コロナ禍の今、接触せずに購入できる「自動販売機」が脚光を浴びている。そうしたなか、45年以上前に開発され、北海道から姿を消した幻の自動販売機が復活。連日、大勢の人が訪れる理由とは。

ボタンを押したら25秒。アツアツのうどんやそばが出てくる。この機械、見覚えあるだろうか?

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運送会社を経営 高橋司さん(58):
子どものミルクを入れるお湯なども置いてあったから、そこでミルクを作って妻とそばを食べたりしていた

ドライバーや学校帰りの学生を温めていた自動販売機。
しかし、一度は北海道から姿を消した。眠っていた1台の復活に賭ける、一杯の湯気に魅せられた人たちの物語があった。

北海道唯一…復活したそば・うどんの「自動販売機」

2021年12月、北海道美瑛町に小さな小さな店がオープンした。お客さんが次々にやってくる。その、お目当ては…そばやうどんの自動販売機だ。調理時間わずか25秒の早業。「天ぷらうどん」や「天ぷらそば」。
1975年に製造が始まり、1995年までに3000台が製造された。

客:
昔はよくあって、見つけたときには食べていたが、見かけなくなったので、久しぶりに食べました

客:
登別市からわざわざ。きょうはこの(自販機の)ために来た

北海道で動いているのはこの1台だけ。長らく石狩地方の当別町の倉庫で眠っていた。

美瑛町で食料品店を営む花輪紀宏さん(38)が譲り受け、修理を続けてきた。
しかし、調理は初めて。味に試行錯誤が続いた。

花輪食品店 花輪紀宏さん(38):
自動販売機から出てくる時、少し麺の芯が残り、温まり切らない状態の時もあった。(麺とだし汁を)合わせてみて初めて分かることもあり、調節して自販機専用に仕立てた

自社ブランドの商品を使うつもりだったが、自販機には合わずに一から開発。
そば粉は名産、旭川市江丹別のもの。小麦粉も地元のものを使い、自動販売機のために特別にブレンド。だし汁は飽きが来ないようあっさり目に仕上げた。
修理が行われていた2021年10月、調理時間25秒の秘密を特別に見せてもらった。

わずか25秒で調理する自販機に凝縮された「昭和の技術」

調理室に入ってきたのは、麺が入った丼。すると85℃の熱湯が注がれる。そして、丼の上にしっかりとフタが…。

丼が勢いよく回転!中の麺がほぐされて温められると同時に、お湯は遠心力で外に飛んでゆく。
フタがしっかりと閉められているので、勢いよく回転しても、中の麺や具材は飛び散らない仕組み。
「ほぐし」と「温め」「湯切り」が同時進行。「湯がき」はわずか4秒。これを2回繰り返す。

最後は、だし汁と熱湯が注がれて完成。あたたかい一杯には昭和の技術が詰め込まれている。
しかし、レトロ自販機復活計画に暗雲が…

花輪食品店 花輪紀宏さん(38):
調理器具を使った飲食店という扱い。(屋内でないと保健所の許可が下りないため)この設備を整えている

全国から寄せられた"熱い思い"が復活の後押しに

自販機を置く建物を新築する必要があり、費用はなんと400万円になった。
しかし、レトロ自販機を愛する人たちがクラウドファンディングで120万円を寄付してくれたのだ。

さらに、レトロ自販機の仕組みに詳しい神奈川県の男性も無償で修理を申し出てくれた。

この自販機が元々あった場所を記録していた人が十勝地方の池田町にいた。魚谷祐介さん。全国各地を回り、レトロ自販機を調査。2014年には本も出版している。

レトロ自販機に詳しい 魚谷祐介さん(48):
まさに国道沿いという店といった感じです。『イラッシャイマセ!』この自動の声も懐かしいですよね

当別町にあった無人のドライブイン。こうした場所でトラックドライバーたちのお腹を満たしてきた。
魚谷さんによると、食品の自動販売機はコンビニや弁当チェーンが一般的ではなかった1970年代に普及を始め、80年代中頃が最盛期。

しかし、ファミレスや電子レンジの普及など、世の中が便利になると数を減らしていった。道内では2014年、当別町にあった1台を最後に姿を消した。

魚谷さんが感じるレトロ自販機の魅力とは?

レトロ自販機に詳しい 魚谷祐介さん(48):
見た目が古くボロボロに見えても、その中からちゃんとしたおいしい物が出てくる。そのギャップが僕はおもしろいと思う

あの味を楽しみにやってきた男性も

釧路市で運送業を営む寺沢浩樹さん(48)。かつて当別町の自販機を利用していた1人だ。

釧路市の運送業 寺沢浩樹さん:
店に頻繁に立ち寄っていると、互いに名前は分からないが、『きょうどっち行く?』とか『道路はどうだった?』とか、会話を交わしたり、情報を交換したり。同じように眠たい目をこすりながら走る仲間がいるんだと感じた。そこで温かいものを食べて、人と会話をして癒される。温かい気持ちになるというか、ほっとするというのかな

復活したと聞いて、5時間かけて美瑛町を目指す。約7年ぶりの対面。

釧路市の運送業 寺沢浩樹さん:
来たよ! これ! 久しぶりだ! うん、おいしいね! 思い出すね、色々な所で食べたこと。ほっとする感じがする…
(Q.3分立たないうちに完食ですね? )
完食です、いただきました! (自販機を復活させた花輪さんに)おいしかったです。色々昔の懐かしいことを思い出しながら…食べさせていただきました。若い方が味を引き継いでもらって、僕らもまたここに寄りたくなっちゃうし

自販機の復活から約1か月がたった。
レトロ自販機に惹かれて訪れる若い人たちも。いまでは1日50杯を売ることもある。

花輪食品店 花輪紀宏さん(38):
若い人も、懐かしいと感じる年配の人も、幅広くご利用いただければ

昭和から平成、そして令和。時代が変わっても湯気が温めるのは人の気持ちだ。

(北海道文化放送)

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