全く盛り上がらなかった民主主義サミット

「未来は人々の尊厳を踏みにじる者ではなく、それを受け入れる者のためにある」
アメリカのバイデン大統領は世界の覇権を巡り唯一の競争相手と位置づける中国を念頭にこう高らかに宣言し、初開催となった民主主義サミットを締めくくった。

民主主義サミットの初日、各国首脳とオンライン形式で協議するバイデン大統領(2021年12月9日)
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12月9日から2日間の日程で開催されたサミットに、アメリカは約110の国と地域の首脳を招待した。異例の規模で開催された民主主義サミットだが、高揚感は全くなかった。ホワイトハウスで行われた記者会見でも、バイデン大統領にサミットに関して質問する記者は一人もいず、その代わり、アメリカ史上39年ぶりの高水準となっている物価対策に質問が集中した。

サミットに招待された国からも冷ややかな声が聞かれた。取材したワシントンの外交筋は「アジアではシンガポールや、タイなどが招待されなかった。招待国と排除された国の線引きがあいまいだ」などと困惑していた。

アメリカ主要紙の一面を飾ったのはいずれも別のニュース

2022年11月の中間選挙を意識し、トランプ前大統領の「アメリカファースト」からバイデン大統領の「国際協調路線」への転換を印象付ける狙いもあった今回のサミット。バイデン政権の“選挙対策”の一つともいえるサミットに「お付き合い」で出席した国も少なくなかったようだ。

「冷めた空気」のワケ

民主主義サミットでアメリカと関係国の間に流れていた「冷めた空気」はどこから来るのか?

別の外交官は「アフガニスタン撤退以降に明らかに空気が変わった」と話す。ワシントン駐在のこの外交官は、アメリカと協調しアフガニスタンに兵士を駐留させていた同盟国側の人間だ。しかし、カブールの陥落を事前に察知できず、慌てて逃げるように撤退したアメリカの姿に失望したという。

「私の中での強いアメリカのイメージは完全に崩れ去った」

同盟国は十分な情報がないなか、アフガニスタンに残った自国民と協力者達の命を危険にさらす過酷な脱出劇を強いられた。この苦い経験は、アメリカ頼みの同盟関係におけるリスクを露呈した。

砂地に立てた民主主義の城

8月15日のカブール陥落の翌日、2度にわたり、かつてアフガニスタンに駐留した元米陸軍中佐のダニエル・デイビス氏を取材した。デイビス氏は、「アメリカの最大の失敗は、砂の上に民主主義の城を立てようとしたことだ。アフガニスタン人はそれ(民主主義)に何の価値があるのか最後まで理解できなかった」と話し、結局はアメリカの価値観の押し付けに終わってしまったと肩を落とした。

「テロ撲滅のための戦いが、途中から民主主義国家の樹立に目的がすり替わり、泥沼にはまっていった」と振り返る。

ダニエル・デイビス氏 2011年2月アフガニスタンにて撮影
元米陸軍中佐ダニエル・デイビス氏 2006年と2011年の2度にわたってアフガニスタンに駐留
(2022年8月16日)

ワシントン郊外の空港には、荷物もほとんど持たずに命からがら逃げてきたアフガニスタンからの難民が押し寄せていた。ぬいぐるみを抱え空港に降り立った不安げな少女の顔が忘れられない。彼女にはどのような将来が待っているのだろうか。

ワシントン近郊のダレス国際空港に到着したアフガニスタンから避難してきた人々
(2021年8月21日)

アフガニスタン撤退を巡る混乱は国際社会に衝撃を与えただけでなく、アメリカ国内でもバイデン政権にとって大きなダメージとなった。支持率は米軍が撤退した8月を境に急速に下落、「不支持」が「支持」を約10ポイン上回る低空飛行を続けている。

トランプ時代よりもむしろ不安定になった国際情勢

アメリカファーストのトランプ前大統領時代のようなサプライズ外交は無くなったが、世界を見渡してみれば、台湾に対する中国の軍事的脅威や、ウクライナ情勢など不安定要素はむしろ増しているようにも見える。

敵対するイランの司令官をドローン攻撃で殺害したり、史上初めての米朝首脳会談に応じたりと「何をするかわからない」トランプ政権に対する様子見が続いていたのか、それとも、国内外で分断をあおり続けた4年間のツケが今噴出しているのか。いろいろな原因が考えられるが、間違いないのは、アメリカの国際社会での絶対的優位性が徐々に目減りしているということだ。

「何をするかわからない」トランプ大統領 史上初の米朝首脳会談(2018年)

新しい枠組みで挑戦に立ち向かう時代

バイデン政権が国際協調を重視するのは、各国が連携して対処するほうが効果的だと判断しているからだが、純粋にアメリカ一国で対処することが難しくなっていることも意味している。

アフガニスタンの米軍完全撤退が完了した8月30日以降、中国を念頭にした国際協調の動きが相次いでいる。9月15日にはアメリカ、イギリス、オーストラリアによる新しい安全保障の国際枠組みAUKUS(オーカス)が、9月24日には日米豪印の協力枠組み「クアッド」による初めての首脳会談が対面で行われた。いずれの枠組みも、バイデン政権が模索する中国包囲網の一環だ。

中国包囲網は強まっている

アメリカ国防総省は2021年の年次報告書で、中国の核弾頭保有数は2030年までに少なくとも1000発に達すると指摘した。中国人民解放軍の創設100年にあたる2027年に向けて中国が軍の増強を加速していると警鐘を鳴らす。また、経済面では中国が今後10年以内にアメリカのGDPを抜き、世界一位の経済大国になるとみられている。

世界のパワーバランスに変化が現れ、「絶対王者」アメリカに中国が挑もうとしている中で、日本はどのように自国の利益を確保し、国民の生活を守っていくのか。2022年は第二回「クアッド」首脳会談が日本主催で開催されるが、これは日本の「強み」を示す重要な会議になるかもしれない。

「信頼できる」国、日本に求められる外交とは

外務省が2019年に実施した委託調査では、インドやASEAN諸国で90%を上回る人が日本は「信頼できる」と答えたほか、今後の重要なパートナーとして中国を上回り「日本」を選んだ人が最も多かった。これは長年、日本が地道に続けてきた海外へのインフラ整備支援や地域の秩序安定への貢献が、評価された結果だろう。日本にはこうしたアジアでの独自の立場を生かした外交が求められている。

高まる日本への「信頼」

インド太平洋地域には本音では、「中国」か「アメリカ」かの二者択一を迫られたくない国も多い。アメリカが価値観の一方的な押しつけに陥らないように軌道修正し、中国の圧政や軍事的脅威には各国と連携して対応できる環境を整えるー。これは日本にしかできない外交なのではないか。この地域でのルールに基づいた秩序を守っていくためにも、2022年は日本の新しい外交アプローチを模索する時期に来ている。

【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】
【表紙デザイン:FNNワシントン支局 石橋由妃】

ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

FNNワシントン支局 支局長 中国北京支局リサーチャー、政治部(外務省担当)などを経て現職

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