「クリスマス戦争に勝利した」

「ドナルド・トランプの最大の功績は、クリスマス戦争に勝利したことだ」

米国の保守系のニュースサイト「ワシントン・フリービーコン」に12日掲載された記事の見出しだ。

トランプ大統領が登場するまでは、「ポリティカル・コレクトネス(政治的正当性)」の名のもとに人種、性別、宗教などさまざまな分野で公平さに配慮することが求められ、クリスマスを祝うのも、イスラム教徒やユダヤ教徒の「信教の自由」に抵触するものと考えられた。

その結果、「メリー・クリスマス」という看板がデパートから姿を消し、公的な学校や老人ホームなどにクリスマスツリーを飾るのも禁止されていた。

しかし、トランプ大統領は選挙中から「私はまた『メリー・クリスマス』と言えるようにする」と約束し、当選するやクリスマスを連邦政府の休日にする大統領令に署名してこのタブーを打ち破ってしまった。

メラニア夫人による最後のクリスマスツリーの飾りつけ(ホワイトハウス)
メラニア夫人による最後のクリスマスツリーの飾りつけ(ホワイトハウス)
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オバマ政権の「ポリティカル・コレクトネス」を継承するバイデン政権

クリスマスだけでなく、前任のオバマ政権時代までは「ポリティカル・コレクトネス」を理由に、「スポークスマン(広報マン)」を「スポークスパーソン(広報担当者)」と呼び変えたり、カリフォルニア州ロサンゼルス郡の紋章から十字架が消されたりさまざまな制約があったのだが、そのオバマ政権を継承するバイデン政権の時代になると、「メリー・クリスマス」はまたタブーになるのだろうか。

その兆しが、既に見え始めている。

バイデン新政権で「メリー・クリスマス」はタブーに?
バイデン新政権で「メリー・クリスマス」はタブーに?

オハイオ州クリーブランド市を根拠地にするMLBのチーム「インディアンズ」が、来シーズンからチーム名を変えると発表したことだ。「インディアン」というのは、アメリカ大陸を発見したクリストファー・コロンブスがインドに着いたと勘違いして先住民を「インド人」と呼んだことに由来するが、かねて先住民を蔑むものだとクレームがついていた。

これについて、ウォールストリート・ジャーナル紙のダニエル・ヘニンガー副編集長は、16日の同紙電子版に、バイデン次期大統領の組閣と共通する「ポリティカル・コレクトネス」の考えがあると分析する論評記事を発表した。

「我々は、スポーツのチーム名に『ポリティカル・コレクトネス』を持ち込むのは意味のないことだとこの論評欄で指摘してきた。今後(MLBの)ホワイト・ソックスやレッド・ソックスが、この問題にどう対処するかは私の知ったことではないが、より注目に値すべきは次期大統領のジョー・バイデンが多様性を組閣の原則とする決意を公にして以来、多文化主義という言葉が政治対話の中に登場したことだ」

バイデン政権で「メリー・クリスマス」はタブ―に?

バイデン次期大統領は副大統領に初めての女性で黒人のカマラ・ハリス氏を指名したのを始め、組閣に当たっては女性を数多く登用しただけでなく国防長官に黒人のロイド・オースティン氏を、米通商代表(USTR)にはアジア系のキャサリン・タイ氏を、さらに運輸長官にはゲイであることを公表しているピート・ブティジェッジ氏を指名、多様性を強調している。

バイデン政権で運輸長官に指名されたビート・ブティジェッジ氏
バイデン政権で運輸長官に指名されたビート・ブティジェッジ氏

しかし、ヘニンガー副編集長は多様性は政治的な必要に応える建前であり、政策遂行を二の次にすることになるのではないかと疑問を呈する。

バイデン次期大統領が「ポリティカル・コレクトネス」に共通する建前論を前面に押し出すことになると、来年は「メリー・クリスマス」と言うのに気後れすることになるのかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。