2023年日本で開かれるG7サミット(=主要7カ国首脳会議)の開催地をめぐり、今国会で与野党から多くの質問が出ている。
G7サミットの開催地に決まれば、国際的な知名度アップにつながり、経済効果も見込まれることから、すでに誘致合戦が始まっている。これまでに、名古屋、福岡、広島の3都市が名乗りを上げていて、それぞれ自らのメッセージ性や都市機能、国際会議の実績などをアピールしている。
3都市の中で最後に手を挙げた広島は、岸田首相の出身地で、人類史上初めて原爆が落とされた都市だ。もし開催地に決まれば、岸田首相がライフワークに掲げる「核兵器のない世界」を全世界に訴える絶好の機会となるため、岸田首相の判断が注目されている。
心の底ではやはり?広島開催を求められ“笑み”
このG7開催地をめぐり、衆院予算委員会で首相の本音が見えたかと思える場面があった。1月26日の立憲民主党の江田憲司衆院議員との質疑だった。
江田憲司議員:
被爆地出身の総理として、広島で開催するお考えはないか?
岸田首相:
総合的に勘案して適切な開催地を決定したい
いつもと同様の答弁をする首相。これに対し、江田議員は被爆の実相を知ってもらう格好の舞台になるとして、重ねて広島開催を求めた。
江田憲司議員:
総理、もう一度ご答弁お願いできませんか?
岸田首相:
G7の開催地については、はい、あのー(思わず表情が緩む)、日本の国益、そして様々な点を総合的に勘案して、しっかり決定したい

答弁内容は同じだが、後半思わず笑みがこぼれた首相を見て、委員会室に笑いが起こった。
江田憲司議員:
笑みがこれぼれたので、もう心の中では決めておられると思う。もう絶対やるしかないです、総理。今この時に総理大臣という地位におられるんですから。地元びいきだと言われたってね、そのぐらい許されますよ
江田議員がこう続けると、委員会室はさらに笑いに包まれた。
広島開催:強い発信力の一方でハードルも…
広島は去年11月末、国際平和文化都市としての知名度と発信力を掲げて、3度目の挑戦となるサミット誘致を表明。1月26日、官民による誘致推進協議会を立ち上げ、翌27日には、広島市の松井市長と広島県の湯崎知事が首相官邸を訪れ、岸田首相に広島開催を要望した。

要望では、各国の首脳が被爆の実相に触れれば「核兵器の非人道性を認識し、絶対悪であるとの思いを抱くと信じている」とした上で、「被爆の実相をしっかり受け止めながら、世界の諸課題を議論することは効果的」とその意義を強調した。
これに対し、首相は「複数候補地があるので、比較をして精査する」と答えるにとどめたという。
しかし、岸田首相は外相時代に、オバマ大統領(当時)の広島訪問に尽力するなど、被爆地・広島への思いには並々ならぬものがある。

1月6日の施政方針演説では「各国の現・元政治リーダーの関与も得ながら“国際賢人会議”を立ち上げ、本年中に一回目の会合を広島で開催する」方針を示した他、1月21日に発表したNPT(=核拡散防止条約)に関する日米共同声明では、政治指導者や若者に被爆地を訪問するよう要請するなど、これまで何度も政治指導者の被爆地訪問を訴えてきた。
そんな岸田首相にとって、G7開催地の本命が広島だったとしても何の不思議もない。
しかし、広島以外に、福岡、名古屋の2都市が名乗りを上げる中、岸田首相は、開催地は「多くの人が納得してもらえる状況を確認した上で決める」としている。
広島でのG7サミット開催実現には、核保有国の存在も大きなネックになる。
G7メンバーのうち核保有国であるイギリス、フランスは、首脳の被爆地訪問により核兵器廃絶への機運が高まることを嫌がるおそれがあり、理解を得られるかは不透明だ。
外相時代に広島でG7外相会合を行った岸田首相はその大変さを実感しており、年始のテレビ番組に生出演した際も「核兵器国のリーダーが被爆地に足を運ぶということは、かつても(各国内で)議論があったし、もしやるとしたらいろんな議論があると想像はしている」と話している。
一方、同じ核保有国でも、アメリカは既にオバマ元大統領が2016年に現職大統領として初めて広島を訪問していて、当時副大統領だったバイデン大統領も「核なき世界」の理念を継承する立場をとる。さらに最近来日したばかりのエマニュエル駐日大使も広島訪問の意向を示すなど、被爆地での開催に抵抗感は少ないように見える。

しかし、アメリカには原爆の正当性を訴える声が根強くあり、今年11月に中間選挙を控えるバイデン大統領から賛同を得られるかについても確実とは言えない。
“核兵器のない世界”を目指す首相の政治判断は?
開催地選びにあたり、政府は、宿泊施設や会議場、交通アクセス、警備など、あらゆる観点から総合的に検討を行った上で判断するとしている。
ただ、過去には、小渕恵三元首相が開催地を決めた2000年の九州・沖縄サミット、安倍晋三元首相が決めた2016年の伊勢志摩サミットなど、当時の首相の意向が開催地に大きく影響してきた。
今年は、NPT(=核拡散防止条約)再検討会議など核軍縮に関する国際会議があり、核軍縮を進める上で重要な年だ。オバマ大統領(当時)の歴史的な広島訪問から6年が経つが、核軍縮は進むどころか、核をめぐる国際情勢は厳しさを増している。
岸田首相の掲げる「核兵器のない世界」への道のりが簡単なものではないことは、外相を4年半余り務めた首相自身が一番よく分かっているはずだ。とは言え、被爆地・広島でのサミット開催が決まれば、その大きな理想に向けた一歩になるのは間違いない。
政府は6月下旬にドイツで開かれるサミットまでに開催地を決める方針だ。岸田首相の今後の判断に注目したい。
(政治部 武ゆかり)