アメリカ・ニューヨークで現役最古と言われる地下鉄車両が引退した。
実際には、筆者は「乗り鉄」でも「撮り鉄」でもない。でも、そのワクワク感はなんとなく理解できて、かすかに記憶にあった地下鉄車両の引退に関しては、最後に乗ってみたいという思いに駆られた。
鉄道ファンが見守る現役最古の車両の引退

1月9日、世界でも現役最古の地下鉄車両のひとつとされる「R32」が58年の勤めを終え、ニューヨークでラストランを迎えた。「ブライトライナー」との愛称で親しまれたこの車両は、1964年にマンハッタン中部とブルックリンの南端を結ぶ現在の「Q線」を走ってきた。

軽量なステンレス製の車両は当時、運転の面でもメンテナンスの面でも画期的で、その愛称の通り鉄道に「明るい」未来を届けた。

驚いたのはニューヨークの鉄道ファンの存在感だ。
「R32」の特徴は車両の前面にある窓だ。この日、先頭車両の中はファンが携帯やカメラを手にひしめき合っていた。前日にニューヨーク州の新型コロナウイルスの新規感染者が過去最多の9万人を超えたと発表され、ふと心配がよぎる。車内でも混雑を予期していなかったファンからも「Oh my God..」と一瞬、後悔する声が漏れるが、やはり「ラストランを見届けたい」という思いが強いようだ。

やがてターミナルが近づき、ホームで待ち構えるファンが見えると車内には歓声があがり、ホームに応えるように皆が一斉に手を振る。
鉄道を愛する人たちの間の一体感すらあった。

黄色とオレンジの座席の「R46」もアイコニック
「あと何駅でおうちつくの?」
時々思い出す、幼少期のニューヨークの地下鉄の記憶がある。断片的ではあるが、座席がオレンジや黄色い車両に乗り、駅に停車するたびにそう母親に尋ねる自分だ。

このカラフルな座席がある車両は、引退したばかりの「R32」とは別の「R46」で、現在も「Q線」を含むいくつかの路線で使われている。座席は固いが、すっぽりとおしりが収まり、あたたかみがある内装だ。1970年代から変わらないデザインに、今も愛着を感じる人は多い。
実はこの「R46」車両は、川崎重工のアメリカ現地法人が製造した最新の「R211」に置き換わることになっていて、すでに2021年7月に初編成が納入されている。

地下鉄の “危険度” 、体感的には・・
1970年代後半は地下鉄の中で殺人事件が起きたり、強盗事件が頻発するなど治安の悪さはピークだったという。車両の側面のみならず、車内にもスプレーで落書きがされ、窓の外すら見えづらかったことも記憶しているが、1980年代後半には取り締まりが強化され、やがて落書きはなくなり、治安も改善された。
個人的には地下鉄に乗ることに抵抗感はさほどない。
しかし、数カ月前にマンハッタン北部に向かう車両の中にいた時のことだ。ホームレスの男性が乗客に金を要求し、黙っていた乗客に暴言を吐き捨て、その後、子ネコを抱えて乗り込んだ別の男性が「どうか、この子のために恵んでください」とドアの前に座り込んだ。しばらくすると、車内にいた女性が突然大声をあげた。理由は不明だった。
いずれも乗っていた40分の間の出来事で、思わず鞄を強く抱きかかえた。
日本製の車両は安全性以外にも、落書きなどが落としやすいことでも知られている。
世代交代はさみしさも伴うが、かつての「ブライトライナー」のように、日本製の車両がニューヨークの地下鉄の「安心安全」な明るい未来に寄与することに期待したい。
【執筆:FNNニューヨーク支局長 弓削いく子】
【表紙画像提供:Metropolitan Transportation Authority of the State of New York】