現地の聖なる休日の朝を静かに過ごしていた一般市民の家をテロリスト達は次々に襲撃し、AK47等の自動小銃で射殺したり、ナイフで喉を掻き切ったり、首を切断したりした。
それも老若男女の区別なく、赤ん坊や母親、老人も殺害した。一部は拉致してガザに人質として連れ去った。

現地報道によれば、境界近くにあるイスラエルのキブツで、100人以上のこうした遺体が見つかったという。

また、境界近くのフェス会場周辺で発見された遺体はおよそ260。近くにあるロケット弾除けのシェルターが逃げ込んだイスラエルの若者達で一杯だったところに、テロリスト達は手投げ弾を投げ込み、かつ乱射し、それでも生き残った何人かを人質として拉致したとも現地報道は伝えている。

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そのシェルターの取材をしたCNNのレポーターは、内部になお残る肉片と血痕の入り混じった臭いと数々の弾痕の余りの悲惨さに、内部の映像を放送しなかった。

確認されたイスラエル側の死者は外国籍の保有者を含め1200人を超えたという(11日午後3時現在)。そのほとんどはこうした一般市民である。一方、イスラエル側の掃討作戦で殺害された侵入テロリストは1500人に達するとも報じられている。

ハマスのロケット弾を迎撃するアイアン・ドーム
ハマスのロケット弾を迎撃するアイアン・ドーム

更にハマスは、攻撃開始初日だけで少なくとも2000発以上のロケット砲を発射した。詳しいデータは明らかになっていないようだが、大半はイスラエルの迎撃システム、アイアン・ドームによって無力化されたようだ。だが、短時間に発射されたロケット弾の数が余りにも多く、一定数は迎撃網をすり抜け着弾した。それらによる被害も詳らかではない。

イスラエルは空爆と砲撃で反撃を始めた。既に数百か所のハマス側拠点を爆撃したという。それによる死者は、ハマス側の発表では900人を超えた(11日午後3時現在)。そのうち何人が巻き添えになった一般市民かは不明である。人口230万人と言われるガザ地区の住民の内、既に20万人が棲家を追われたとも伝えられている。

イスラエル軍の攻撃を受けたガザの建物
イスラエル軍の攻撃を受けたガザの建物

双方の一般市民にこれほどまでに多くの犠牲が出ていて、主にガザ地区でこれが更に増えるのが確実な状況には、慄然とせざるを得ない。

しかし、こうした一般市民の犠牲と、ハマスが受ける報いを混同してはならない。

イスラエル側の死者はパリで2015年11月に起きた同時多発テロの犠牲者数130人を遥かに上回り、手口も残忍である。ハマスが実行したテロ行為は、むしろIS・イスラム国が続けた残虐行為に近い。いかなる理由、名分が彼らにあろうとも、決して許されるべきではない。

パレスチナ自治区ガザからイスラエルにロケット攻撃(10月7日)
パレスチナ自治区ガザからイスラエルにロケット攻撃(10月7日)

SNS上には、例えば、頭部を負傷し意識を失っていると見られるドイツ人とされる女性を、まるで狩りの獲物のようにピックアップ・トラックの荷台に乗せ運ぶハマスのテロリストの誇らしげな姿を撮影した映像がある。更に、その周辺には、これを歓迎しはやし立てる住民の姿もある。現代文明人の所業とは思えない。

エジプトとの“人道回廊”

今、現実的に何よりも必要なのは人道回廊の設置である。WHOなどの国際組織もそれを至急求めている。

10日の会見でアメリカのサリバン安全保障問題担当補佐官は、この人道回廊の設置に向け、イスラエル当局及びガザ地区の南側境界と接するエジプト当局と「協議を続けている」と述べた。その一刻も早い実現を願うばかりである。

また、想像に過ぎないが、水面下では“人質・捕虜交換”を巡る話し合いが、例えばカタールの仲介によって、密かに進行していても不思議ではない。

実行に移される可能性が高いと見られているイスラエル軍によるガザへの地上侵攻作戦は、こうした動きに目鼻がついてからになるのではないかと思われる。

日本へのテロ攻撃は…

さて、目を転じて我が国周辺のことを少し考えてみよう。

考え過ぎのそしりは免れないかもしれない。が、ある国、或いは組織が日本に向けて何百発・何千発ものミサイルやロケット弾を発射し、夜陰と荒波に紛れて特殊部隊を送り込み、住民を殺害し、一部を拉致する恐れはゼロ、絶対にないと言い切れるだろうか。そして、迎撃し損ねたミサイルの中に、万が一、核や毒ガスが搭載されていたらとてつもない犠牲が出る。または、ロシアによるウクライナ侵攻の手前勝手な論理のように、歴史的経緯を盾に、ある国が沖縄を解放すると称して侵攻を始めたらどうなるのだろうか?

愚かな頭の体操かもしれない。しかし、そうした行為が、将来、百万が一、実行に移され、しかも、その責任者達が、人質や自国民を盾に相応の報いを免れるとしたら、国民はどう思うだろうか?

イスラエル軍の戦車
イスラエル軍の戦車

イスラエルにしてみれば、ハマスの壊滅を目指すのは当然と言えるのではないか。伝えられるような、極めて残虐、大規模なテロ行為を実行したハマス、特に、その指導部がのうのうと生き残るような事態になれば、いつまた同じような攻撃が繰り返されるか分からないのだ。

抱える人員と持てるエネルギー・資金の多分ほぼ全てを費やして、ハマスは何千発、何万発ものロケット弾を用意し、最低でも数千人を訓練して、今回のテロ行為に打って出た。

そこまでハマスの憎悪をかき立てた側に、責任の一片もないと言うつもりはない。例えばイスラエルが強行し続けた不法入植地の建設はすぐにでも止め、同時に、それでもパレスチナ国家の建設と健全な発展を支援すべきと思う。

しかし、だからといって、今回のようなハマスのテロ行為は到底許されるものではない。この点に関して曖昧な姿勢は許されないと思うのだ。
【執筆:フジテレビ解説委員 二関吉郎】

二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。