2021年2月の火災で文化財の建物を失った、長野県山ノ内町の老舗温泉旅館。焼失した建物の再建を決め、気持ちも新たに新年の営業を迎えている。

湯田中温泉の老舗旅館「よろづや」(長野県山ノ内町)
湯田中温泉の老舗旅館「よろづや」(長野県山ノ内町)
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200年の歴史誇る旅館 2年ぶりに戻った賑わい

大雪となった新年の湯田中温泉。老舗旅館「よろづや」が、多くの客を迎え入れていた。

 
 

旅館内にある源泉かけ流しの「桃山風呂」は国の有形文化財。200年の歴史を誇る人気の旅館だ。

よろづや女将・小野恵子さん:
毎年、スキーで正月を迎えられるんですか?

宿泊客:
いや初めてで。なかなか出かけられなかったので

よろづや女将・小野恵子:
コロナでそうですよね

新型コロナの影響が落ち着いたこともあり、久々に賑わいが戻った。

宿泊客:
みんな元気でよかった、乾杯!

活気が戻った旅館に社長の小野誠さん(62)は…。

宿泊客を迎える小野誠社長
宿泊客を迎える小野誠社長

よろづや・小野誠社長:
去年、旅館をやって初めて「こんなに暇な正月」と思ったので、それに比べると今年は順調だなと

社長の安堵は2021年の状況を思えばこそ…。旅館は新型コロナともう一つ、大きな苦難を抱えて新年を迎えた。

歴史ある建物焼失も…営業再開を目指して

よろづやの離れ「松籟荘」(昭和14年・1939年建築)
よろづやの離れ「松籟荘」(昭和14年・1939年建築)

「よろづや」の離れ「松籟荘(しょうらいそう)」。戦前の建築で、桃山風呂と並び国の文化財に指定されていた。客を迎え入れるだけでなく湯田中のシンボルともなっていたが…。

2021年2月の火災
2021年2月の火災

記者リポート(2021年2月11日):
湯田中温泉の中心部、建物が炎に包まれています

2021年2月、2階の厨房から出た火が建物に延焼。松籟荘は全焼した。変わり果てた地域のシンボル。よろづやは休館を余儀なくされた。

ただ、沈み込んでいたわけではない。女将を中心に接客を見つめ直すなど、挽回を期して営業再開を目指した。

接客の研修(2021年4月)
接客の研修(2021年4月)

よろづや女将・小野恵子さん(2021年4月):
お抹茶の茶わんをいったん手のひらに受けて、ちょっと回してお出しした方が丁寧だと

よろづや・小野誠社長(2021年4月):
もう一回、ゼロから再スタートだと思ってますので、一人でも多くのお客さまがファンとなるように。そんな迎え方をしたいと

小野誠社長がスタッフにあいさつ
小野誠社長がスタッフにあいさつ

火災から約2カ月後に営業再開。

よろづや・小野恵子女将(2021年4月10日):
2月に火事を起こしてしまいまして、きょうが再オープンの日。そんなときにお越しいただきまして感謝を申し上げます

励まし受け再建を決意 面影残した外観に

火災から10カ月が経った、2021年の年末。

基礎部分が残る「松籟荘」の跡地(2021年12月)
基礎部分が残る「松籟荘」の跡地(2021年12月)

よろづや・小野誠社長(2021年12月24日):
こうやって見ると、意外と大きいでしょう?

現在、松籟荘の跡地はコンクリートの基礎部分が残るだけとなっている。自分の代で焼失させてしまった大事な建物。小野社長は、営業再開時には松籟荘の再建を決意していた。

跡地を見つめる小野社長
跡地を見つめる小野社長

よろづや・小野誠社長:
祖父が力をいれて作って、父親もリニューアルをして、私の代になってからも何度も手を入れてきた館だったので、それを失ってしまったというのはご先祖さまに申し訳ない。あとはコアなリピーターの方が大勢いて、たくさん励ましのお手紙をいただきまして。ぜひ再建してほしいと、そういう声に押された

宿泊客から届いた励ましの手紙
宿泊客から届いた励ましの手紙

新しい松籟荘は、別館を取り壊して建て替えることにしている。別館に見切りをつけたのは、コロナの影響でインバウンドの客が見込めないことも背景にある。

よろづや・小野誠社長:
スタッフにとっては思い入れがあるんでしょうけど、全部きれいな新しい館ができると思うので、またそこで新たな歴史をつくってもらえれば

新しい松籟荘の完成イメージ(提供:よろづや)
新しい松籟荘の完成イメージ(提供:よろづや)

新しい松籟荘も木造建築。かつての面影を残した外観になる予定で、2023年12月の完成を目指している。

再起に向け決意新たに「長く愛される宿つくりたい」

再起を誓って迎えた新年。2021年は新型コロナウイルスの第3波の影響でほとんど客がいなかったが、この年末年始は予約が入りスタッフも忙しく動いていた。

年末年始はスタッフも大忙し
年末年始はスタッフも大忙し

スタッフ:
現在、2棟なくなっている状態ですので、お客さまの数は半分くらいになりますけど、その分きめ細かいおもてなしができればいいなと

午後3時過ぎ。

よろづや女将・小野恵子さん:
いらっしゃいませ、お疲れさまでございます

チェックイン時間を迎えると、続々と宿泊客が訪れる。

続々と宿泊客がやって来る
続々と宿泊客がやって来る

宿泊客:
ここは前に来たことがあって、もう一回来ようかなと。前は松籟荘に泊まらせてもらったんですけど、残念だなと。(再建したら)機会があったらぜひ来たい

こちらは3世代で宿泊。孫たちの帰省に合わせて2年ぶりの家族旅行だ。

祖父:
元気な顔を見るだけでもうれしい

孫:
ごはんもおいしいし、お風呂もすごく大きくてびっくりして。いい旅館だなと

よろづや・小野誠社長:
ありがたい、年末年始はお客さまが戻ってきたという実感はある

年末年始はほぼ満室となった。

新型コロナに火災と、苦難の時を迎えた老舗旅館。シンボルの復活と旅館の再起を目指す1年が始まった。

よろづや女将・小野恵子さん:
新しいものができるということは希望の光ですので、気持ちはそちらの方にシフトして。去年で厄をすべて落としたと言ってはなんですが、明るい年にしたいなと

よろづや・小野誠社長:
最大限のおもてなし、ソフト力をもっとつけて、よりハイクラスな宿に磨き上げていきたい。本物として長く愛される宿をつくっていきたいなと

(長野放送)

長野放送
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