広島県内の「SDGs」の取り組み。
障がいのある人も、ない人も、共に暮らしやすい社会を考える。

障がい者が置かれる現状に戸惑いも

広島市安佐北区にある「可部つちくれの家」。
「就労支援B型事業」といわれる福祉施設で、企業などで働くことが困難な、身体や精神に障がいのある人が工賃をもらって、その人のペースに合わせて働く場所。

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施設長の小川さんは、もともとは保育園の園長で、定年退職後の3年前、施設に来た。

可部つちくれの家・小川裕子施設長:
びっくりした。みんながお仕事がくると喜んで、本当にまじめに…わたしだったら、もうだめと思うようなことも、彼らはあきらめず、根気強くやっている。集中力もすごいし、持続力があるのがすごい

一方で、障がい者が置かれる現状に戸惑った。

可部つちくれの家・小川裕子施設長:
同じ仕事をしても、健常者と障がい者で単価が違う。福祉単価というんですかね。単価が半分だったり、半分ならまだしもというぐらい、低い単価でお金をもらっている。わたしはまだ合点がいかない

彼らが手にする工賃は、多い時でも月1万円程度。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけている。

可部つちくれの家・小川裕子施設長:
ピタッと請負のものがこなくなったり、これまでの単価の半額にされてしまったり、何もすることがないという時期があった。やっぱり、障がい者は弱者なんだと痛感した

逆転発想で生まれたアート商品

県の障害者支援課によると、こうした施設は県内に約300あり、どこも今、同様の課題に直面しているという。

つちくれの家では、何もすることのない日々が続いた。

可部つちくれの家・小川裕子施設長:
ポカーンと時間が空いてしまうときに、やっぱり今のこの状態をどうやったら逆転発想して、みんなのお給料につながるか考えたときに、請負だけじゃなくて、自主製品を作ってみないかとなった

もともと、この施設の稼ぎ頭はパンの製造だった。
米粉で作るもちもちのパンは好評で、自主製品は直接の収入になる。

ほかにもできることはないか...
職員の野口さんは1人の仲間に目を留めた。島村英治さん。その絵に注目した。

島村英治さん:
ライオンとだるまを描きました

可部つちくれの家支援員・野口花梨さん:
わたしたちには描けない画風や色合い。下書きもなしで、じかで描くので英治さんの画風になる。かわいいし、みんなにもすごいねと褒めてもらって、みんなが笑顔になるような絵。ぜひいろいろな人の手に渡ってほしいなと思った

こうして島村さんが描きとめていた絵と、ほかの仲間たちが取り組むアート作品をコラボレーションさせ、形にして販売できないか。
そう考え、慣れない中を作ったのがカレンダーだった。
独特のタッチで描く、障がい者アート商品として形にした。

精力的な広報活動など初めての経験も

商品化で、“カレンダーの制作”という新たな仕事もできた。
こうした動きは、彼ら自身の変化にもつながった。

可部つちくれの家 営業部部長・山名雪乃さん:
これから営業部会議を始めます

販売を担う営業部が誕生した。

早速、営業活動として訪れたのは、広島市役所の記者クラブ。

可部つちくれの家 営業部部長・山名雪乃さん:
営業部の部長をやっています山名雪乃と申します。似顔絵とかいろいろ入っているので。これは家族4人の顔です

そして、自分たちの現状も訴えた。

可部つちくれの家 営業部広報・三原健雄さん:
知らない人が多すぎるんですよ

精力的な広報活動、すべてが初めての経験。

可部つちくれの家 営業部部長・山名雪乃さん:
すごい緊張したが、ちゃんと言えたのでよかった

可部つちくれの家 営業部広報・三原健雄さん:
世界に伝えたい。認めてほしい

「優しい気持ちを広げたい」カレンダーに込めた願い

こうした動きに合わせ、施設内では、ほかの商品づくりも活発化し始めていた。
隅廣彩さんは、液体樹脂に紫外線を当てて小物を制作している。

隅廣彩さん:
きれいにできる。ほめてもらう、きれいだね

アクセサリーにし、販売をスタートさせた。
島村さんの絵を使った商品の試作も始まっている。

可部つちくれの家・小川裕子施設長:
商品に変えていくことで、仲間たちの価値も上がると実感。やっぱりまだ障がい者は、自分の身近な人になっていない。誤解している人もいる。一生懸命生きているので、そこをわかってくれる理解者を広げたい

発売されたカレンダーの最後には、みんなが大切にする言葉が載っている。
「やさしいことば、だいじだね!」

カレンダーをきっかけに、優しい気持ちも広がってほしい。
そんな願いが込められている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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