シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は感染症内科の専門医、大阪市立総合医療センター感染症内科の白野倫徳先生が、冬場に流行しやすいインフルエンザとノロウイルスについて解説。
コロナ禍で今のところ大流行はしていないインフルエンザだが、注意すべき合併症は何なのか。

また、日本の食中毒の原因として一番多いノロウイルスについては、感染経路や一般的なアルコール消毒が効きにくいという予防法などを解説する。

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インフルエンザとは? 

インフルエンザは、インフルエンザウイルスというウイルスが原因で起こる病気です。インフルエンザウイルスには大きく分けて、人に感染するものではA型、B型があります。

もともとインフルエンザウイルスは、鳥のお腹の中にいてそれが何らかのはずみで人にやってくるのですが、渡り鳥を通じて移動するのではないかと言われています。

何十年かに1回の割合で、鳥にしか感染しなかったタイプのインフルエンザが人に感染して病原性を発揮します。そういうのは新型インフルエンザとして認識されます。

2009年の場合は鳥から一旦豚に感染して、豚の中でインフルエンザウイルス同士の遺伝子の変化が起こって、さらに人間に感染する流れでした。

インフルエンザの症状の特徴的なのは急な発熱です。
一般的にはかなり高い、少なくとも38度以上の熱が出るということと、同時に全身の関節が痛くなることや筋肉痛頭痛など全身の症状が出ることが多いです。

「脳症」と「心筋炎」に注意

気を付けなくてはいけない合併症として、特に小さいお子さんに多いんですが、脳症という脳に激しい炎症が起こって意識がもうろうとなることがあります。

ごくまれに心筋炎という心臓の筋肉にウイルスが悪さをして心臓の働きが悪くなったりもします。

場合によってはそういう病気で命を落とすこともあります。
特に高齢の方はインフルエンザそのものの肺炎だけでなく、二次性の肺炎、インフルエンザでダメージを受けたところにさらに別の細菌が感染して、別の肺炎を起こしてしまうとか、そういうのも含めると毎年インフルエンザで大勢の方が亡くなっています。

インフルエンザの予防法

予防については、やはり飛沫で感染するということで、吸い込まないように自分がマスクをするとか、もし自分が咳をする場合は当然マスクをして飛沫を飛ばさないことも大事です。

手をしっかり洗ったり、消毒したりすること。
インフルエンザウイルスはアルコール消毒に弱いので、こまめに手を消毒すること。

それからワクチンがありますので、特に基礎疾患、持病のあるお子さんなど予防すべき人は毎年ワクチンを打っておくことも大事です。

新型コロナウイルスが流行りだしてからの2020年、2021年はかなり減っていますが、それまでは例年秋から増え始めて、冬場12月、1月ぐらいにピークがありました。

そもそも海外から入ってくるケースが多くて、2019年までは海外から観光客やビジネスの人がいっぱいいましたので、もともと熱帯地方あるいは南半球で流行ったウイルスが持ち込まれて徐々に増えてきて寒くなる冬場に一気に増えるというパターンが多かったです。

今シーズンは、当初2021年秋ごろの予想では、外国によってはインフルエンザが例年より増えているところもあり、日本でも増えるんじゃないかという予想もありましたが、現時点ではほとんど増えることなく、たまに報告はありますが、少なくとも大流行はせずに来ています。

ノロウイルスとは?

ノロウイルスは、特に冬場に食中毒の原因となりやすいウイルスです。
毎年秋から冬にかけて流行しやすいのですが、日本では年間通じて、夏でも感染することがあります。日本の食中毒の原因としては一番多くなっています。

感染経路は大きく分けて2つあり、まずはもともと二枚貝、有名なところでは生牡蠣ですが、貝がウイルスを持っていて、それを生で食べることで感染することが1つ。

もう1つは、ウイルスは感染した人の便の中に含まれていますので、トイレを共用したりしたときに手について、その後調理や食事の際に手洗いが不十分だったら口に入って感染するパターンがあります。

ノロウイルスは、口から一旦お腹に入って消化管を通って最終的には小腸の表面の細胞の上で増殖するんですが、その影響で激しい下痢を起こすことがありますし、場合によっては胃を動かす神経が低下したり、麻痺することで嘔吐することもあります。下痢と嘔吐が主な症状です。

突然起こることがありまして、ちょっと前まで元気にしていたのに急に下痢が始まったりとか、急に激しい吐き気がしてきたりすることが特徴です。

持病として免疫力が低下している人は、長いこと症状が続くこともあります。
小さいお子さんやお年寄りだと激しい下痢だけで脱水症状を起こして、場合によっては意識がもうろうとなったり、重症になってしまうこともあるので、注意深く観察することが必要です。

ノロウイルスは一般的なアルコール消毒薬が効きにくい

治療法としては特に有効な薬はなく、予防するワクチンもないので、多くの場合は下痢などでウイルスが出て行くまでしっかり安静にして待つ。
下痢の時に一緒に水分がどんどん失われていくのでしっかり水分を摂ることと、水分と一緒にナトリウムカリウムといった体の中の電解質、ミネラル分も出て行くことがあるので、場合によってはただの水分だけでなく、ミネラルを含むものも一緒に摂った方が良いと思います。

あまりにも吐き気が強かったり、下痢が激しかったりして口から飲んでも追いつかないときは、医療機関で点滴をすることもあります。

感染予防としてのワクチンはないので、感染しないように普段から気を付けるということなんですが、便から感染することが多いので、症状がある人がいる場合はトイレ清掃が大事ですし、公衆のトイレを使う場合はしっかり手を洗うことが大事です。

ここで大事なのが、ノロウイルスは一般的なアルコール消毒薬が効きにくいです。
多くのウイルスは表面にエンベロープという脂分の膜があり、アルコールはそこを壊す作用があります。
しかし、ノロウイルスはその膜を持っていないのでアルコールでは死ににくいです。

最近はノロウイルスにも効くようなアルコールの消毒薬も開発されていますが、多くの場合は不十分なので、トイレを掃除する時は次亜塩素酸ナトリウムという成分を使った洗剤を使うこと。
手は次亜塩素酸ナトリウムで洗うのは難しいので、しっかり流水と石けんで洗うことが大事です。

ノロウイルスは空気感染するものではないので、感染した人と一緒にいたからうつるというものではありませんが、激しく嘔吐したり便で汚染されたところからウイルスが舞い上がって吸い込むことで感染することがあると言われています。

有名な話では、絨毯に嘔吐した後、そこを掃除していて掃除機をかけたら掃除機からウイルスが巻き上がって感染したという報告があります。
掃除するときはホコリを飛ばさないようにするとか、しっかりマスクをしておくことが大事かと思います。

あとは生牡蠣のような食べ物でうつることもあるので、しっかり加熱したものを食べるとか、生牡蠣を食べる場合は十分安全なものを使うことが大事です。
 

白野倫徳
白野倫徳

大阪市立総合医療センター感染症内科副部長 2002年愛媛大学医学部卒業 2010年京都大学大学院医学研究科修了 2010年より大阪市立総合医療センター感染症内科 日本内科学会総合内科専門医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本エイズ学会認定医・指導医など