牛乳やバターなどの乳製品の原料となる「生乳」が、この年末年始に大量に余り、廃棄される可能性が出ている。

乳業メーカーや酪農家が加盟する業界団体、一般社団法人「Jミルク」によると、2021年10月時点の情報に基づく推計で、年末年始に5000トンほどの生乳が余る可能性があるというのだ。

こうした状況について、金子農水相は12月14日の記者会見で「今年の年末年始は、例年以上に需給が緩和し、処理不可能な生乳の発生が懸念されている」と言及。さらに17日には、農水相自らが牛乳を飲んで、消費を呼びかけた。

金子農水相が牛乳を飲んで呼びかけ
金子農水相が牛乳を飲んで呼びかけ
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5,000トンの生乳は牛乳パック約500万本にあたるが、生乳がこの年末年始にこれだけ大量に余る可能性があるのはなぜなのか? もし、大量廃棄となった場合、酪農家はどのような影響を受けるのだろうか?

大量廃棄を避けるために消費者ができることと合わせて、気になる点をJミルクの担当者に話を聞いた。

「生乳が余る見通し」の理由

――この年末年始に生乳が大量に余る可能性があるというが、具体的には?

10月時点の情報に基づく推計ですが、年末年始にバターや脱脂粉乳などの全国の工場をフル稼働しても、5000トンほど、工場での処理能力をオーバーする可能性があります。

(画像はイメージ)
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――年末年始に余る見通しとなったのは、なぜ?

要因は、大きく3つあります。

(1)過去の“バター不足”などを背景に、消費者ニーズに応えるべく業界として生乳増産の努力を続けてきたことや、今年は夏・秋に比較的涼しかったこともあり(牛は暑さに弱いです)、生産が好調なこと。

(2)牛乳・乳製品の消費が落ち込んでいること(コロナの影響で飲食店、カフェチェーンなどでの需要が減っていることも響いています)。

(3)そんな中で、年末年始は学校が冬休みで給食用牛乳がなく、スーパーも一部、休みになるところもあり(特に三が日)、一時的に需給が緩和する要因が重なるタイミングであること。

コロナの影響で酪農乳業に起きていること(提供:一般社団法人「Jミルク」)
コロナの影響で酪農乳業に起きていること(提供:一般社団法人「Jミルク」)

――生乳の量を抑えることはできない?

牛は毎日、搾乳する必要があり、搾乳を止めると乳房炎という病気になります。もちろん、究極的には牛の頭数を減らせば生産量は減らせますが、以下の理由から、今すぐ牛の頭数を減らすのは難しい状況です。

(1)酪農家の減収になり、生活に響く。

(2)牛は酪農家の家族も同然の存在なので、心理的にも簡単に処分はできない

(3)生乳全体の需給バランスという点でも課題があり、牛の頭数を減らして一時的に需給バランス緩和期を乗り切ったとしても、例えば来年夏の本格的な需要シーズンや、コロナが収束して飲食店なども含めて本格的に需要が回復した際に、生産が需要に追い付かないといった事態になる可能性が高い。

昨年度もだぶつく心配があり、事前に呼び掛け

――昨年(2020年)の年末年始は余らなかった?

そもそも「生乳を余らせない」ために、酪農家や乳業メーカーといったサプライチェーン全体で日々、努力をしており、「生乳を一滴も無駄にしない」ことは業界全体の共通認識です。

その大きな前提があることを申し上げた上で、「昨年度もコロナの影響があり需要が落ち込んでいたはずだけど、どうだったのか?」という疑問にお答えしますと、昨年度も年末年始には需給がだぶつく心配はありましたので、やはり事前に対策を呼び掛けました。

結果的には、コロナ感染拡大で帰省や旅行が手控えられ、牛乳の需要が当初の見通しを上回って高まったことなどもあって、余るという事態は起きませんでした。

2020年度は生乳の大量廃棄は回避できた(提供:一般社団法人「Jミルク」)
2020年度は生乳の大量廃棄は回避できた(提供:一般社団法人「Jミルク」)

大量廃棄は酪農家のモチベーションに影響

――大量廃棄となった場合、酪農家にどのような影響がある?

仮に生乳の廃棄が発生すると、その当事者に経済的・心理的なマイナスとなるばかりか、業界全体にとっても大きなダメージとなります。そのため、何としても、そうした事態は避けようと、業界を挙げて、様々な取り組みを呼び掛けています。

“万が一”の場合は、酪農家への影響としては、例えば、以下の3つが挙げられると思います。

(1)当事者だけでなく全体的に酪農家のモチベーションに大きく響くことと、これまでの業界を挙げた増産努力が報われなくなること。

(2)仮に本格的に減産にかじを切った場合、コロナが収束した後の本格的な需要回復に応えられなくなるといった恐れがあること(牛は、生まれてから乳を出すまでに3年ほどかかります)。

(3)食品廃棄やSDGsという観点からも問題であり、業界のイメージ低下にもつながる恐れがあること。

生乳の大量廃棄を発生させてはいけない理由(提供:一般社団法人「Jミルク」)
生乳の大量廃棄を発生させてはいけない理由(提供:一般社団法人「Jミルク」)

大量廃棄を避けるための対策

――大量廃棄を避けるために、どのような対策をしている?

酪農家、乳業メーカーなど、それぞれの立場で、できることに取り組んでいただきたいと呼び掛けております。

具体的には…
・業界全体的な取り組みとして「酪農家・乳業者など関係者自らの牛乳利用拡大や地域、家庭など周辺への働き掛け」

・酪農家での取り組みとして「一時的な生乳出荷抑制の実施(12月下旬~1月上旬)」

・乳業メーカーでの取り組みとして「製品における生乳使用率の引き上げ」「乳製品工場のフル稼働」「積極的な販促活動」

・指定団体や乳業者が連携した取り組みとして「各乳業工場やクーラーステーションでの貯乳能力のフル活用」


などをお願いしています。

なお、Jミルクとしても、「年末年始・年度末の緊急的かつ一時的な出荷抑制対策などへの支援」などを実施しています。


――それらの対策で廃棄は避けられそう?

「避けるために最大限の取り組みをしています」という状況です。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

――大量の廃棄を避けるために、私たち消費者ができることは?

少しでも牛乳をたくさん消費していただけると、ありがたいです。牛乳は「飲む」だけでなく、「食べる」、つまり料理に使う方法もあります。例えば、牛乳を調味料に使い減塩ができる「乳和食」のレシピをホームページで公開しています。

「乳和食」のレシピ(提供:一般社団法人「Jミルク」)
「乳和食」のレシピ(提供:一般社団法人「Jミルク」)

「#私のミルク鍋 プレゼントキャンペーン」という企画も実施しています。こちらは、牛乳をたっぷり使った「ミルク鍋」をつくって、写真をSNSに投稿すると、 抽選で素敵なミルクグッズがもらえます。

#私のミルク鍋プレゼントキャンペーン(提供:一般社団法人「Jミルク」)(提供:一般社団法人「Jミルク」)
#私のミルク鍋プレゼントキャンペーン(提供:一般社団法人「Jミルク」)(提供:一般社団法人「Jミルク」)

また、学校が休みの日(給食のない日)は特に子どもの栄養状態が良くない、という調査結果も出ていますので、子どものいるご家庭では冬休みも毎日、牛乳を飲んでいただければと思います。

学校が休みの日はカルシウムが不足しがち(提供:一般社団法人「Jミルク」)
学校が休みの日はカルシウムが不足しがち(提供:一般社団法人「Jミルク」)

この年末年始に発生する可能性が懸念されている、生乳の大量廃棄。酪農家や乳業メーカーなど関係者がすでに対策を行っている中で、消費者ができることは牛乳をたくさん飲み、そして料理に用いることだ。

定番のシチューなどで使うことに加え、今回紹介された「乳和食」などで、皆で牛乳を消費してほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。