シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は脳血管内科の専門医、国立循環器病研究センター脳血管内科の高木正仁医長が、冬場に注意が必要な脳出血・くも膜下出血について解説。
初期症状や予防法、そして最近注目されているという歯周病と脳出血の関係について語る。

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脳出血の主な原因は高血圧

我々は、24時間脳卒中の救急の受け入れをしていますが、「脳出血」は脳卒中の1つです。
脳卒中には、「脳出血」「脳梗塞」「くも膜下出血」があります。

脳出血の主な原因は高血圧だと言われています。
血圧が高いと脳実質の中の細かな血管を傷つけてしまい、そこから出血することで手足の麻痺などの症状が出ます。

高血圧が最大の原因なのですが、それ以外にも脳動静脈瘻、あるいは血管奇形、最近では血液をサラサラにするような薬を飲まれている方も多いと思いますが、薬と関連した脳出血が知られています。
他にも若年層に多い原因として「もやもや病」など血管の異常からくる脳出血もあります。

注意すべき兆候や初期症状

脳出血が起こることを事前に察知することはできませんが、突然の頭痛、それに伴う麻痺言語障害意識障害などが症状になる方もいます。

脳の中で血管が切れたり破れた時、その脳の場所に症状が出ると考えられています。
例えば手足を動かす中枢に症状が出た場合には手足の麻痺。あるいは、口が片側だけ下がるような顔面の麻痺。そういった症状で気付くことも多いと思います。

そうではなくて、人の高次機能に関わるような脳の部位で出血した場合には、受け答えがおかしくなる、あるいは突然意識を失うなどの症状が出ます。

主に血圧が上がりやすい冬場に多いとされているほか、秋から冬にかけて、冬から春にかけて、季節の変わり目も交感神経が高まって血圧が上がりやすいといった背景を受けて、脳出血、あるいはくも膜下出血といった出血性の脳卒中が多くなると言われています。

脳出血は主に活動時に多いといわれ、血圧が乱高下しやすい状況を背景にしていると思われます。
運動時や精神的な興奮が高まるパチンコやゲームなどで血圧が上がったときに脳出血に注意する必要があります。

脳出血を疑った場合には、まず頭痛があるか、受け答えはどうか、手足の麻痺などを確認し、何かおかしいと感じたら救急車を呼んで、近くの脳卒中関連病院に運んでもらうことが大事です。

くも膜下出血とは?

くも膜下出血は、脳の表面に太い血管が走っていますが、そこに動脈瘤などができて破裂した時に脳の外側に出血をきたした状態です。
出血が脳脊髄液を巡って脳全体に巡っていくので、突然大きな意識障害ですとか、そのままに繋がる重篤な合併症をきたすこともままあります。

よく言われるのは、3分の1の方が亡くなり3分の1に後遺症が残るといった、経験的に重篤な方が多い病気です。

脳出血・くも膜下出血の治療 

脳出血の場合、主に内科的な治療をとることが多いです。
脳出血で血腫が多かったり、血の塊が大きい場合は手術をすることもありますが、多くの場合は脳のその場所に留まっていて、それが拡大しないように血圧管理全身管理が重要になってきます。

脳梗塞とは違って急性期の劇的に改善する有効な治療はありません。
ですので、内科的な全身管理で、全身を支えるような治療が主体になってきます。

脳出血で手術を要するのは、血の塊「血腫」が大きい場合、あるいは脳室という空間にはまりこんで脳脊髄液の流れを妨げてしまい、水頭症をきたした場合です。
頭蓋内で圧力の逃げ場がない場合は、減圧開頭術という、骨を外すような手術を試みる場合もあります。

一方で、くも膜下出血は多くの場合が動脈瘤の破裂、破綻によるものですから、その動脈瘤を処置する必要があります。
ある程度全身状態が改善した時に、動脈瘤をクリップで挟み込むような手術、あるいはコイルで詰めるような手術を試みます。

予防は"生活習慣"の改善 

多くの方は脳の血管に異常はなく、高血圧を背景に脳出血を起こすと思われます。
一番の予防方法は、血圧を上げないための生活習慣の改善です。

1つには食事
塩分の摂りすぎが高血圧をきたすと知られているので、食事を薄味にする、塩分を控えるということが大事です。

また、運動習慣を持っていると血圧は上がりにくいのではないかと言われているので、適切な運動習慣を持ち、ダイエットにも取り組むことで、血圧を下げ、脳出血を防ぐことが期待できます。

あるいは、高血圧をきたすホルモン異常やその他の内科的な病気もあります。
睡眠時無呼吸症候群をお持ちの方は血圧が上がりやすいといわれるので、そういった内科的な病気にいち早く気付き、血圧を管理することが重要だと考えます。

さらに肝硬変や血液凝固異常をきたす病気がある方は、出血のリスクが高まるので、お酒を飲み過ぎるなど肝臓にダメージを与える食生活は控える必要があります。

脳出血そのものとたばこの因果関係はなかなか難しいですが、たばこはガンの危険だったり、脳梗塞、心筋梗塞の危険を高め、トータルでは脳卒中の数を増やすということが知られているので、禁煙していただくのが大事だと思います。

歯周病と脳出血の関係

最近注目されているのは、歯周病と脳出血の関係です。
歯周病菌が細かな血管にダメージを与え、さらに凝固系を乱してしまうことが知られてきています。

それで脳出血、特に微小脳出血が増えやすいと言われています。
微小出血はさらなる大出血に繋がる恐れがあるので歯周病の管理、オーラルケアをきちんとすることもひいては脳出血を予防することに繋がるかもしれません。

生活習慣以外には、自分の脳の状態を脳ドックなどを受けることで知っておくことが、早期発見に繋がると思います。
脳動脈瘤、あるいは脳の血管奇形の有無に関して調べておくことも有用な予防手段かと思います。


 

高木正仁
高木正仁

国立循環器病研究センター 脳血管内科 医長  学歴:新潟大学医学部医学科卒業  主な職歴:新潟大学医歯学総合病院 神経内科 医員  東北大学病院高次機能リハビリテーション科 医員  聖路加国際病院 神経内科 医員  国立循環器病研究センター 脳血管内科 医師