保健所に何度も検査を依頼も…無症状を理由に拒まれ続けた女性

新型コロナウイルスの感染者が急増する三重県で8月25日、濃厚接触者となった妊婦がPCR検査を受けられず、流産した。

無症状を理由に保健所にPCR検査を断られた女性はその後、腹痛が始まったため、かかりつけ医に診察を依頼。しかし、「陰性の確認ができないと診察できない」とまたしても断られてしまった。

新型コロナの感染拡大の中、ひっ迫する保健所や病院。そのはざまで救うことができなかった小さな命があった。

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四日市市に住む、結婚間もない20代の夫婦。妻のお腹には初めて授かった小さな命が。2人は産まれてくるのを心待ちにしていた。

8月19日に夫が勤務先で体調不良になり病院で検査をしたところ、新型コロナウイルスへの感染が判明。保健所は妊娠4カ月だった妻の女性を濃厚接触者に認定。

その後の3日間、保健所から夫婦に連絡はなかったが、8月23日に夫は宿泊施設での療養が決まった。この間、妊娠中の身を案じた女性は、保健所に何度も電話をかけPCR検査をしてほしいと頼んだが、受け入れてもらえなかた。

流産した女性:
妊婦やし、陰性か陽性かわからないじゃないですか。何かあったらいかんしと思って「PCR検査受けさせてください」って…。何回も電話して「何とかなりませんか?」って言っても、「無症状の方はPCR検査は受けれません」って…

「妊婦だからと優先できない」感染拡大を受け変更されていた保健所の方針

ちょうどこの頃、三重県では緊急事態宣言を国に要請。四日市市でも1日あたりの感染者が初めて100人を超える事態になっていた。

感染者の急増で保健所の業務がひっ迫する中、県内の保健所のトップらが出席する会議の場で、「感染拡大地域での濃厚接触者のPCR検査は、症状が出ている人から優先的に行う」という方針が示されていたことが、保健所関係者への取材でわかった。

女性が住む四日市市でも、濃厚接触者であれば誰でもPCR検査を受けられるこれまでの方針を変え、結果的に無症状の濃厚接触者の検査は後回しに。しかし、この時の方針では「妊婦は優先的に検査を受けられる」と示されていたはずだったが…。

流産した女性:
「妊婦だからって優先はできません」って、はっきり言われました

濃厚接触者を理由にたらい回しの末、赤ちゃんは搬送先の病院で死亡

その後もPCR検査が受けられないまま、お腹に痛みが出始めた女性は8月24日にかかりつけ医に電話をした。しかし、「陰性の確認ができないと診察できない」と断られた。

翌25日、次第に強くなるお腹の痛みに耐えきれなくなった女性は、複数の病院に電話をかけ、ようやく1時間後にPCR検査と共に診察をしてくれる病院が見つかった。

その病院で検査を受けたものの、結果が出るまでに3時間ほどかかるため、一度帰宅するように言われた。

流産した女性:
「もうお腹痛いので早く診てください」って何回も訴えていたんですけど、でも病院側は「検査の結果がわからん限り、こっちもどうしていいかわからんから、とりあえず帰ってください」って…。車で家に帰る途中に破水しちゃって。救急車呼んで、救急車の中でも病院がどこも引き受けてくれないと…

駆け付けた救急隊員に濃厚接触者であることを伝えると、受け入れ先はすぐに見つからず、30分ほどしてようやくPCR検査を受けた病院で「陰性」が確認され、搬送してもらうことに。しかし…。

流産した女性:
着いてちょっとしてから、もう赤ちゃんが出ちゃっていて。流産、死産っていう形になったんですけど…

赤ちゃんは搬送先の病院で、死亡が確認された。

救うことができなかった小さな命…求められる妊婦が安心できる体制

流産した女性:
早い段階から対応はできたと思うんです。PCR検査だって受けさせてくれとったら…。もし「陰性」って分かっていたら、病院は受け付けてくれたかもしれないですし。病院の対応にしても、保健所の対応にしても、妊婦さんに対してもっと安心できるような体制をとってほしい

四日市保健所は取材に対し、「妊婦の検査を優先していたはずだが、女性のPCR検査の経緯は把握していない」としている。

この問題を受け、三重県の鈴木英敬知事(当時)は9月3日の会見で次のように述べた。

鈴木三重県知事(当時):
妊婦の方だったら、統一して無症状でも検査をしようと。徹底してやっていくことにしました

コロナ禍の混乱の中、救うことができなかった小さな命。妊婦が安心できる徹底した体制が求められる。

(東海テレビ)

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