「需要に供給が追いつかない」

18日時点の全国平均のレギュラーガソリンの店頭価格は 1リットルあたり164.6円となった。約7年ぶりの高値をつけた前の週から一段と値上がりし、7週連続で上昇している。 

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ガソリン価格を押し上げているのは、原油の高騰だ。 

アメリカやヨーロッパなどでの経済活動の再開に伴って世界的に使用する量が増えている一方で、 新型コロナの感染拡大の影響で減少した生産量は回復せず、 需要に供給が追いついていないことが主な要因となっている。 

ニューヨーク原油市場では、国際的な指標となるWTI先物価格の上昇基調が続き、20日には一時 1バレル=84ドル台となり、約7年ぶりに高値を更新した。止まらない原油高は、私たちの生活に影響を広げつつある。

クリーニング店でも悲痛の声が

東京・埼玉を中心に52店舗を展開するクリーニング店「アニカ」では、 今月から一部料金の値上げに踏み切った。 ドライクリーニングには石油を原料にした溶剤が使われているほか、 商品輸送用の車両のガソリンやハンガー、衣類を包む透明のカバーも軒並み値上がりし、新型コロナの影響で利用客が減ったこともあって、価格の維持は困難だと判断したという。 

550円だったズボンの料金は630円に、 ジャケットは770円から850円になるなど、3年ぶりに価格が引き上げられた。

運営するタマサービスの山本知己営業部長は、「これまで企業努力でなんとか凌いで来て、 本当に迷ったが、やはり値段を上げないとダメだと判断した」と話し、苦渋の決断に至った胸の内を明かした。 

衣替えの時期とあって、取材した20日も利用客が訪れていたが、「この時期は利用する頻度が増えるので、 ちょっと高いのはどうしようかと思う」 「家計にもろに響いてくる」などの声が聞かれた。 

原油高騰の影響は、住まいの分野にも及んでいる。 インテリア会社「サンゲツ」は、壁紙・床材・カーテンの 一部商品の取引価格を、先月、13~18%引き上げた。 

原油がもとになった素材を多く使っていて、 商品の仕入れ価格が上昇したことに加え、物流面でのサービスの水準を維持するために値上げを行ったという。

「円安」を強める日米の経済状況の差

私たちの暮らしに負担増をもたらしつつある原油高だが、円安というもう1つの大きな要素が景気に影を落としている。今回の円安の背景にあるのが、アメリカと日本の景気回復のスピードと金融政策の違いだ。

これまでは、アメリカでも日本でも、 景気をよくするために、金利を引き下げ 大量のお金を世の中に供給してお金を借りやすくする金融緩和と呼ばれる政策が続けられ、コロナで痛んだ経済を支えてきた。

景気が上向いてきたアメリカでは、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が、金融緩和を徐々に縮小して市場に供給するお金の量を減らし、急速にモノの値段が上がっていくのを抑えるため、金利を引き上げる方向に動こうとしていて長期金利は上昇傾向にある。

一方、景気回復が遅れる日本では、 日銀が依然として長期金利をゼロ%程度に抑え、大規模な金融緩和を続けている。 このため、ドルと円とで金利の差が大きくなっていくことが 予想され、金利がほとんどつかない円よりも ドルのほうがより高い利回りが見込めそうだとして、 円を売ってドルを買う動きが 強まっている。

一時1ドル=114円台後半に

東京外国為替市場の円相場は、20日、一時1ドル=114円台後半と、 およそ3年11ヶ月ぶりの円安ドル高水準をつけた。

 円安が進むと、輸出企業には有利な反面、  輸入の面でみると、例えばいままで1ドル=100円で買えていたものが、114円払わないと輸入できなくなり、原材料を輸入に頼るなどしている様々な商品で値上がりにつながる可能性がある。

輸入牛肉のほか幅広く仕入れ値が上昇か

アメリカ産などの牛肉を提供する「やっぱりステーキ」の都内・港区の店舗を訪ねてみた。分厚く食べ応えのあるステーキが売りで、この日も来店客が相次いでいた。牛肉は、アメリカや中国を中心に需要が急増するなか、 既に、輸入価格の高騰が続いていて、先月一部メニューを 値上げしたばかりだ。

広報担当の赤塚威氏は「輸入価格の高騰は年明けごろに落ち着くのではないかと思っていたが、円安が来て下がる要素がなくなってしまった。これ以上仕入れ値が上がると厳しい」と話している。

輸入食品を多く扱うスーパーの 信濃屋食品の鈴木誠統括本部長に話を聞いたところ、ドルだけでなく、ユーロなどに対しても円安になっている影響で バナナ、ライム、レモンなどの生鮮食品のほか、 チーズ、ワイン、オリーブオイルなど幅広い食品で 仕入れ価格が上がってきているという。 

鈴木氏は「円安がさらに続けば、 年末にはこれらの商品の店頭での販売価格を 引き上げることも考えなくてはならない」として「クリスマス商戦に影響が及ぶことも想定される」 との見方を示している。

国内景気を見舞うダブルパンチの行方は

新型コロナの感染状況が落ち着く中、東京都や大阪府では、飲食店の営業時間の短縮要請などが25日に解除される。経済正常化への動きが進むというタイミングでの円安と原油高というダブルパンチの景気への影響の行方を 注意深くみていく必要がある。

【執筆:フジテレビ経済部長兼解説委員 智田裕一】

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員