洗濯や食器洗いなどに使う“合成洗剤”を、“無添加石けん”に替えると、生活排水が環境に与える影響に変化はあるのか。
このような実証実験が9月1日、福岡県宗像市にある地島(じのしま)で始まった。地島は、周囲9.3キロ、人口約140人の小さな島で、ワカメ、ウニ、アワビなどの磯漁業や釣漁業が盛んな地域だ。
この地島で行われている実証実験の名称は「生活排水の環境及び生物に対する影響に関する実証実験プロジェクト」。
産官学連携の実証実験で、実験に取り組むのは、シャボン玉石けんと山口大大学院創成科学研究科、九州環境管理協会、宗像市で、期間は11月までの3カ月間を予定している。
地島の一般家庭・全世帯にあたる62世帯と地島小学校、漁村留学センター「なぎさの家」において、実証実験の期間中、洗浄剤に石けんを使用してもらう。
そして、実証実験の前後の水質や生物の分析を行い、生活排水による環境の影響を調査し、調査結果は2022年以降に論文として発表する予定だ。
環境にやさしい取り組みは現在のトレンドではあるが、島全体で行う実証実験というのは興味深い。この実証実験において、どのような場面が“石けん”を使う対象となるのか?工場などで使う洗剤は含まれないのか?
シャボン玉石けんの担当者に話を聞いた。
地島は漁業が盛んで、水環境への関心もある
――このような実証実験を行う理由は?
弊社は「健康な体ときれいな水を守る」という企業理念のもと、1974年より無添加石けんの製造・販売を行ってきました。人にも自然にもやさしい無添加石けんの製造・販売、普及活動そのものがSDGsの達成に貢献するものと考えております。
宗像市とは以前から様々な取り組みを連携して行っており、宗像市の協力を得て地島における実証実験が実現しました。地域単位での実証実験は業界でも珍しく、実際の生活の中で洗浄剤を石けんに変えることで環境に対して、どのような影響の変化があるのか調べることは、意義のある調査だと考えております。
また、実証実験を通して、住民のみなさんの環境意識の向上、地島というエリアのブランド向上にも寄与できればと思います。
――今回の実証実験の対象に地島を選んだ理由は?
宗像市に実証実験についてご相談したところ、地島をご紹介いただきました。地島は漁業が盛んで、水環境への関心もあり、世帯数が少なく地域全体で取り組むことができるという観点から地島に決まりました。
――地島の全世帯数は?
62世帯で、全ての世帯が対象です。ただし、ご協力という形なので、必ず全ての世帯にご協力いただけるかどうかは断定できかねます。
――実証実験の対象となる地島小学校と漁村留学センター「なぎさの家」。それぞれの人数は?
・地島小学校(教員10名、生徒7名)
・漁村留学センター「なぎさの家」(職員2名、生徒5名)
「石けんは環境負荷が非常に少ない」
――実証実験で使う“石けん”について具体的に教えて
今回の実証実験では、シャボン玉石けんの9つの商品を使用します。
・シャボン玉台所用せっけん
・シャボン玉スノール(洗濯用)
・酸素系漂白剤
・手洗いせっけんバブルガード
・せっけんハミガキ
・無添加せっけんシャンプー泡タイプ
・無添加せっけんシャンプー専用リンス
・無添加ボディソープたっぷり泡
・無添加フェイシャルソープ
――この9つの商品は全て環境にやさしいの?
全て環境にやさしい商品です。「せっけんハミガキ」「無添加せっけんシャンプー専用リンス」「酸素系漂白剤」の3商品以外は、全て石けん成分のみです。
石けんは、環境中に流れ出ると、環境に存在するカルシウムなどの金属と反応して、石けんカス(水に含まれるカルシウムやマグネシウムなどが石けんと結びついてできるもの)に変化し、微生物や小魚の栄養源となります。
また、微生物の力によって、短期間で水と二酸化炭素に生分解されるため、環境に残留することがありません。
以上のことから、石けんは環境負荷が非常に少ないと言えます。
また、「せっけんハミガキ」「無添加せっけんシャンプー専用リンス」「酸素系漂白剤」につきましては、石けん以外の成分も含まれていたり、石けん以外の成分になりますが、いずれも環境や肌にやさしい成分で、できております。
「トイレ掃除や浴室掃除などは対象外」
――実証実験の対象となる“石けん”を使う場面は?
基本的には、洗濯、食器洗い、シャンプー、体洗い、洗顔、手洗い、歯みがき、掃除(一部)の場面です。
ご協力いただく形ですので、各家庭によって、上記の中でも一部のみ、石けんに切り替えられる家庭もあるかもしれません。
――対象外もある?
例えば、トイレ掃除や浴室掃除などは、専用の商品を弊社で取り扱っていないため、対象外となります。 ただし、弊社の商品で掃除していただくことも可能なので、なるべく石けんを使っていただけるように、使い方の説明を行っています。
――今回の対象は「生活排水」。工場などで使う洗剤は含まれない?
地島には個人宅以外の施設がほぼなく、地島小学校や漁村留学センター「なぎさの家」では、個人宅同様に実証実験の対象として、弊社の石けんを使用していただいております。
――実証実験への協力は任意?
実証実験への協力は任意です。実証実験に対しては、皆さま、肯定的に捉えていただいており、全面的にご協力いただくことになっております。
――地島の全62世帯が協力。この理由としてはどのようなことが考えられる?
漁業が盛んな地域なので、水環境が改善されることは生活にも直結するため、ご協力いただきやすいと考えております。協力いただく方への対価の支払いはございませんが、石けん商品は無償で提供させていただきます。
環境への影響の調査方法
――環境への影響をどのように調査する?
地島の各地区の処理場より汚泥や水などをサンプリングし、実験開始前と開始後の変化を追い、洗浄剤を替えたことでどのような変化があるのか、調査します。
サンプリングは2週間に1度の頻度を予定しております。
――2022年以降に発表する予定の実証実験の結果をどのように活かしていく?
まずは、実証実験に協力いただいた、地島の漁業や海の環境保全に寄与できればと考えています。 また、弊社は石けんの普及・啓発活動の取り組みとして、自治体と連携した、石けん推奨を複数の地域で行っています。
地域単位で石けんを推奨する自治体を増やすためのエビデンス(=根拠)としての活用や、下水処理が整備されていない海外・国内一部地域での石けんの普及などを通じて、地球環境の保全に貢献できればと考えております。
9月1日から始まった実証実験。“合成洗剤”を“環境にやさしい石けん”に替えることで、環境への影響にどのような変化が生じるのか、引き続き、注目していきたい。