「読書の秋」という言葉があるが、視覚障害者も読書を楽しめることをご存知だろうか。
岡山県でも取り組みが進む、読書のバリアフリー化を取材した。
(小説の読み上げ音声)
「しっかりと育ち続ける遺伝子の母樹からは、やがて高級木材になる幹がまっすぐに伸びた北山杉が育った」
パソコンのスピーカーから出る音声を熱心に聞くのは、岡山市の平尾史法さん(67)。
生まれつき弱視で、30年程前に失明した。
平尾史法さん:
文字を追う方が頭に入りやすいんでしょうけど、見えないものですから。読書というより“聞く書”ですね
聞いていたのは、小説などをボランティアが読み上げた録音図書。
現在は、1日に2つほどの作品を聞くという。
平尾史法さん:
1人で過ごしているんですけれども、この録音図書がなければ1日が過ぎないって感じですね。今は読書が生きがいです
レシピ集や「ノストラダムスの大予言」も…録音図書で“聞く書”
こうした録音図書の制作や貸し出しにあたっているのが、岡山県視覚障害者センター。
点字図書の制作や対面での読み上げボランティアも行っているが、自宅で聞ける録音図書は、昔から人気があるという。
岡山県視覚障害者センター 二階堂和美さん:
こちらが録音したものの書庫です
篠田吉央キャスター:
昔からのものが全てあるんですね。これはテープの時代のものですか。へ~、色んなものがあるんですね。これ「ゼロの焦点」。松本清張さんの小説ですよね。こちらには「ノストラダムスの大予言」もありますね
岡山県視覚障害者センター 二階堂和美さん:
はやりましたからね
現在、CD化を進めている録音図書。少しでも多くの作品を提供出来ればと、全国のセンターが連携し、録音する作品が重複しないようにしている。
聞きたい本があれば、所有するセンターから借りられる仕組みで、この日も岡山で制作したものを、北海道や神奈川県に発送した。
岡山県視覚障害者センター 二階堂和美さん:
北海道からも沖縄からもリクエストが来ますし、私たちも北海道からも沖縄からもお借りします
また、2010年からは、全国の録音データをインターネット上で聞いたり、ダウンロードしたりできる「サピエ図書館」の運用が始まった。今では、小説だけでなく、雑誌や料理のレシピ集など、約12万タイトルが登録されている。
(スポーツ雑誌の読み上げ音声)
「近鉄イコールいてまえ打線、オリックスと合併する4年までナインを鼓舞し続けた」
(料理のレシピ集の読み上げ音声)
「カイワレ大根をざくざく切ってのせ、好みでしょうゆかポン酢をさっとかけるだけ」
「録音図書」制作の裏にボランティアの存在
篠田吉央キャスター:
音訳活動は、地域住民のボランティアによって成り立っています。今こちらでは勉強会が開かれています
録音図書を担当する県内のボランティアは、センターが開催する養成講座を受けるが、その後も定期的に集まり、読み方のポイントなどをアドバイスし合っている。
ボランティアによる小説の読み上げ:
半年前よりは少しばかり知恵がつき、しっかりしてきた今となっては…
他のボランティアによるアドバイス:
(読みが)速くなってきた。もうちょっと間を取った方がいい
特に心掛けるのは、淡々と読むこと。感情を込めて読む朗読とは違う。
録音図書を担当するボランティア:
利用者の方が本を読むようにしてもらいたい。私たちが読むのではない。私たちは伝えるだけですから
録音図書を担当するボランティア:
みんなが同じように、きちんと情報を受け取れる状況が出来たらいい
録音図書を担当するボランティア:
晴眼者が図書館に行って好きな本を選べるように、もっと(録音図書の)利用者が同じような状態で、自分の読みたい本が選べる状態になれば一番いい
岡山市南区に住む辻田峯夫(74)さんは、早期退職を機にボランティアを始めた。
篠田吉央キャスター:
録音用のマイクが天井からつり下げられていますが、手作りですか?
辻田峯夫さん:
手作りですね。孫の靴下をノイズ除けにつけた。(マイクと)ちょうど大きさが合うので
録音だけでなく、パソコンを使った編集までボランティアが行うが、高齢化が進み、年々担い手は減っている。
辻田峯夫さん:
こればっかりは、生きがいとしてやるようなものではないんですよね。ちゃんと読めなくなったら、やめなくてはいけない。どこかで自分で見切りをつけるべきだと思っている、そうすると、どんどんやる人は少なくなってくる
「読書バリアフリー」へ… アナウンサーや県教委も協力
こうした中、岡山放送のアナウンサーも視覚障害者の読書に貢献できればと、2021年4月から毎月3人が生活情報紙や絵本の録音に取り組んでいる。県視覚障害者センターでCD化され、貸し出されている。
また、岡山県教育委員会も、2022年度からボランティアの人材確保や貸し出しサービスの周知を進める。
国が2019年6月に施行した読書バリアフリー法を受けたもので、現在、4年間にわたる県読書バリアフリー計画の作成にあたっている。
岡山県教育委員会 生涯学習課・栗原宏之課長:
障害のある方もない方も一緒に生活する中で、当然、読書も権利として活用できるのは大事な視点だと思う
録音図書を日々利用する岡山市の平尾さんは、こうした県教委の動きに期待を寄せている。
平尾史法さん:
読みたいけど読めない。読書を諦めている人がいるなら、その人たちに情報が届くようにして欲しい
視覚に障害があっても「本が読める」録音図書。1人でも多くの人に届き、活用されることが望まれる。
(岡山放送)