電気・ガス・ガソリン…なぜ価格高騰が続く?
電気やガス、ガソリンなど、私たちの生活に欠かすことの出来ないエネルギー。2021年は、このエネルギーを巡り供給不足や高騰が度々ニュースになった。
1月には電力使用率が100%に迫り、梶山経済産業大臣(当時)は電気の効率的な使用を呼びかけるほど逼迫した。この冬の電力需給についても、資源エネルギー庁は10月、「過去10年間で最も厳しい」との見通しを発表している。
電気料金も高騰が続いている。電力大手10社の電気料金は2021年9月からは来年2月まで6ヶ月連続で値上がり。大手都市ガス4社のガス料金も値上げが続いている。
エネルギーを巡って、なぜこうした問題が頻発するのか?
多くのニュースは「新型コロナウイルスの影響が一段落して経済活動が活発になり、石油などの需要が供給を上回るようになったため」または「冬の寒さが厳しいため」「原発が止まっているため」などと解説してきた。確かにその要素は大きい。
ただコロナが落ち着けばエネルギー問題も解決に向かうのかというと、事はそう簡単では無い。エネルギー問題を常態化させる変化が、着々と進んでいるのだ。それは再生可能エネルギーの増加だ。
この記事の画像(6枚)“高価格”で“不安定”…再エネ導入の課題
2021年11月、COP26・第26回気候変動枠組条約締約国会議がイギリスで開催され、「世界の平均気温上昇を産業革命前から1.5度に抑える」「石炭火力発電を段階的に削減する」などの合意がなされた。COP26を通じて、改めて再生可能エネルギーが注目されたのは記憶に新しいだろう。
EUでは2020年、風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる発電量が全体の38%に及び、石油や天然ガスなど化石燃料による発電量(37%)を上回った。
再生可能エネルギーの導入が遅れている日本でも、2020年度には19.8%と約2割を占めている。日本を含む多くの先進国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指しており、再生可能エネルギーの割合はどんどん増えていくのは確実だ。それ自体は、温暖化を防ぐために不可欠な事であり、再エネ増加は歓迎すべき事だろう。
ただ「電力の安定供給」という視点からは、再生可能エネルギーの増加は不安定要素になりうる。水力・風力・太陽光の発電量は、雨量の低下や長期間の風の停止、曇りなどの天候により大きく左右されるからだ。再生可能エネルギーの割合が増えるほど、不安定さが増す仕組みだ。
さらに日本は普及のため高額に設定した買い取り価格制度(FIT)や送電網が不十分なことなど複数の要因で、他国に比べても太陽光や風力の発電コストが高止まりしている。“環境に優しい”再生可能エネルギーの割合が増えれば増えるほど、コストも上がってしまう構造となっているのだ。
“コスパが良い”はずの天然ガスが欧州市場で高騰…日本にも
欧州ではこうした電力供給の不安定性に対応するため、石油と比べて二酸化炭素の排出が少なく、発電コストが低い天然ガスの需要が高まっている。それに加えて、ロシアがウクライナとの国境に兵力を集め緊張が高まったことから、ロシアからの天然ガス供給が減少するとの懸念が生じ、価格が急騰。
12月21日には天然ガスの指標価格の一つである「オランダTTF」が、一時1メガワットアワー当たり184ユーロ(約2万4000円)にまで値上がりした。これは過去最高額であり1年前のほぼ10倍という異常な価格だ。
こうした欧州での値上がりは、元々日本が購入する東アジアでのLNG・液化天然ガス価格とリンクしていなかった。輸送コストの問題などから調達先が別だった事などが理由だ。
しかしその状況は一変した。
欧州では前述の通り、再生可能エネルギーの増加や経済安全保障の観点からロシア以外からの天然ガス調達需要が高まった。一方東アジアでは、地球温暖化対策のため二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電所の廃止が進んでいる。脱原発の動きとも合わさって、日本、中国、韓国などでLNG需要が増加。
この状況でLNGの輸出量を大きく増やしたのがアメリカだ。日本エネルギー経済研究所によると、アメリカの2021 年のLNG輸出量は7400 万トンで世界のLNG輸出増加分をほぼ独占している。その結果、欧州の天然ガスとアジアのLNGの価格がアメリカを結節点に連動するようになったのだ。
遠く離れたヨーロッパでの悪天候や地域情勢の悪化が、日本のエネルギー調達価格に反映されやすくなった。2022 年にはアメリカのLNG輸出量は8700 万トンに増加することが予想されていてこの傾向はますます強まる。世界のどこかの天候不順が、日本のエネルギー価格高騰を引き起こしかねないのだ。
“価格が不安定”なLNG短期売買が増加
世界的な脱炭素の動きは、巨額な投資を要する化石燃料の資源開発の停滞を招いている。コロナによりエネルギー需要が一時的に低下したことも、ガス田など資源開発の停滞に拍車をかけた。
発電業界の関係者からも「どんなに省エネルギーが進む革新的な事業であっても、化石燃料を使った事業と聞いたとたん銀行はお金を出さなくなる」との嘆き節が聞こえる。新たなガス田などの開発は進みにくく、化石燃料関連の技術開発にもお金が集まりにくい。結果的に現在の限られたパイを奪い合う状況が強まり、価格上昇につながっている。
また、これまで日本の発電業界は、こうしたLNGなどの高騰リスクを避けるために、高騰の影響を受ける短期スポット契約ではなく、先物取引のような10年単位の長期契約を多く結んできた。
そもそもLNGは長期契約が主流だったが、資源エネルギー庁によると、2004年には10%ほどだったスポット契約が2020年には40%まで増加。近年は1年で5%というハイペースで増加していて、長期契約を結ぶこと自体が難しくなりつつある。
“7年ぶり高値”ガソリン価格にも再エネの影響・・・
2021年はガソリン価格の高騰も大きな問題となった。11月には小売価格の全国平均がおよそ7年ぶりの高値となる169円台まで上昇。新型コロナの感染状況が落ち着き、石油の需要が増えた事が主な原因とされる。
日本やアメリカなどの消費国は産油国に増産を要請したが、その時期はちょうどCOP26の開催時期と重なっていた。萩生田経済産業大臣は「COP26の真っ最中に原油の増産をしてくれと要請しても、それで本当に買ってくれるのですか?というのは(産油国側に)あるのだと思います」と述べ、産油国が増産要請に応じなかった背景には、再生可能エネルギーへの切り替えを推進する消費国側の動きがあったとの見方を示している。
「人類のターニングポイント」
イギリスのジョンソン首相は9月の国連総会で、「COP26は人類のターニングポイントになる」と述べた。2021年は世界がカーボンニュートラルに向けた動きを本格化させた年として記録されるだろう。
またエネルギー業界の関係者は「脱炭素社会の実現には、技術革新や社会システムの変更が前提となり、中長期の取り組みが必要だ」「大切なのは、今社会が必要とする膨大なエネルギーを、化石燃料を含む既存エネルギーで安定的に供給しつつ将来の脱炭素エネルギーへ段階的に移行していくことだ」と指摘する。
エネルギー問題も脱炭素に向けて本格的な移行時期に突入し、ターニングポイントを迎えているのだ。
(フジテレビ経済部 経済産業省・エネルギー担当 渡邊康弘)