休校で注目されるオンライン教育

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一斉休校の要請から大混乱となっている教育現場。その対応は自治体ごとに様々だが、心配なのが、休校の間、学習塾にも部活にも行けず、家から出られない子どもたちの学習活動だ。こうした中教室の授業に変わる学習方法として、注目されているのがオンライン教育である。

現在ICTやAIを活用した教育を開発・推進するEdTech(以下エドテック)業界では、新型コロナウイルスによって学習機会を奪われた子どもたちや学校・学習塾に、サービスの無償提供などを行っている。ここではいくつかの取り組みを取材し、ご紹介する。

「学びを止めない未来の教室」

「学校が閉まってるからって、学びを止めないで済む」
「未来の教室」実証事業に取り組んでいる経済産業省では、オンライン学習を行うエドテック事業者が、休学の期間に提供する無料の学習支援サービスをウエブサイトで紹介している。題して「学びを止めない未来の教室」だ。

経産省教育産業室の浅野大介室長は、今回の休校を「不慮の事態で学校が閉まったぐらいでは、子どもの学びが邪魔されない社会を創るチャンス」だと言う。
「前向きに考えたらいいと思います。これからも、この国には地震や台風だってくるわけですから」

このウエブサイトでは、ドワンゴのオンライン学習アプリ「N予備校」などエドテック各社による、生徒個人や学校へのサービスの無料提供が並んでいる。

「今回たくさんの教育産業が自発的にアクションを始めてくれました。経産省の呼びかけに応えてくれた会社にも感謝しています。一人でも多くの生徒さんたちに学びの機会を届けたいと思います。1人1台パソコンのGIGAスクール構想が前倒しされたと思って、学校の先生も生徒さんもどんどんエドテックを使ってみてほしいです」(浅野氏)

AI学習がピンチをチャンスに変える

この中に名を連ねるエドテックの一つ、次世代型のオンライン英語学習のプラットフォーム「e-Spire」を提供しているInstitution for a Global Society株式会社(以下IGS)では、「e-Spire」を全国で休校中の国・公・私立の中学・高校に今月9日から4月30日までの間、無料提供することにした。
代表取締役社長の福原正大氏はこう言う。
「ピンチをチャンスに変えたかったのです。学生には重要な時期に学びを止めず、個別最適化された学習で自らの可能性を広げてもらいたいと思います。危機時でお忙しい先生方には、準備負荷を減らし、側方支援したいこと、そしてエドテックの可能性を感じていただきたかった」
無料提供の狙いについて福原氏は、「多くの学校で中止になった春休み短期海外留学や英語授業の代替としてご利用いただければと思います。学生の英語4技能向上、先生方には学生の学習管理の簡便化と英語4技能向上が、エドテックによって飛躍的に向上することを感じていただきたいです」と語る。

AIを活用した学習教材「atama+」を提供するatama plus株式会社は、多くの学習塾が今週から一斉休校になる中、通常は塾・予備校でのみ受講可能な「atama+」について、生徒が自宅でも受講可能となるウエブ版を緊急開発し、導入塾・予備校への臨時提供を開始した。

ファウンダーの稲田大輔氏は、「ほぼすべての導入塾から問い合わせを頂いており、一同フル稼働で準備している」と言う。

「今般の事態を受けて、塾・予備校の教室内で「atama+」を利用した授業を受講できなくなったとしても、生徒の皆様に安心して学習を継続していただきたいという思いで今回の対応を実施しました。現在は、塾・予備校の皆様と連携しながら、生徒が自宅においても集中して学習を継続できるようなプロダクト開発、遠隔での授業体制構築の支援などに全社総力で取り組んでいます。AIと人を組み合わせた学びを自宅でも実現できるよう尽力します」(稲田氏)

休校した学習塾に授業継続を

休校した学習塾の支援に乗り出したのが、オンラインの英会話レッスン「GLOBAL CROWN」を提供している株式会社ハグカムだ。代表取締役の道村弥生氏はこう言う。
「学校の休校要請に呼応して全国の学習塾も休校対応が相次いでいます。現時点で学習塾では宿題を出す程度しかできないそうです。この期間がさらに長引くとカリキュラムや学習進捗に大きな影響が出るおそれがあるため、いま数社から問い合わせがあります」

ハグカムは、家庭向けと法人向け(学習塾や学童など)に自社開発のライブ学習システムとバイリンガル講師による英会話レッスンを提供している。
こうした声に応えてハグカムでは、ライブ学習システムの機能の一部を学習塾へ提供する準備を進めている。学習塾の講師がライブで授業を提供することによって、生徒たちは自宅で受けられることが可能となる。

「対象人数が全国規模になるため、サーバやインフラなどを早急に整備中ですが、早ければ1週間程度で利用できる予定です。GLOBAL CROWN自体の一部無償提供とか割引も検討しましたが、今は英会話レッスンよりも学校のカリキュラムに準拠した学習塾の授業継続の方が根本課題かなと思い、こうしたかたちにしました」(道村氏)

全国の教員が情報共有出来る場に

今回の前例無き決定に戸惑いながらも前に進もうとしているのは学校の教員たちだ。
教員同士が情報交換できるSNSサービス「SENSEIノート」を提供する株式会社ARROWSでは、一斉休校の対応について「小中高の先生限定」で、リアルタイムで新鮮な情報共有ができるよう支援している。このサービスには4万人の教員が参加している。https://senseinote.com/

代表取締役社長の浅谷治希氏は、この狙いをこう説明する。
「刻々と変わる課題に対して、いま必要なのはリアルタイムで更新される現場で活きる新鮮な情報です。最も新鮮な情報を、現場に即したかたちで持っているのは先生自身。そこで、SENSEI ノート上で、全国の先生で情報やアイデアを共有することで、1人で抱え込まずに済むように特設コーナーを設けました」

先月29日時点では、サイト内のやり取りには学習支援の話は一切なく、卒業式と入学式の対応、成績処理と通知表の話がメインだという。
特設コーナーは新型コロナウイルスが終息するまで続くほか、ARROWSでは、現場のニーズを汲み取った支援や連携を増やすため、現場の課題を積極的にフェイスブックやツイッターで発信していく。

従来のかたちにこだわらず、新たな学びのかたちを追求する。今回の事態を日本の教育が大きく変わる絶好のチャンスとしなければいけない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
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鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。