教育熱心なアジア系が不利に
バイデン米政権が、アジア系受験生の差別を許容すべきだとする見解を公式に表明した。
それは、米連邦最高裁が名門・ハーバード大学の入試でアジア系受験生が不利な扱いを受けているという訴えを審理するのにあたって、バイデン政権の司法省が12月8日に提出した意見書の中で明確に示された。

米国のアジア系アメリカ人は2020年の国勢調査では人口の7.2%だが、子弟の教育に熱心なこともあって大学への進学率も高く、カリフォルニア大学アーバイン校のように全学生の37.3%を占める大学もある。その分、他の人種、特に黒人とヒスパニック系の学生が弾き出されることになるので、人種を入学専攻の一つの基準にしてバランスをとる制度が広がり、ハーバード大学もアジア系受験生の選抜には厳しく対応しているとされていた。
容認された名門大の“入試差別”
ハーバード大学の学生新聞『ハーバード・クリムゾン』紙の2018年10月22日の記事によると、同大の合格者の大学進学適正試験(SAT) の平均点は、アジア系の受験生が726点、白人の受験生が713点、ヒスパニック系の受験生が650点、黒人の受験生が622点となっている。つまり、アジア系の受験生は黒人受験生よりも平均で100点以上の成績を収めて入学を果たしていることになる。

また同紙2018年10月19日の記事は、ハーバード大学の入学生の人種別入学率をアジア系8.1%、白人11.1%、ヒスパニック系10.6%、黒人13.2%としていて、アジア系受験生には「狭き門」であることを示している。

こうした実態を根拠に、アジア系学生を支援をしている団体「公正な入学選考を求める学生たち」(SFFA)が、ハーバード大学が不当な差別をしていると訴えたが、大学は「入学選抜は学業成績以外の要素も勘案して決定している」と反論し、マサチューセッツ州連邦地裁も大学側の主張を認める判決を2019年10月に出していた。
そこでSFFAは当時のトランプ政権の支持も得て上訴したが、連邦最高裁での審理が年明けにも始まるタイミングでバイデン政権の司法省が「待った」をかけることになった。
司法省の「意見書」は、大学入試と人種の問題は既に1978年のカリフォルニア大学をめぐる裁判で「人種割り当てを設けるのは違憲だが、人種による優遇措置は可能」とする最高裁判決があったことを指摘する。
その上で「ハーバード大学の選抜制度は、割り当て制などに頼らず学生の多様性を維持する賞賛すべき例である」とまで評価した判例を紹介し、最後に一言こう結んでいる。
上訴の請願は拒絶すべきである。

この他にも、やはり名門大学のイェール大学が同様の入試差別を行っているとされ、トランプ政権の司法省が公民権法違反で訴追していたが、バイデン政権に代わると2021年2月に新しい司法省がこの訴訟を取り下げてしまった。
「公平」政策で生まれる「不公平」
バイデン政権は発足直後の2021年1月、政権運営の基本方針を「公平(equity)」とすると発表した。
その結果、弱者や少数者を優先させて「結果平等」をはかる「アファーマティブ・アクション」政策が復活し、大学入試でも黒人の子弟の選抜が容易になるよう取り計られるようになってきた。
しかしその一方で、同じ少数者のアジア系アメリカ人は「不公平」を押し付けられることになったわけだが、そのツケは誰に回せば良いのだろうか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】
