2020年に公開され大ヒットした映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』。その主人公だった立憲民主党の衆議院議員小川淳也氏は、2021年の衆議院選挙で相手候補に勝利し党の政調会長に上り詰めた。一方、大敗した立憲民主党は新体制となっても支持率が低迷したままだ。来る参院選に向け、党をどう立ち直すのか?小川淳也氏に聞いた。

「政権政党としては認知されなかった」

――映画『なぜ君は・・』の続編といえる新作『香川1区』でも描かれていましたが、2021年の衆院選で小川さんは勝利したものの立憲民主党は大敗を喫しました。まずこの敗因を小川さんはどう総括しますか?

小川氏:
「政権政党としては認知されなかった」の一言に尽きると思います。いろいろご批判もありますが、衆議院は全選挙区一人区なので、野党の一本化は重要だと思っています。映画にもありましたが自分の選挙区では維新のまちかわさんとの一件で騒動になってしまい反省しきりですが・・逆に言うとそのくらい一人区の一本化への想いが強いということなんです。

映画「香川1区」では小川淳也議員は相手候補に勝利したが‥ © ネツゲン
映画「香川1区」では小川淳也議員は相手候補に勝利したが‥ © ネツゲン
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共産党とは選挙区調整か本予算に賛成か

――共産党との「限定的な閣外協力」が有権者に伝わりづらかったですね。

小川氏:
非常にわかりにくかったと思っています。これは私、二通りやり方があったと思っていまして、まず一つ目は選挙区調整に止めると宣言する。これはこれで分かりやすいし効果があった。もう一つは「限定的」というなら何を協力し何が協力できないのかをはっきり言う。例えば国会で協力するにあたって一番重要なのは首班指名ですね。おそらくこれは協力して頂けると思います。次に重いのは本予算採決です。本予算に賛成するか反対するかは、まさに政権を信任するかしないかです。

――本予算では防衛費や皇室の費用がポイントになりますね。

小川氏:
立憲を中心とする政権ができたとき、共産党が本予算に賛成しないとなると「限定的な閣外協力」という概念とは矛盾することになる気がします。本予算は政権への信任投票なので、これに協力しないという選択肢はおそらくないだろうと。仮に立憲を中心とした政権ができたとしても約5兆円余りの国防費、皇室費用や思いやり予算を含めた日米同盟の費用は必ず入ることになるでしょう。共産党さんがもしもその橋を渡って更なる現実化路線に一歩踏み出されるなら、さらに国民に理解される可能性が出るという気がします。もしそうでなければ選挙区調整に止めると言った方が分かりやすいと思います。

小川氏「共産党が本予算に賛成しなければ限定的な閣外協力と矛盾する」
小川氏「共産党が本予算に賛成しなければ限定的な閣外協力と矛盾する」

維新から共産まで合併した大野党を

――新体制となりましたが立憲民主党の支持率は低迷を続けています。泉代表は「批判」から「提案」路線に舵を切りましたが、今年参議院選挙を控えて今後も続けていきますか?

小川氏:
まず泉代表が目指している「提案」型について申し上げると、立憲の議員立法の提出によって岸田政権が政策を変えるということが相次ぎました。野党の議員立法提出がかつてなく大きな起爆剤になっていて、これは一つの成果だと思います。

参議院選挙は半年後ですから、政策に加えてやはり他党との関係をどうするのか、それがどのように選挙対策につながっていくのかもあわせて考えなければなりません。立憲の支持率の問題は立憲単体での魅力、地力が必要なのはもちろんですが、野党第一党として野党全体のリーダーシップを発揮できるかどうかも問われてくるのではないかと思います。

――泉代表は中道にウイングをのばすべきだとしています。「中道」は維新が念頭にあると推察しますが、小川さんは維新とどう向き合うべきと思いますか?

小川氏:
私のまったくの私見、妄想としていうと、本来なら維新から共産まで全野党が合併すればわかりやすいのにと思うことがあります(笑)。大連立ではなくて巨大野党ですね。心ある野党陣営に所属しているという気概をもって、維新から共産まで合併し、大野党を形成すべきだという妄想です。おそらく自民党にとってこれほど嫌なことはないでしょうね。立憲が維新との共通項として見出すべきは、改革姿勢だと思います。一方で改憲論や極端な規制緩和路線は距離を感じなくもないですが。

小川氏「維新から共産まで全野党が合併すればわかりやすい」
小川氏「維新から共産まで全野党が合併すればわかりやすい」

維新との対立は国家にとって損失

――自民党は清和会から宏池会までウイングの幅が広く、懐が深い。野党にはそこが欠けていますね。

小川氏:
だから同じ屋根の下で極端に言えば家庭内別居でもいいんですよ。自民党のように一つ屋根の下で我慢して暮らしていることの強みと、ちょっと違えばすぐ分家したがる野党の弱み。私はこれが野党の最大の弱点だと思っています。いまの維新を見ていても、立憲を目の敵にしているようなメッセージがありますよね。最近支持が上がっていることもあって、野党第一党のポスト争いをしているのでしょうが、所詮野党内の話ですからお互いが消耗すること自体が国家にとっては損失だと思っています。

――かつて有力な支持母体だった連合は立憲離れが進んでいますが、連合とは今後どう向き合いますか?

小川氏:
連合さんとの信頼関係、対話のチャンネルは最重要なので、おろそかにすることはあってはならないと思います。私は、万年野党は国民にとって有害ですが、一方で万年与党も国民にとっては有害だと思っているんです。日本のために一つ屋根の下に住むのが理想だという立場で言うと、連合さんにも共産党など他党との関係も含めて未来をつくるために、それぞれが日本の政治・社会のために乗り越えるべきことを乗り越えないといけないと思います。

小川氏「連合は乗り越えるべきことを乗り越えないといけない」
小川氏「連合は乗り越えるべきことを乗り越えないといけない」

不満グループの離党「無いと信じたい」

――立憲民主党内には泉体制への不満があるとも聞きますが、そうしたグループの「分家」のおそれはありませんか?

小川氏:
いやー、無いと信じたいし、無いと思いたいし。まあ、そうならないように努力したいですね。

――最後に、政調会長としての抱負をお伺いできますか。

小川氏:
私見ということでお許し頂きたいのですが、戦後77年のうち72年間自民党が政権を担当しています。それが一定の安定と繁栄に繋がってきたことも認めますが、一方で刹那的な安定におもねてきた結果として、人口減や高齢化による社会保障のほころび、莫大な財政赤字、気候変動などあらゆる構造問題を子どもや孫に先送りしようとしています。

政治として次世代にきちんと顔向けできる抜本的な構造改革に取り組む。根本に手を突っ込むような改革の方向性を指し示す野党第一党でありたいと思っています。

「次世代に顔向けできる抜本的な構造改革に取り組む」 © ネツゲン
「次世代に顔向けできる抜本的な構造改革に取り組む」 © ネツゲン

自民党に日本の政治を作り直せるのか

――そうすると財政健全化や社会保障改革が最重要ですが、選挙を前にすると政治から声が上がらなくなりますね。

小川氏:
これまで日本は自助と自己責任を求める社会構造でした。もっと公助を整えるために、短期的には減税と財政出動に私は賛成です。しかし未来永劫そうもいかない。所得税の累進構造をどう回復し、ダンピング競争してきた法人税をどう適正化して行くのか。相続課税や、岸田さんが早々にひっこめた金融所得課税はどうするのか。

また社会保障では数少ない現役世代が大量の高齢者を支えることが難しくなっている。この負担構造の見直し議論をいつまで回避するのか。このために私は日本の政治を作り直したい。それは岸田さんや72年間いまの社会をつくってきた自民党にできるのかということです。

――増税と社会保障制度改革を参院選で唱えたら、国民はどんな反応をしますかね。

小川氏:
減税と財政出動を先行させることを前提に、長期的にはそうすべきだと本気で言われたときにハッとする国民は多いと思いますけどね。これまでそれを本気で言う人がいなかったので。

――ありがとうございました。

小川氏に筆者は「何歳まで政治家を続けるのか」聞いた
小川氏に筆者は「何歳まで政治家を続けるのか」聞いた

取材後記:

初出馬の際「50歳になったら政治家をやめる」と言っていた小川さんも50歳になった。最後に何歳まで政治家を続けるのか聞いてみた。

「落選したらその時は引き際を考えなければなりません。本当の意味での期待感とか信頼感が無くなれば、ここにいる理由はないですよね。家族を犠牲にして周囲に大変な負担をかけてまでして、なぜここにいるのかを説明できない時点で、自分の政治的な寿命は終わりだとすごく意識しています」

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。