2020年の大統領選挙の結果をめぐり、2021年1月、アメリカの連邦議会にトランプ前大統領の支持者らが乱入し、警察官1人を含む5人が死亡した事件は6日で1年を迎えた。バイデン氏の勝利を確定する手続きが進められていた「議会」の窓が破壊され、ドアは蹴破られ、アメリカ国旗を振りまわした暴徒が警察官と対峙する異例の事態は、アメリカの分断を象徴し、民主主義の根幹を大きく揺るがした。バイデン大統領は6日の演説で、襲撃を「民主主義への攻撃」と非難し、トランプ氏の責任を追及し、国民に対して結束を呼びかけた。

一方のトランプ氏は、声明で「私の名前を使って、さらにアメリカを分裂させようとしている」とバイデン氏の演説に猛反発。15日にアリゾナ州で開く集会で事件に関する見解を明らかにするとしている。依然としてアメリカの分断と混迷は続いている。

議会で演説するバイデン大統領 トランプ氏を痛烈に批判した
議会で演説するバイデン大統領 トランプ氏を痛烈に批判した
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バイデン大統領「これは観光客ではない。武装蜂起だ」

バイデン氏は演説の冒頭で「1年前の今日、この神聖な場所で、民主主義が攻撃された。私たちの憲法は、最も深刻な脅威に直面した」と語り、トランプ氏について「歴史上初めて、選挙に負けただけでなく、暴徒が議事堂を襲撃する状況で、平和的な権力移譲を阻止しようとした」と痛烈に批判した。

バイデン氏はこの暴徒による取り組みは「失敗した」と強調。暴徒襲撃の際、トランプ氏が「ホワイトハウスの執務室の脇の個室で、警察が襲撃され、人命が危険にさらされ、首都が包囲されるなか、何時間も何もせずにテレビでその様子を見守っていた」とその責任を改めて追及した。さらにバイデン氏は「議会に乱入したのは、観光客ではない。 これは武装蜂起だった」と断定した。

「トランプ氏は敗北を認めず、ウソを拡散させた」

「何が真実で何が嘘なのか、私たちは絶対にはっきりさせなければならない」

トランプ氏が「不正があった」と主張する、2020年の大統領選挙に話が及ぶと、バイデン氏の語気は強まった。

「彼は敗北を受け入いれず、ウソを拡散させている」

バイデン氏は、「選挙結果が不正確であったという証拠は全くない」とし、トランプ氏の主張は国益よりも自らの利益を優先しているからだ」と異例の激しさで糾弾した。また、トランプ氏が議会を襲撃した暴徒を「真の愛国者」と呼んだことについて、「彼らは愛国心や主義主張からここに来たのではない。 アメリカのためではなく、むしろ1人の男のために、怒りにまかせてここに来たのだ」と激しく批判し、「大統領権限の目的は国を団結させることであって、分断させることではないと信じている」として、国民に対しては法の支配や、民主主義を守るための結束を呼びかけた。

ちなみにこの現職の大統領が前職の大統領を激しく批判する異例演説は、バイデン氏が「トランプ」という名前には一切言及せず、「前大統領」や「敗北した前大統領」という言い方に終始していた点も非常に印象的だった。

会見を中止するも声明でバイデン氏に猛反撃
会見を中止するも声明でバイデン氏に猛反撃

トランプ氏「バイデンはアメリカをさらに分断させようとしている」

一方で、バイデン氏の演説で激しく糾弾された形のトランプ氏。当初は予定していた会見を、襲撃事件を調査する議会の委員会などを理由に中止したものの、演説直後に声明を発表し、バイデン氏に反撃した。

「バイデンはきょう、私の名前を使って、さらにアメリカを分断しようとしている」

トランプ氏は声明で、「国境での不法移民の増加、憲法違反のワクチン義務化、悲惨なエネルギー政策など、バイデンは狂気の政策で我々の国を破壊している」と大統領就任後のバイデン氏の対応を一刀両断。

「わが国にはもはや国境はなく、コロナの感染者は記録的な数となってコントロールを失い、エネルギー自給もできず、インフレが蔓延し、軍隊は混乱し、アフガニスタンからの撤退はおそらく米国の長く優れた歴史において最も恥ずかしい日であり、その他多くのことが起こっている」とこれでもかというくらい、政策が思うように進まずに、支持率が低迷しているバイデン政権への批判をまくし立てた。

そして、トランプ氏は2020年の選挙は「大ウソ」であって、バイデン氏らが行っているのは、1月6日という日を利用して、「自分の完全な失政から人々の目をそらすための政治劇だ」と主張した。15日にはアリゾナ州で開く集会で事件に関する見解を明らかにするとしているだけに、さらなる攻撃が続くことになりそうだ。

アメリカ国内では未だ議会襲撃を評価する声も
アメリカ国内では未だ議会襲撃を評価する声も

トランプ氏の「責任」で格差も…さらに深刻なアメリカ社会の分断

一切、かみ合わない形で非難の応酬となった、現大統領と前大統領。一方で、事件が浮き彫りにした、アメリカ社会の分断は依然として深刻なままだ。

ワシントンポストとメリーランド大学が2021年12月に行った世論調査では、襲撃事件について「トランプ氏の責任があるか」を尋ねたところ、民主党支持者の92%が「かなりある」あるいは「ある程度ある」と回答したのに対して、共和党支持者ではあわせて27%と大きな格差が生じている。さらに、政府に対する暴力行為が時と場合によっては「正当化される」と答えた人は全体で34%にも上り、国民の3人に1人を占める形となった。

連邦議事堂へ向かうデモ隊(2021年1月6日)
連邦議事堂へ向かうデモ隊(2021年1月6日)

バイデン政権の支持率が低迷する中で、秋には任期前半の政権運営に対する有権者の審判となる連邦議会の中間選挙も行われる。アメリカの調査会社は、2022年の「十大リスク」に「アメリカの中間選挙」を挙げるなど、バイデン政権の中間選挙での敗北による政情不安が国内外に影響を及ぼすことを懸念している。バイデン大統領が訴える「国民の結束」は依然として果たされないまま、アメリカの混迷が続いている。

【執筆:FNNワシントン支局 中西孝介】

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。