スマホやワイヤレスイヤホンを仕事やプライベートで使っている人は多いことだろう。さらにはスマートウォッチなどを付ける人も増え、身の回りには小型の電子機器で溢れている。このような機器は便利であるが、一方で煩わしいのが充電だ。

1日1回はコンセントにさし、またはモバイルバッテリーを持ち歩いている人も多いことだろう。

このような中で株式会社リコーが、薄くて軽く、屋内や日陰でも効率的に発電できる有機薄膜太陽電池(OPV)を九州大学と開発した。

(画像提供:リコー)
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特徴は九州大の高性能有機半導体設計・合成技術と、リコーが長年の複合機開発で培ってきた有機感光体の材料技術を組み合わせたことだ。屋内のような低照度(約200ルクス)から屋外の日陰などの中照度(約1万ルクス)の場所でも高効率な発電ができるという。

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そして、薄くて軽く、曲げることが可能なフィルム状であるため、平面だけでなく曲面などさまざまな形状のIoTデバイスに搭載することができる。

いろいろなモノがインターネットでつながるIoT社会では、モノに取り付けられた各種センサーの情報をインターネット経由で収集する。このセンサーを常に稼働させる電源として、太陽光でなく身の回りの光で発電できれば、たしかに便利だろう。

(画像提供:リコー)

そして9月からは、メーカーなどにこのOPVのサンプル提供を始めたのだ。サンプルのサイズは41×47ミリで、提供することでこの太陽電池を搭載した製品開発に活用してもらう。

将来的には、身の回りにあるいろいろな小型電子機器の電池交換も不要となり、利便性の向上とともに持続可能な開発目標(SDGs)への貢献も期待しているという。

では具体的に、開発した太陽電池で現在、どれくらいの発電ができるのだろうか? また将来的には、どのような場面での使用を想定しているのだろうか?

RICOH Futures BU EH事業センターの田中哲也所長に話を聞いた。

照度センサーなどの電力を賄うことが可能

――この太陽電池では、どんなことができる?

現在は41×47ミリのOPVで、200ルクスの環境下で最大84マイクロワットの電力が取り出せます。蛍光灯のあるオフィスは平均600ルクスほどですので、ここで出力できるのは約250マイクロワット。照度センサーやビーコンなどの小型機器を使うことができる発電量となります。

(画像提供:リコー)

――例えば、スマホのバッテリーとして使うのはまだ難しい?

スマホの消費電力となるとさらに大きいので、現在の技術ではスマホをOPVだけでまかなうことは難しいです。机上計算になりますが、充電がゼロのスマホを4畳半ほどのサイズのOPVに室内でつないだ場合、1時間でバッテリーが10%まで回復するというレベルでした。

ただし、弊社が発電力を上げる開発を続けていく一方で、メーカーもスマホの低消費電力化を進めていると思いますので、いつかスマホ画面の大きさのOPVで、リアルタイムで充電をしつつ使える日が来ることを目指しています。

現段階おいては、OPVで、スマホに搭載されているリチウムイオンバッテリーの減りを遅くさせることが現実的です。

複合機開発の技術を太陽電池に応用

――そもそも、なぜ複合機器メーカーが太陽電池を開発している?

コピー機などでは、有機感光体という部品が画像や文字を紙の上に変換する役割を担っています。印刷する際にこの有機感光体で、光を浴びることで帯電する現象が起きています。この「光を浴びると電気を帯びる」という仕組みが、固体型色素増感太陽電池(DSSC)の構成と似ている部分があり、第一弾として2020年にDSSCを発売しました。

ただ色素増感太陽電池は、材料の特性として基板がガラスであり、室内のLEDには効率的に発電できますが、紫外線への耐久性が弱い(屋外での使用が難しい)という欠点があります。そこで新たに、屋内外と使用場所を選ばない、かつフレキシブルな素材の太陽電池として、このOPVを開発し、サンプル提供を始めたというわけです。


――サンプル提供するOPVの特徴は?

2つあります。一つは太陽電池の中にある、電気を発生させる発電層です。実は、この発電層の材料が各社で少しずつ異なります。弊社では発電層や、発生した電気を効率よく動かす機能の材料を九州大学との共同研究で開発し、より発電効率の高いOPVを実現しました。

もう一つが高耐久化です。有機系の太陽電池は空気中の水分によって劣化することから、これをバリアする必要があります。この方法も各社さまざまなのですが、弊社では既に色素増感太陽電池の研究の際に最適な技術を開発しており、これを活用しています。

リコーの有機薄膜太陽電池の構造(画像提供:リコー)

――サンプル提供にはどのような反響があった?

8月18日にリリースを出し、8月30日までに10社を超えるお客様から提供のご相談がありました。大企業や商社、研究機関などからです。「軽くて曲がる」「屋内外で使用可能」という特徴に対し、企業様が開発するデバイスに取り入れたいと検討されているようです。まだ、この太陽電池の市場ができていないと考えていますので、まずは一緒に作っていきたいです。

なお、早ければこのOPVが組み込まれた製品が、2022年度中に市場に出るのではと予想しています。

将来的には曲がるスマホの電源供給も?

――将来的にはどのような場面で使われることを想定している?

「薄くて軽くて曲がる」「屋内外で使える」という特性があるOPVは、建物や橋などの老朽化点検センサーの電源や曲がるスマホの電源供給を目指しています。そして、現在は太陽光パネルを山などに敷き詰めることが社会問題になっていますが、薄くて軽いこのOPVは、ビルの壁や窓に貼ることで屋根だけでなく建物全体で発電できます。

また、乾電池レスになることで子どもの誤飲防止やお年寄りの電池交換の負担を解消。さらには、CO2や温湿度のセンサーに組み込み、空調システムと連動させることで快適な室内環境の自動設定などを想定しています。

私たちが実現させたい未来は「充電のない世界」をつくることです。人が意識的に「充電」という行為をする必要がない世界、「電池交換」という行為をする必要がない世界を実現させたいと考えています。

フレキシブル電源基板との接続例(画像提供:リコー)

――SDGsの観点では、どのような貢献を目指している?

世界各国で2050年までにGHG(二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス)排出の実質ゼロを目標としていますが、リコーグループとしてもエネルギー効率の高い製品やソリューションの提供を行うとともに、ビジネスパートナーとの連携を通じて、2050年にバリューチェーン全体のGHG排出ゼロを目指しています。EH事業センターとしては、この太陽電池事業で2030年におけるGHG排出量実質ゼロを目指しています。

またリコーは持続可能な社会の実現に向けて、色素増感太陽電池の上市に続き、今回、有機薄膜太陽電池(OPV)のサンプル提供に至りました。今後もクリーンエネルギーの普及による環境負荷の低減に向けて、自立型電源としての活用の用途を広げていくことで、社会課題の解決に貢献していきます。

フレキシブル環境発電デバイスが目指す充電のない世界のイメージ(画像提供:リコー)

太陽電池と言えば、屋外の強い太陽光が必要だと思っていたが、屋内の光でも発電できるとなると、その利用シーンは広がっていく。さらに技術が進み、早く「充電を意識することのない時代」が来ることを期待したい。

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