北海道から東北の太平洋沖の日本海溝と千島海溝で巨大地震が起きたときの死者数は、最大で19万9千人に上ることを政府が公表した。また、10月7日には千葉県北西部を震源とする地震がおき、東京23区(足立区)や埼玉県(川口市)では2011年の東日本大震災以来となる震度5強の強い揺れを観測した。

地震や津波による影響の大きさがあらためて認識されたが、東京や周辺県直下を震源とするマグニチュード7クラスの地震「首都直下地震」は30年以内に70%の確率でおきると言われている。

東京都では10年ぶりとなる被害想定の見直しを進めていて来年2022年に公表されるが、とりまとめにあたっている平田直東大名誉教授と中林一樹東京都立大名誉教授に話を聞いた。

最大の被害想定は都心南部に 島嶼部の津波被害も想定

あらたな東京都の被害想定では国と同様に最も大きな被害は、現在の想定の東京湾北部から東京23区の城南エリアの直下を震源とする都心南部直下地震になる。もちろん地震はどこでいつおきるのかは分からないが、多摩直下の地震、また関東大震災をおこした相模トラフや南海トラフの海溝型地震による伊豆諸島など島嶼部への津波被害についても同時に検討される。

被災後の生活をどう続けるか

中林一樹 東京都立大名誉教授:
「東京の耐震化率はこの10年で8割から9割超になっています。例えば木造住宅10数棟をマンション1棟に建て替えるなどの高層化も進んでいて、床面積は増えていますが棟数はそれほど増えていません」

中林一樹東京都立大名誉教授
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これまでの被害想定は被害の棟数などで表されてきたが、棟数のみではなく床面積や世帯数などで想定するなど考え方も転換点にあるという。

中林氏:
「新たに建てられたマンションや住宅は耐震化や不燃化が進んでいて、地震がおきたとしても倒壊や火災の被害率はこれまでより低くなっています」
「一方で、地震が起きたときに設置される避難所は自宅に住めなくなった人が避難することが前提で、住む家がある人は基本的に受け入れていません。ほとんどのマンションは住むことができれば基本的に避難所に入る対象ではないのです。大切なのは被災した後に避難所以外でもどうやって生活を続けていくかです」
 

自宅が倒壊を免れたとしても、設備が損傷して断水や停電がおきる可能性がある。水、食料、トイレなど生きていくために必要なものを一人一人がどう備蓄しておくのかがポイントになるという。

中林氏:
「あらたな被害想定は何棟が燃えたなどの定量的な想定だけではなく、例えば避難所の密を避けるために『マンションから1週間出ないでください』と言われたときにどう生活していくのか、それぞれの備えによって社会の混乱をどれくらい減らせるのか、そうした定性的なシナリオ想定が重要になってきます」

長周期地震動も想定

2011年の東日本大震災では高層ビルなどで長周期地震動があり、10月の千葉県北西部の地震でも長周期地震動の階級2に見舞われ、大きく揺れた高層ビルやタワーマンションがあった。新たな被害想定では初めて長周期地震動の影響にも触れられる予定だ。

長周期地震動の階級 気象庁HPより

中林氏:
「南海トラフ地震では階級4の長周期地震動もありえます。またこれまで直下型の地震では長周期地震動をおきにくいとされていましたが、軟弱地盤の大規模な施設や建物ではレベル2の備えも必要となるでしょう」

2003年の海溝型の十勝沖地震では、埋め立て地の巨大構築物である石油タンクの屋根が大きく揺れて火災が発生するなど深刻な被害もおきている。

2003年十勝沖地震 気象庁HPより

中林氏:
「長周期地震動がおきると高層のマンションやビルでは、家具が倒れて死傷することもありえるので、家具の固定や安全なスペースの確保、そして備蓄など基本的な地震対策は必須です」

震災関連死をどう防ぐか

また1995年の阪神・淡路大震災で初めて問題となり、2011年の東日本大震災でも問題になったのが3770人を超える震災関連死で、その9割は高齢者である。

新たな被害想定では震災関連死についても想定し、その軽減対策の重要性をシナリオ想定で提示することになる。

中林氏:
「耐震化が進む中で建物の倒壊や火災による直接死は減っても、高齢化が進む中で震災関連死は深刻な問題になります」
「命をどう守っていくかを最優先に考えなければならない中で、高齢者へのサポートをどう進めるのかを考えなければならない。例えばタワーマンションに住み続けることができても水が出ない、食料が尽きたというときに避難生活をどう支援していくのか、個人の備えとともに地域全体で高齢者を支えていくことが大切です」
 

自宅にとどまっている高齢者ら在宅避難者を地域で支え、弁当や水を届けるなど緊密に連絡をとっていくことは震災関連死を防ぐことにもつながる。

危険な木造住宅密集地域 連携が重要

平田氏は都内の木造住宅密集地域(木密)での連携の重要性について語った。

平田直東大名誉教授

平田直東大名誉教授:
「確かに耐震化率は上がり都市は安全になっていますが、東京の人口は増え、さらに1人暮らしの高齢者も増えています。また都内に28ヶ所ある木造住宅密集地域(木密)の対策をする必要のある整備地域も解消されておらず、ここには23区の人口の約2割が住んでいます。地域のコミュニティーが機能していないと災害が発生したときに対応できなくなります」
 

東京都では木密のうち、災害時に延焼で大規模火災がおきる可能性があるエリアを整備地域として各区と協力して解消にあたっているが、地域の高齢化も進み、建て替えも容易ではない。平田氏は木密など大きな被害が想定される地域がいまだにあるからこそ、地域の連携を深めることが重要だと話す。

東京都の木密整備地域 東京都HPより

平田氏:
「一方で都心の湾岸地域のタワーマンションには若い世代も増えています。インフラが打撃をうけて電気もガスも水もなくなったときの各自の備えを考えなければなりません」

耐震化と帰宅困難対策を評価

また10月の地震では駅などターミナルに多くの人が滞留し、タクシー待ちの行列ができて、歩いて帰宅する人たちもいた。

平田氏:
「都では帰宅困難者対策として一斉帰宅の抑止を呼びかけていますが、こうした人たちを留め置く協力企業などの対策もこの10年で進んでいます。今回の被害想定では都が進めてきた幹線道路沿いの耐震化や帰宅困難者対策などの評価と、それを踏まえた上での新たな対策を検討していくことになります」

10月7日の最大震度5強の地震 都心には帰宅困難者が

東京都は来年中にあらたな被害想定を公表する予定だが、長周期地震動によるタワーマンションの被災など都市型災害にも対応し、被災後の生活を個人や地域でどう維持していくのかという自助、そして共助が求められていくことになる。

【執筆:フジテレビ 解説委員室室長 青木良樹

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局解説委員室室長 危機管理委員長  東京都出身 1988年フジテレビ入社  警視庁や警察庁記者、ニュースディレクターなどを経て、警視庁クラブキャップ、バンコク支局長、編集長、社会部長などを務める。オウム真理教事件、和歌山カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件などを取材し、現在は新型コロナや災害取材のとりまとめ、危機管理などにあたっている。

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