新型コロナウイルス予防としてワクチン接種を受けた人もいると思うが、このワクチンの開発では、日本は後れをとっているとされている。

その一方で、新型コロナウイルスワクチンの原料を日本のメーカーが提供しているのをご存じだろうか。

新型コロナウイルスワクチン「メッセンジャーRNAワクチン」に欠かせない重要な原料である「シュードウリジン」を製造し、ファイザーとモデルナに提供しているのが、醤油の製造で知られるヤマサ醤油(千葉県銚子市)なのだ。

ヤマサしょうゆ1リットル(提供:ヤマサ醤油)
ヤマサしょうゆ1リットル(提供:ヤマサ醤油)
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ヤマサ醤油は1645年に創業し、300年以上にわたって醤油を作り続けている。そんな企業が、なぜ新型コロナウイルスワクチンの原料を作っているのか?

またこの原料「シュードウリジン」は、「メッセンジャーRNAワクチン」でどのような役割を果たしているのか?

ヤマサ醤油の担当者に話を聞いた。

「シュードウリジン」は醤油には使われていない

――製造している、新型コロナウイルスワクチンの原料の名前を教えて。

「シュードウリジン」です。


――シュードウリジンはどのような物質?

新型コロナウイルスワクチンの「メッセンジャーRNA」を構成する物質の1つで、私たちの体の細胞にも存在しています。


――なぜ、調味料のメーカーであるヤマサ醤油がワクチンの原料となる物質を製造している?

ヤマサ醤油は、核酸の関連物質を60年以上にわたって製造しております。核酸とは、デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)の総称で、生命活動に欠かせない生体高分子です。

この核酸の関連物質に特化し、事業展開していく中で、いろいろな核酸の関連物質を合成し、研究用試薬として販売しております。

シュードウリジンはこの対応の中で品揃えされた品目です。

事業概要(出典:ヤマサ醤油HP)
事業概要(出典:ヤマサ醤油HP)

――シュードウリジン、いつから製造している?

1980年代には、すでに試薬販売されておりました。


――シュードウリジンは醤油には使われていない?

シュードウリジンは醤油には使われておりません。

新型コロナウイルスワクチンで果たしている役割

――シュードウリジンは新型コロナウイルスワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)で、どのような役割を果たしている?

新型コロナウイルスワクチンの「メッセンジャーRNA」は、新型コロナウイルスの突起部分(=スパイクタンパク質)の「メッセンジャーRNA」を投与すると、その「メッセンジャーRNA」により、スパイクタンパク質が細胞内で生成され、その結果、それを攻撃する抗体が作られるという仕組みです。

「メッセンジャーRNA」を体内に投与すると、免疫反応により炎症を起こすことから、ワクチンや医薬品としての実用化は難しいと考えられていました。

ところが2005年、新型コロナウイルスのメッセンジャーRNAワクチンを開発したドイツの製薬大手、ビオンテックのカタリン・カリコ上級副社長と、アメリカ・ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授の2人が、「メッセンジャーRNA」をシュードウリジンで構成すれば、炎症が抑えられるという論文を世に出しました。

そして、シュードウリジンで構成された「メッセンジャーRNA」を使うことで、免疫機能を回避し、目的のタンパク質を生成する、効果の高い、新型コロナワクチンウイルスが開発されました。

つまり、シュードウリジンで構成された「メッセンジャーRNA」は、免疫機能を回避できるようになり、十分にタンパク質が作られるようになったということです。

シュードウリジンを製造しているヤマサ醤油の工場(提供:ヤマサ醤油)
シュードウリジンを製造しているヤマサ醤油の工場(提供:ヤマサ醤油)

――ヤマサ醤油が製造しているシュードウリジンが、新型コロナウイルスワクチンに使われることになったのはなぜ?

「メッセンジャーRNA」自体は、新型コロナウイルスワクチンの開発以前から、他のワクチンや治療薬として、研究開発されております。

ヤマサ醤油は、新型コロナウイルスワクチンの研究段階からシュードウリジンを提供してきており、その流れの中で新型コロナウイルスワクチンの「メッセンジャーRNA」の製造用としても、ご利用いただくことになりました。

高品質で商業生産できる会社は世界でもごくわずか

――ヤマサ醤油が製造したシュードウリジンは、ファイザーとモデルナのワクチン、両方で使われている?

両方のワクチン製造の原料として使用されております。商業生産(大規模製造)で高品質なシュードウリジンを製造できる会社は、世界でも、ごくわずかしか存在しません。


――シュードウリジンは、新型コロナウイルスワクチン以外ではどのようなことに使われている?

現状、公となっているのは「メッセンジャーRNA」を合成する用途です。


――今はどのような体制でシュードウリジンを製造している?

去年の秋に増産体制を整えて、製造・供給をしております。いまだ需要は増える見込みであり、また、将来、再び、パンデミックが起こった際に無理なく供給できるよう、さらに製造能力の拡張を含む、体制整備を行うことにしております。

ヤマサ醤油・本社(提供:ヤマサ醤油)
ヤマサ醤油・本社(提供:ヤマサ醤油)

ヤマサ醤油が製造している、新型コロナウイルスで重要な役割を果たしている原料「シュードウリジン」。ワクチン開発において、“原料の提供”という面で貢献していることは、もっと多くの人に知ってもらいたい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。