう」(17日オースティン米国防長官)

「ロシアは攻撃の口実を捏造する計画だ。ウクライナに住む親ロシア派の住民をドローンや化学兵器で攻撃し、あたかもウクライナ政府による大量虐殺と宣伝する可能性がある」(17日ブリンケン米国務長官)

ロシア軍の動きをつぶさに監視し、人工衛星だけでは補足できないインテリジェンス情報も躊躇なく公開している。ロシア側の出方を読んだ矢継ぎ早の情報開示についてアメリカの専門家は、「プーチン大統領の意表を突き、軍事侵攻を躊躇させる一定の抑止力を発揮している」と分析している。一方、こうしたアメリカとロシアの間の攻防は、情報空間に留まらず、現実世界での軍事衝突に発展しかねない事態ともなっている。

米ロ戦闘機が異常接近、約150センチの距離でニアミス

アメリカ国防総省はアメリカとロシアの軍用機が2月11日から12日にかけて、3度にわたり地中海上空で異常接近していたことを明らかにした。防衛当局者が複数のアメリカメディアに語ったところによると、このうち1回は約5フィート(約150センチ)の距離ですれ違ったという。アメリカ政府は「このような行為は、危険な結果をもたらす可能性がある」との声明を出しロシア側に強く抗議した。さらに、ウクライナ情勢を巡る軍事攻撃の最初の一撃が宇宙で起きるのではないかと指摘する声もある。

ウクライナを巡るロシアの軍事攻撃「最初の一撃は宇宙?」

ミリタリー・ドットコム(Military.com)が2月15日に掲載したネット記事。見出しには、「ウクライナ情勢を巡る最初の一撃は宇宙で起きるかもしれない」とある。
ミリタリー・ドットコム(Military.com)が2月15日に掲載したネット記事。見出しには、「ウクライナ情勢を巡る最初の一撃は宇宙で起きるかもしれない」とある。

軍事専門ニュースサイト「ミリタリー・ドットコム」はウクライナへの軍事侵攻の危機が高まるなか、アメリカ軍が入手している情報の膨大な量は宇宙にある偵察衛星からもたらされていることに注目し、ロシアがこの衛星の破壊を試みる可能性があると指摘している。

そして、その根拠として2021年11月に、ロシアが自国の人工衛星を地上からミサイルを発射して破壊する実験を成功させたことを挙げている。この時、国際宇宙ステーションにはロシア人2人を含む宇宙飛行士7人が滞在しており、彼らが大きな危険にさらされることとなったにもかかわらず、ミサイル発射を強行した。

こうした経緯からミリタリー・ドットコムは「ロシアが宇宙で発砲することに何のためらいもないだろう」との見解を示している。ちなみに、対衛星攻撃ミサイルはアメリカやロシア、中国、インドなどがすでに保有している。

プーチン氏は軍事侵攻に踏み切るのか?

プーチン大統領の狙いはウクライナのNATO(北大西洋条約機構)の加盟を阻止し、ウクライナを今後もアメリカの影響を受けるNATO加盟国とのバッファーとして利用することだ。しかし、それを実現するために、多くの犠牲を伴う軍事侵攻という手段に実際に踏み切るのか?アメリカの情報当局もいまだにプーチン大統領の思惑を図りかねているようだ。

プーチン大統領の本当の思惑は・・・
プーチン大統領の本当の思惑は・・・

ただ、バイデン大統領は2月17日ホワイトハウスで記者の質問に「(軍事侵攻を)数日以内にするだろう」と答えた。それまでの「軍事侵攻の可能性がある」という発言から一歩踏み込んだものに変化している。外交的解決の望みがしぼみつつあるのかもしれない。

「数日以内にするだろう」と一歩踏み込んだバイデン大統領
「数日以内にするだろう」と一歩踏み込んだバイデン大統領

一方、ウクライナ東部ではウクライナ軍と親ロシア派勢力がともに相手側から攻撃を受けたと発表していて、一触即発の状況が続く。ロシア側がこうした状況を軍事侵攻する際の口実にする懸念もあり、緊張が高まっている。

【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】

ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

フジテレビ報道局。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院(SAIS)で客員研究員として、外交・安全保障、台湾危機などについて研究中。FNNワシントン支局前支局長。