働き方改革や副業推奨の影響で、「起業」への関心が高まりつつある。

さまざまな社会課題の解決に挑む「起業」は、日本の未来を変えることにもつながるかもしれない。新規事業家・守屋実さんは、起業や新規事業創出の土台は「意志」だと語る。起業に挑戦したい人は「意志を持って動く」ことを心構えとして持っていてほしいという。

簡単にはうまくいかないからこそ「意志」が大切

新規事業家・守屋実さん
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守屋さんはこれまで52の起業、新規事業に携わってきた、起業のプロ。約30年間、事業を立ち上げ続けてきた経験から、起業には「意志」が欠かせないものだと言う。

著書『起業は意志が10割』(講談社)のなかでも、意志こそが唯一のマスターリソース。“これを成し遂げたい”という意志あってこその起業だ。ぶれない思いを持つことで、その熱量に懸念材料となる人やお金も集まってくる。

事業を興して軌道に乗せるまでは前途多難であり、失敗もたくさん経験する。大きな壁は意志があるからこそ乗り越えられ、壁にぶつかった時の道しるべとなる。反対にこれがなかったら「新しい事業を始めてはいけない」というほど、大事なものだ。

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揺るがない意志を持ち続けることは難しい。けれど、常に逆風が吹くからこそ、強い意志を持たなければいけない。

意志を持って事業の構想を固めても、その事業が成長、成功するための勝利のストーリーと方程式を何度も試行錯誤しなければならない。ベストな勝ち筋を見つけるまで繰り返す地道な作業が待っている。

「起業・新規事業は最初からそんな簡単にいかない。『そんなことやってもうまくいかない』と否定する人たちもいる。しっかりとした意志がないとそうした逆風に負けちゃうんです。自分がやりたいと思っているものでないと、すぐ心が折れてしまう。理屈より気持ちが大切なのです」

今の時代の起業は、社会課題などの「不」の解決競争になる。「不便だな…」といった世の中に転がる「不」を拾い上げ、「この不を解決する」ためのサービスや仕組みを生み出すための、新規事業や起業をするという揺るがない情熱、つまり意志を持つことができれば、起業の第一歩だ。

失敗の共通項も「意志」だった

なぜ、ここまで意志が大切だと言えるのか。それは守屋さんの経験と30年続けてきたメモにある。

大学卒業後、ミスミ(現ミスミグループ)に入社し、新市場開発室で企業内起業を経験、その後移った起業専門企業のエムアウトで事業を起こし続けた。約20年会社員をし、守屋実事務所を設立して、印刷事業のラクスルや予防医療を推進するケアプロの立ち上げなど、さまざまな起業や新規事業に参画してきた。

ミスミ創業のオーナー・田口弘さんが設立したエムアウトでは、「新規事業専門」と掲げているため、守屋さんは「上手に新規事業をつくるのが当たり前で、そこを目指していた」という。しかし、「うまくいかないんです。何回も何回も失敗して、新規事業の経験は世の中の社会人より多いはずなのに…」と振り返る。

「なぜ失敗するのか」、失敗した事業の共通項を探り、逆に「なぜ成功したのか」、成功した事業の共通項を探った。その結果、失敗と成功の差で1つ挙げるとしたら「意志」だった。

「意志が軟弱だとその上に何を乗せてもグラグラするだけ。“挑戦したい”という意志があると、安定的に伸びていく」と話す。加えて、意志が弱いとプレゼンでも“言い訳”ばかり述べてしまっていたと明かした。

30年間ずっと書き溜めている自身のメモ「起業の心得」からも明らかだったという。大事なことや見聞きしたことを毎日記録し、今ではワードテキストで40万字ほどにもなった。“起業のプロ”となった今でもコツコツと作り上げた“自分だけの教科書”を読み返すなどし、学びを得ているという。

コロナ禍は起業の商機

新型コロナウイルスが蔓延してから、人々は生活からビジネスまで行動様式が一変した。そんなコロナ禍は起業の商機と勝機であふれていると、守屋さんは言う。

「物事や社会が変わったら、これまであったものがミスマッチになる。ビフォーコロナの産物しか周りにないわけで、コロナ禍で不具合が生じているものもある。だから商売のチャンスなんです」

このチャンスは国内だけでなく、世界中で同時に生まれた。新型コロナウイルスは世界中で蔓延し、人々の生活やビジネススタイルを変えた。

「ビフォーコロナの産物は、すでに先発組が磨きに磨きまくっていて、後発組は追いつこうにも追いつけないだけの差をつけられています。けれど、コロナで状況が一変し、モノによってはアフターコロナで必要とされているものがビフォーコロナの真逆だったりする。そうすると、ビフォーコロナの時代に先頭を走っていた先発組は、真逆に向かって方向転換する必要があり、つまり、先行が仇となっていきなり最後尾になってしまう。逆に、最後尾だった後発組は、一気に先頭に躍り出るチャンス」

こうした商機と勝機を見逃さないためには、日常で五感を働かせることが大切だという。それは起業を考えている人も、考えていないビジネスパーソンにとっても必要な意識。

「あらゆるビジネスのネタは、いろんなところに転がっています。それを見つけて拾う癖がついていないだけです。企業に勤めていると目の前のことで精いっぱいになって、新たなものを拾えないことが多い。するとだんだん視野が狭くなったり、聴覚も嗅覚も衰えていってしまうんです」

日々の生活の中で「不便だな」「あったらいいな」は常に商売のきっかけになる。そう思う癖をつけていれば商売の感覚器官は衰えないが、そう思うことなく過ごしてしまうと、いつの日か、商売の感覚器官は衰え退化してなくなってしまうと指摘した。

身に付けておきたい3つの心構え

起業を決意した人には、守屋さんが名付けた「新道徳」「新国語」「新算数」の3つの心構えも知っておいてほしい。

まず、ビフォーコロナ時代の「道徳」は人としての大切な“心”の部分を指した。意志やミッションなど、解決した社会課題に対して自分事に捉え、それを強く成し遂げたいと思うことが大事だった。「国語」はその意志を伝えるコミュニケーション能力やプレゼン力。「算数」は起業家が持つべき数字感覚だ。

しかし、コロナ禍でビジネスのマインドは「5年ほど時計の針を進めた」。そのため、「新道徳」「新国語」「新算数」が必要になった。これは起業や新規事業を興したい人だけでなく、すべてのビジネスパーソンに必要なものだという。

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「新道徳」は、会社のプロから仕事のプロへと仕事に対する意識の変化。「仕事のプロ」とは、広報のプロやマーケティングのプロといったような一つの仕事を究めて、何社からも依頼を受ける存在のこと。これまで出社をすることで個の存在が認められていたが、在宅勤務により実成果を出さないと個が認められにくくなり、実成果を出すためには仕事のプロになることが求められるようになった。

「新国語」はリモートコミュニケーション能力のこと。行間を読んだり、一カ所に集まって話し合ったりするローカルコミュニケーションからコミュニケーションは進化した。在宅勤務の場合はリモート会議でもチャットなどでも自ら主張し、言語化しなければ伝わりにくい。さらに、直接会うことのない相手に信じてもらえるか、信じられるか、リモートトラスト力が重要になった。

「新算数」は大きなオフィスや資産という企業の規模の価値観よりも、変化を敏感に感じ、動くことができるかが企業の価値につながることだ。また、特に経営者は「思考と行動と数字の一気通貫」をさせサバイブすることが求められる時代になったという。

「起業をしたい」と思っても、リスクなどを考えて前に進めない人も多いだろう。しかし、守屋さんは「人は考えたようにはならない。行ったようになる」とメッセージを送る。

「何かをやっている人に共感したら一緒にやってみてもいい。社内規定で難しかったら、ボランティアだっていい。挑戦すれば “これがやりたかった”や“この人と頑張ろう”“ちょっと違う”など、じつは自分のなかにあったモノサシを感じられるようになる。チャレンジしてみて『新規事業って大変なだけ』と感じ、今自分が所属している企業や組織の環境や仕事が最高!と良さを見直せるかもしれない。どんな答えに行き着いたとしても、全部その人にとっては正解だと思います。それでやっと一歩前進できる」

もし起業をしたいという思いを抱く人がいたら、ぜひ意志を持って行動を起こしてみてほしい。その一歩が自分だけでなく、日本の未来を変えることにつながるかもしれないからだ。

『起業は意志が10割』(講談社)

守屋実
1992年ミスミ(現ミスミグループ本社)入社、新規事業開発に従事。2002年に新規事業の専門会社エムアウトをミスミ創業者の田口弘氏と創業、複数事業の立ち上げおよび売却を実施。2010年守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。著書に『新しい一歩を踏み出そう!』(ダイヤモンド社)、『起業は意志が10割』(講談社)、監修に『DXスタートアップ革命』(日本経済新聞出版)がある。