バイデン米大統領が「スランプ」に陥った。

移民対策、経済対策法案・・・問題山積みのバイデン政権
バイデン政権の退潮は明らかだったが、米国の政治・経済情報を伝えるニューズレター「ワシントンウォッチ」(10月17日号)が初めて「スランプ」という表現でそれを伝えた。
この表現は「控え目」にも思えるが、同レターはトランプ政権に極めて手厳しかったのでバイデン政権には好意的と考えれば納得できるし、今のワシントンの状況を正確に伝えるものだろう。
その原因だが、同レターは先ず内政問題でのつまずきとして、
1) 変異ウイルスのデルタ株が猛威を振るい、新型コロナ危機が再燃したこと
2) 大統領が目玉政策として打ち出したインフラ投資法案が民主党内の保守派と進歩派の衝突で宙に浮いたこと
3) メキシコとの国境地帯での移民対策が「もたついている」こと
4) 銃規制強化策が進まず、警察改革も与野党交渉が決裂したこと
をあげた。


外交での“失態”、支持率は就任以来最低に
一方外交では、
1) アフガン撤退で混乱を招いたこと
2) 米英豪の新軍事同盟を結ぶにあたり、既存の豪仏協定を無視して原子力潜水艦の共同開発計画を進めたため、フランスが駐米大使を召還することになった不手際
3) 習近平中国主席と年内に対面会談を提案したが蹴られたこと
などを挙げている。
この結果、バイデン大統領に対する支持率は低下し、ギャラップ社の調査では大統領就任時の1月に57%でスタートしたのが7月に50%、8月に49%に下がり、9月(1~17日調査)に就任以来最低の43%まで下がった。
一方、バイデン大統領の不支持率は就任時は37%と低かったが、その後上昇して9月には53%になっている。

無党派層のバイデン離れ
注目すべきは無党派層のバイデン離れが顕著なことだ。
最近のギャラップ社の調査では、民主党支持者のバイデン支持は90%、共和党支持者では6%と大きな変化はないが、無党派層は37%で就任時の61%から大きく下落している。
最近の米国民の政党支持登録で見ると、民主、共和両党有権者はともに30%前後で無党派層が40%超と最も多い。民主、共和両党の支持・不支持がかつてなく硬直化している中で、バイデン大統領が支持率を伸ばすには無党派層に頼らざるを得ないのだ。
その支持率回復にはコロナ退治と経済再建が鍵を握っていると、ワシントンウォッチは考える。
米国内の新型コロナウイルス感染者は2021年1月のピーク時に比べて36%、死者は40%にまで低下してきている。今後、ワクチンのブースター(3回目)接種が行われ、加えて経口抗ウイルス薬の使用が可能になればコロナ禍が沈静化することにバイデン政権は期待する。

一方の経済は、議会で審議が中断しているインフラ法案と債務上限引き上げ法案を早期に成立させることだが、上院での民主、共和両党の溝は深く、また民主党内穏健派の抵抗も強く予断を許さない。
“トランプよりマシでは不十分”
このバイデン大統領の「スランプ」がいつまで続くのかワシントンウォッチは予測していないが、10日のニューヨーク・タイムズ(電子版)に「民主党よ、危機が迫っているぞ」という論評記事が掲載された。
筆者は論評コラムニストのチャールス・ブロウ氏で、民主党はバイデン大統領の政策を中途半端にしたまま2022年の中間選挙へ向かっており、大統領の支持率も最近のクイニピアック大学の世論調査では38%まで低下し「真の危機に直面している」と警告。
「バイデンはトランプよりマシだが、それでは不充分だ。国民は悪役を排除するだけのためにバイデンに投票したわけではない。彼らはチャンピオン(闘士)を求めたのだ。そのチャンピオンは未だ出現していない」
「スランプ」脱出には時間がかかるようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】