「私の感覚ですが、永田町の議論の相場観が壊れたなという気がすごくしていて」

インタビューに臨んだ筆者にこう語り始めたのは、当選回数わずか3回(現在は4回)で自民党の総務会長に抜擢された衆議院議員福田達夫氏だ。元総理の祖父と父をもち、政界きってのサラブレッドと呼ばれる福田氏は、月刊誌で「5年後の総理候補」に断トツ1位で選ばれた。
その福田氏にオミクロン対策から来るべき参院選まで聞いた。

福田達夫氏はわずか当選回数3回で自民党総務会長に抜擢された
福田達夫氏はわずか当選回数3回で自民党総務会長に抜擢された
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「永田町の議論の相場観が壊れた」

――「議論の相場観が壊れた」とは具体的にどういうところですか?

福田氏:
野党の先生方の追及するところも「そこですか?」というものもありますが、我々の議論もそういう部分があります。たとえば補正予算の額ですが、リーマンショック時に大騒ぎした時でも10兆円を超えるかどうかでしたが、いまや10兆円を超えるのが当たり前のようになっています。

もう1つ感じるのは、国政と地方行政の違いが無くなってきた。本来は地方自治体がやるようなことを国政がやるようになって、居住まいが悪いという感覚を今すごく持っています。
 

――オミクロン対策では、福田さんは「民間データの力を借りよう」とこれまでも唱えていますね。

福田氏:
例えば協力金の支払いですが、いま政府には「飲食店の売上高がどれだけ減ったか」というデータがありません。私は中小企業政策に注力していますが、帳簿をつけずに事業をしている経営者も多い現実の下で、「事業が維持できないから協力金を」と求められても、政府にはそれがいくらぐらいなのか分かりません。

民間事業者が自分たちの持っているデータを月ベースで提出してくれないと正しい現状把握ができないのですが、「個人情報を見せるのは嫌だ」と言われてしまったら、政治としては正しい対策はできなくなるのです。

日本はデータ利活用に未成熟

――今回民間有志で構成、活動する研究チーム(CATs)を中心として、民間が感染予測データを公表しています。政府からはこうしたデータを出さないのですか?

福田氏:
2つの難しさがあります。1つは、官製データだけではできません。もう1つは、時々刻々と変化する複雑性の高い予測は大変に難しい。例えば感染者数や人流などの動的データは常に変わるので、日々予測も変化します。しかし統計のことをわからない人は「なぜ外れたんだ?」「誰の責任だ?」となる。私は2年前から蛮勇を振るって「やるべきだ」と国会で政府に問い糺してきましたが、無謬性が求められる政府としては、国会で説明しきれないのが怖いんですね。
 

CATsが発表した第6波ピーク予測(2月2日イット!放送より)
CATsが発表した第6波ピーク予測(2月2日イット!放送より)

――日本はまだまだデータ利活用について未成熟なんですかね。

福田氏:
そうですね。たとえば最近データが「使える」ことがわかった人たちは、データを売ろうとするんです。しかし、お金はみんなが小銭を持っていてもたいしたことないけれど、出し合って銀行に貯めて、ある程度の規模になれば投資が出来る。データも同じです。自分たちが持っているデータをみんなが持ち寄れば公共財になります。

そこから見えてくる仮想現実から課題を抽出して、「それを解決する新しいサービスを創出しましょう」となった方がいいはずですが、日本は非常に個人情報に対してのセンシティビティが高いし、データそのもので儲けたいと思っていますね。

福田氏「データを皆が持ち寄れば公共財になる」
福田氏「データを皆が持ち寄れば公共財になる」

「新しい資本主義」政府の役割とは

――「新しい資本主義」について伺います。岸田総理が言う「新しい資本主義」の定義ですが、私はデフレ思考を変えるということかと推察していますが。

福田氏:
デフレマインドを変えるというのは、一つの答えとして出てくるんだと思います。日本はこの30年間、デフレによって実体経済に回るお金の量が増えず、円の価値が落ちて、国民みんなが一緒に貧しくなっているという状況だったんですね。まずは緩やかな2%程度のインフレにしなければならず、それに合わせて経済が動き、それに連動して給料も上がってくる。

しかし今のサプライチェーンの中では難しいので、政府が未来の社会的なニーズ、課題に合わせた市場を設定し、その課題解決に向けた新しいサプライチェーンの絵を描く。これが「新しい資本主義」の骨格だと思います。

子ども問題は家庭の機能が壊れたため

――「こども家庭庁」ですが、党内でもネーミングに「家庭」を入れるかどうかで様々な議論があるようです。

福田氏:
もともと私は、「こども庁」でいいのではないかと思っていました。なぜなら、現在の子ども問題というのは、「家庭の機能」という大前提が壊れてしまっているのが原因だからです。子どもの自殺や不登校、DVもそうです。子どもに責任を持つのは家庭で、教育は学校、保育は福祉で、犯罪は警察と、それぞれの社会機能で補完することが前提でしたが、その中核である家庭機能がこれまでと違ってきてしまっているのです。
 

――政治の場で家庭の機能についての議論は進んでいますか?

福田氏:
しかし政治の議論では、社会の最小単位である「家庭をどう捉え直すか」が充分ではありません。「家庭が基本だ」と仰いますが、昭和の家庭に戻そうとしているのか。そうすると女性の社会進出を止めるのか、もしくは男性がもっと家事をやることを当たり前にするのか。こうした議論を保守政党の自民党として、もう一度しなければならないと思いますし、これは実は、選択的夫婦別氏や18歳成人年齢の話にもつながるのです。

福田氏「家庭が基本というが昭和の家庭に戻そうとしているのか」
福田氏「家庭が基本というが昭和の家庭に戻そうとしているのか」

国会議員が地方議員化している

――2021年の自民党総裁選の際、福田さんや若手が中心となって立ち上げた「党風一新の会」ですが、その後、党改革はどうなっていますか?

福田氏:
党風一新の会では、党改革が国会改革につながり、最終的には日本の統治機構改革になるという想いでやっています。いまは1970年代からの政治改革の歴史について論点整理をやっているのですが、党改革の論点は1989年の「政治改革大綱」にほとんど書かれています。 しかし30年の歴史の中でズレが生じている点もあります。
 

――たとえばどんなズレでしょう?

福田氏:
例えば小選挙区制導入は、国会議員が国家的議論に特化するため、地方の議論をしなくてよくなるように、地方分権とセットで導入されました。現実は、地方分権がどんどん薄れた結果として、この数年間党の部会でも「地元の利益誘導するのは国会議員の仕事だ」と公言する議員が増えています。かつて目指した小選挙区制導入時の懸念が顕在化している現状も踏まえて、党改革を議論する必要があります。

「今の維新は上手いなと思いますね」

――最後に今年は参議院選挙があります。公明党との関係がぎくしゃくしているようにも見えますし、維新との距離感も気になります。

福田氏:
自公連携と言うと組織同士の話だと皆思っている気がしますが、まずは人対人で関係を作ってから、その結果としての両党だと思います。「党の上の方で話をして決まったから、我々も従います」だと、政党政治が空洞化するのではないでしょうか。

また、もう一度身の詰まった二大政党制を作る時期に来ているのではないかと思います。1996 年に民主党が誕生したときから見てきましたが、当初からポジションを取り間違えていました。本来取るべき層は維新が取っている都市部のサラリーマン層です。だから今の維新は上手いなと思いますね。

――ありがとうございました。

「5年後の総理候補」として期待される福田氏
「5年後の総理候補」として期待される福田氏

取材後記:

福田氏は「5年後の総理候補」と最も期待されている。その福田氏に「リーダーの役割」について聞いてみた。

「政治のリーダーは目標を示すのが一つの役割です。山のあそこの頂に行けば、未来が開けると言うのか。いつまで頑張れば乗り越えられると言うのか。時間で示すのか、視野・視覚で目指すか。どちらでもいいのですが、何かを示さないで闇雲に連れて行かれるのが一番怖くて疲れるんですね」

果たして福田氏は日本のリーダーとなるのか、引き続き注目していきたい。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。