いま、タイで日本産の農産物の売上が好調だ。
2016年からの5年で、日本からタイへのサツマイモの輸出額は5倍に急増した。常夏の国で焼き芋が思わぬ人気となっているのだ。さらにイチゴも約5倍に伸びている。

入国制限でタイの人々に広がった“日本ロス”に加えて、地道な販路拡大を続けてきた関係者の努力が実を結びつつある。コロナ禍をチャンスに変え販路拡大を狙うタイでの日本の農産物や食品の輸出事情を探った。

バンコク市内のショッピングモールで販売される日本産の高級フルーツ
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タイのスーパーに焼き芋器

タイのスーパーやショッピングモールでは、日本でおなじみの光景を見ることができる。日本の「焼き芋」が売られているのだ。常夏の国で熱々の日本の焼き芋人気が広がりを見せている。

タイの首都バンコク中心部のショッピングモールを訪ねると、そこには「紅はるか」や「安納芋」などのサツマイモが大量に並び、横には焼き芋器が置かれている。焼き芋2本で日本円にして1000円程度と安くはないが、買い物客が次々と手に取っていく。

バンコク市内のモールに並んだ焼き芋

ジェトロ・バンコク事務所によると、日本からタイへのサツマイモの輸出額は、2016年から2020年の5年間で約5倍に急増した。その理由として、日本の大手量販店「ドン・キホーテ」の運営会社が、タイやシンガポールなどで焼き芋を販売してヒットし、その魅力が一気に広まったともいわれている。高温多湿の国でも、“甘さ”や“ねっとりした食感”など日本ならではの焼き芋のおいしさが受け入れられているのだ。

さらに、イチゴも同じ2016年から2020年までに約5倍に増加するなど、高品質な日本の農産物の人気は着実に浸透しているようだ。

コロナ禍による“日本ロス”が輸出を押し上げ

こうした輸出増加の背景には、日本政府が成長戦略として重視する農林水産品の輸出促進がある。しかしそれ以外にも、渡航規制のためタイから日本に行けない状況が続き、タイの人たちが日本を恋しく思う気持ちも影響していそうだ。

実はタイへのサツマイモの輸出額は、2020年に前年の2倍に増えた。これは日本に旅行できない分、タイにいながら日本の味を楽しみたいと思う人たちが焼き芋やサツマイモを買い求めたことが輸出額を押し上げた理由の一つとみられる。

オンライン商談会で狙う新たな「成功例」

サツマイモに続く「成功例」を新たに生み出そうと、地道な努力も続いている。コロナ禍のなかでも、販路を拡大しようと日本とタイを結ぶオンライン商談会が積極的に開かれている。

「我々は『日本の本物のお茶』を探している。」
「ぜひ私たちの商品を飲んでみてください。140年の歴史があります。」

オンライン商談でお茶の品揃えを吟味するタイ人オーナー

10月下旬、通訳を介して行われていたのは、静岡の製茶問屋「マルモ森商店」とバンコクの日本料理店「ラクゼンタイム」とのオンラインでの商談だ。この日本料理店は、タイ人がオーナーを務め地元の人向けに刺身や寿司などを提供しているが、より高級感のある「お茶」を求めて商談に臨んでいた。

バンコクの日本料理店 寿司などと提供できる「お茶」に目をつけた

一方で、静岡の製茶問屋も創業143年の老舗。日本の市場が縮小するなか、新たな商機を求めて商談に応募した。

約40分間の商談では、定期的な購入を視野に入れつつ、まずはお試しとしていくつかの種類を、少量ずつ購入することで話がまとまった。

日本側の生産者とタイ側の業者や飲食店をつなぐこのオンライン商談会は、ジェトロ・バンコク事務所が企画したものだ。新型コロナウイルスの感染拡大以降、ジェトロはオンライン商談会に力を入れていて、タイ側の参加者向けに商品のサンプルや通訳を用意して販路拡大を支援している。

展示されたサンプル品 焼酎から干し椎茸まで多彩な商品が並ぶ

ジェトロ・バンコク事務所の谷口裕基 農林水産・食品部長は「商談会には日本全国から171社が参加した。前回の開催時は約11億円の商談が見込みも含め成立したが、さらなる成果を期待したい」と意気込む。

次回のオンライン商談会は11月中旬から募集が始まり、1月から2月にかけても行われる予定で、こうした地道な取り組みが日本の農産物の輸出増加に結びついている。

「過去最高」を毎年更新 カギ握る東南アジア

農林水産省によると、農林水産物や食品の日本からの輸出額は、年々増加を続けている。2020年の輸出額は9860億円で過去最高を記録し、2021年は9月までの時点で、前年を上回るペースで推移していて、年間1兆円に達する見込みだ。

バンコクのショッピングモールには、日本の高級フルーツが並ぶ

そしてそのカギを握るのは、中華圏のほか、購買力のある中間所得層が増えているタイを始めとした東南アジアだ。

日本政府は農林水産物・食品の輸出額を、2030年に5兆円にするという目標を掲げている。
国ごとに違う食品の安全基準への対応や海外のニーズに見合うものを作り出す必要など、求められるハードルは多々あるが、「農業輸出大国」の実現に向け関係者の努力が続いている。