首脳会談で触れられなかった北京五輪
アメリカ時間の11月15日夜に開催された米中オンライン首脳会談に関連して、一つ気になったことがある。事後のホワイト・ハウスのオフレコ・ブリーフィングで、記者の質問に応えたアメリカ政府高官が、北京で2022年2月に開催される冬季五輪の話は首脳会談で取り上げられなかったと明言したのだ。
首脳会談の主な内容は既に十分報道されているのでここで繰り返すつもりはないが、それにして、もうすぐ開催の運びとなる冬季五輪に両首脳が全く触れなかったのはちょっと不思議に思えたのだ。
一部では、中国の習近平国家主席は、バイデン大統領自身の開会式出席を要請するのではないかという憶測さえあったからでもある。

そこで、アメリカの中国政策に詳しいワシントンの専門家に訊いてみた。回答は極めてストレートなものだった。
「ノーという回答が返ってくることが分かり切っている話を中国が提起するはずがない。習主席が北京冬季五輪の話を持ち出せば、バイデン大統領に中国の人権問題を批判するチャンスを更に与えるだけになっただろう」というのだ。

つまり、北京五輪に対するバイデン政権の外交的対応方針は既に固まっていて、そして、中国政府もそれを先刻ご承知ということのようなのである。
アメリカ政府の「外交的ボイコット」
通常、アメリカ政府は五輪の開会式と閉会式に合わせて、政府代表団を派遣する。先の東京五輪開会式にはジル・バイデン夫人が来たし、平昌五輪開会式にはペンス副大統領が出席した。
しかし、次回の北京冬季五輪にアメリカ政府は誰も派遣しないことになる。
北京五輪に対して、アメリカ政府は、中国政府の人権侵害に抗議して「外交的ボイコット」をするのである。
アメリカ国内では、与党・民主党のペロシ下院議長を始め、与野党の人権派と対中強硬派がこうした措置を求めていたが、バイデン政権ももう腹を固め、遠からず、そう発表することになるようだ。

先の専門家氏によれば、発表のタイミングは、外交日程やアメリカ国内の反対派の動きを見計らって決められる見込みという。
ただし、選手団は派遣される。
日本への同調圧力も
バイデン政権が、この外交的ボイコットの方針を正式に発表すれば、日本やヨーロッパの国々への同調圧力も高まるであろう。日本政府も他人事では済まされなくなる可能性がある。
アメリカ国内では、人権団体などによる五輪スポンサーへの圧力が一層強まると見られている。
元はと言えば、ウイグル族迫害、チベットの抑圧、香港の民主派弾圧を続ける中国の身から出た錆である。この外交ボイコットは、それだけでは不十分と断じる向きもあるかもしれないが、スポーツの祭典を利用して中国政府が自分達を礼賛するのを黙って見過ごす訳にはいかないというアメリカ政府の意思の表れと言える。
【執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉郎】