暑い日が続くと、気をつけなければならないのが「熱中症」だ。そのような中で今、人間ではなく、スマホの「熱中症」が注目を集めている。

電気通信大学が炎天下での“スマホ熱中症”に関する調査実験を実施。炎天下では、車内のダッシュボードで30分、公園などの屋外では20分で、スマホが“60度を超える高温”になる恐れがあることが分かった。

スマホ熱中症とは「スマホをメーカーの動作時環境温度の範囲を超えた温度の下で使い続けたときに、熱が放出しきれずスマホの中にこもることによって生じる、劣化や不具合を伴う症状」のこと。

そして、高温になったスマホの冷却方法についても実験し、スマホの電源をオフにして扇風機などで風を当てて冷やす方法が効果的だったという。

炎天下でスマホは高温の危険な状態に

取り組みは株式会社携帯市場と電気通信大学との産学連携「スマホバッテリー劣化研究プロジェクト」によるもので、外気温32度を超えた炎天下の日に、スマートフォンの温度を計測し、スマホ熱中症を調査した。

公園などの炎天下でのスマホ利用を想定した実験では、充電器をつないだスマホ(2台)や電源オンにしたままのスマホ(1台)を、直射日光の当たる屋外で20分間放置し、サーモカメラで比較した。

結果、電源オンのままにしたスマホは表面温度が最大46.8度となり、充電器につないだスマホは2台とも表面温度が50度を超え、そのうち1台のスマホの裏面は60度を超える高温となった。

炎天下実験のサーモグラフィ像(上部左から充電しながら2台と電源オンのまま1台)
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このことから、20分以内でスマホが高温になり危険な状態になるため、炎天下で充電しながら屋外で利用することは絶対避けるべきと注意を促している。
スマホに利用するリチウムイオンバッテリーは熱の影響を受けやすく、故障の原因につながるだけでなく、 熱により膨張・発火の恐れがあるという。

カーナビとして使うことを想定した車内実験も実施

また、スマホをカーナビとして使うことを想定した車内実験では、車体に直射日光が当たる状態で最初の15分はエンジンとエアコンをつけた状態、その後エンジンを止めて温度差を測定した。

車内での調査実験 スマホと温度センサを設置した場所

ダッシュボード、スマホホルダー(ダッシュボード上)、シートの3カ所では、エアコンを入れていても実験開始から温度が上昇し、約30分後にはダッシュボード(温度センサーのみ)がいち早く60度に到達。

そしてダッシュボードに置いたスマホ、スマホホルダーのスマホも50度を超え、非常に危険な状態となったという。

車内放置実験の温度推移 ダッシュボードがいち早く60度近くに 

実験終了後に再測定した際でも、スマホホルダー上やシート上、エアコン吹出口などに設置したスマホ温度は40度を超えており、このことから炎天下でエンジンを切ってスマホを車内に放置すると、40度を超える高温状態が続くことが分かった。

車内放置実験のサーモグラフィ 設置したスマホは40度を超える結果に

急速冷却には扇風機で冷やすのが効果的

そして、その炎天下で高温になったスマホの効果的な冷却方法に関しても調査実験を実施。方法は、温度が60度になったスマホの裏面を日陰で、異なる方法で10分間ずつ冷却。その際のスマホ表面、裏面の温度をサーモカメラで測定した。

冷却方法は「電源オンのまま」「電源オフのみ」「電源オフにし更にスマホ表面をモバイル扇風機で冷やす」の3種類。

結果、スマホの裏面で一番温度が下がった方法は「スマホの電源オフにし更にスマホ表面をモバイル扇風機で冷やす」で、温度が約20度下がった。「電源オフのみ」でも18度下がり、「電源オンのまま」では約8度しか下がらなかった。

スマホの表面で一番温度が下がったのは、裏面同様「スマホの電源オフにし更にスマホ表面をモバイル扇風機で冷やす」で、こちらは14度が下がる結果となった。「電源オフのみ」では12度、「電源オンのまま」では約6度下がった。

炎天下実験の温度推移グラフ

この結果から、電源オフのみでも一定の冷却効果はあるが、少しでも早く冷やしたい場合は、さらに「空冷」することがオススメだという。

なお冷蔵庫などで急速に冷やすと、急激な温度変化で基板や接合部などがダメージを受けたり、冷却後に結露が生じたりするなど、別の故障の要因となるとのことなので注意が必要だ。

ほとんどの人がスマホを持っている今、この実験結果が気になる人も多いことだろう。では、スマホが熱中症になることで、具体的にはどのような危険があるのだろうか?

電気通信大学・i-パワードエネルギー・システム研究センター長の横川慎二教授に教えてもらった。

“スマホ熱中症”で劣化が、発火の可能性も

ーーそもそも“スマホ熱中症”では、どのような症状が生じるの?

例えば、以下のような症状が生じると考えられます。

【軽度】動作に不具合が出るがすぐに復旧できる。
・画面に「高温注意」などの表示が出ることがある。
・画面がちらついたり,一時的に操作ができなくなったりする。
・いきなり予期せぬシャットダウンが発生する。
・内部では,バッテリーの劣化が加速されている。

【中度】しばらく使用不可能な状態になる。
・温度が高すぎて触ることができなくなる。
・シャットダウンと起動を繰り返し、電源を切ることができない。
・内部では、バッテリーの劣化が加速されている。

【重度】危険な状態になる。
・全ての操作に反応しなくなる。
・シャットダウンしたまま起動しなくなる。
・バッテリーが発火する。


ーーなぜ“スマホ熱中症”に関しての調査実験を行った?

スマホに限らず、大容量のバッテリーを搭載したデバイスが身の回りに数多く用いられるようになっています。バッテリーは、適切な使用環境において使用することが必須である一方で、生活の中に入ってくれば来るほど、不適切な使用が増えて、事故が生じる機会も増えてきています。

今年の夏は、2020年と比べても暑さが厳しくなると予報されています。また、COVID-19感染拡大防止のための行動抑制によって、スマホの利用時間も増えることが予想されます。さらには、スマホのバッテリー劣化を加速することは、災害時などいざというときの通信、情報入手の手段を失う可能性を高めるため、日頃から注意することが必要です。

年々増え続けているバッテリーに関する事故を未然に防止するため、真夏の使用の際に最も過酷な環境となる車内や炎天下での留意事項について明らかにするため、この実験を行いました。

バッテリーの製品事故件数の推移(製品評価技術基盤機構のデータベースから電気通信大学が作成)

横川教授によると、製品評価技術基盤機構が公開している製品安全分野「事故情報の検索」から得られた「バッテリー」に関する2010年度以降の事故報告件数をグラフ化したところ、スマホに限ったものではないとしつつ、バッテリーに関する事故が年々増加し、2019年度と2010年度を比べると約2.8倍になっていることがわかったという。

ーー実験では60度を超えたスマホもあったが、そのスマホは触れることができるの?

手に取るとかなり熱いため、素手で触るのは難しいと考えられます。しかし、熱伝導率の低い素材でできた分厚いケースに入っている場合には、それほど熱さを感じないことも予想されます(今回の実験は、温度を測定するためにケースを用いずに行ったため、あくまで予想の範囲です)。

実験の結果、表面より裏面の温度上昇が大きかったため、ケースによって非常に高温になっていることを認識できないことも考えられます。その場合には危険を察知するのが遅れるため、より注意が必要と考えられます。


ーー熱中症になったスマホはどのような点で危険なの?

スマホの使用条件は、メーカーによって動作時環境温度は0〜35度の範囲に、保管時(非動作時)温度は-20〜45度に規定されています。この範囲を超える高温状態では、スマホのバッテリーの劣化が急激に進むことが予想されます。さらに、反応が急激に進んだ場合には、発火に至る可能性もゼロではありません。

メーカーはバッテリーの発火事故を防ぐために保護回路や安全装置を用いていますが、それらが動作することでスマホがダメージを受けることになります。スマホ熱中症は、未然に防止することが重要です。

タオルに包んだ保冷剤を当てる方法はダメ?

ーー実験でスマホの冷却方法として、「電源オンのまま」「電源オフのみ」「電源オフにし更にスマホ表面をモバイル扇風機」の3種類が選ばれた理由は何?

スマホの冷却においては、発熱を止めることと、熱を取り除くことが必要となります。前者は、動作に伴うものであるため、唯一の方法である電源をオフにする効果を確認しました。後者については、いくつかの方法が考えられます。

今回推奨した空冷式以外にも、ヒートシンクになる部品の装着や、液冷式、局所冷却装置の使用も想定されます。ただし、部材や専用器具などを準備する必要があり、いざという時にすぐに使える方法とは言えません。そこで、身の回りにある道具としてモバイル扇風機を使った方法を検証しました。


ーー冷蔵庫などで急速に冷やすのは危険とのことだが、例えばタオルに包んだ保冷剤を当てる方法はダメ?

急速な冷却は制御が難しく、スマホ内部での結露が生じる可能性があります。結露は電子機器の基板に大きなダメージを及ぼすことが多いため、冷却する温度と周囲の環境にも注意しなければなりません。

タオルで包んだ保冷剤を使用した場合、スマホの表面は濡れていなくても、内部の温度が下がりすぎると、内部で結露が発生することも考えられます。この場合、外から見ただけではわかりません。結露した状態で電源オンすると、回路のショートが生じて故障することもあります。

また、高温と低温の急速な変化は、様々な材料が組み合わされてできているスマホにとって大きなダメージとなります。スマホ熱中症以外の故障の要因を生じないためにも、急速な冷却は良い方法とは言い切れません。いずれにしても、冷却はあくまでも最後の手段であり、高温状態での使用を避けることが第一です。

保冷剤などであっても急速冷却は故障の可能性も…(イメージ)

ーーでは、冷却する際のポイントは?

スマホをケースに入れて使用している場合には、ケースから取り出してから風をあてるのがよいと考えます。スマホの中身のレイアウトは製品によって千差万別ですので、残念ながら一概にどの部分を冷やせばよいとは言い切れません。全体的に温度が十分に下がってから、電源を入れることをお薦めします。

バッテリーが大きなダメージを受けることは確実

ーー「高温にしてしまった後、冷却する」を何度も行うと、スマホには何か影響がある?

バッテリーの劣化は高温によって大きく加速されることが知られています。今回の実験で観測された温度にさらされることは、バッテリーの容量を通常の使い方以上に劣化させることになります。冷却によって元通り動作するようにみえても、バッテリーが大きなダメージを受けることは確実ですので、繰り返し危険な状況になることは絶対に避けなければなりません。

スマホを炎天下に置いておくのは危険(イメージ)

ーー今回の調査実験は、今後どのようなことに繋がる?

今後我々が身につけて持ち運ぶモバイル機器は、さらに小型大容量のバッテリーが搭載されるようになります。それらのバッテリーを安全、安心に使ってゆくには、リスクのある行動を知り、その行動を変容することが大事です。今回の実験は、危険に至るぎりぎりの行動を知ることが目的でなく、炎天下における「ながら充電」を避けるなど、安全に向けた行動指針として認識いただければと考えています。

特に、産まれたときからスマホが身の回りにあった子供など若年層にとって、スマホはいつでも、どんなときでも身近で使えるものという感覚が強くあります。そのような若年層にも安全に機器を使ってもらうためにも、リスクを具体的に伝えて、自ら事故を回避するようにすることが大事です。

また、カーボンニュートラルを目指す世界では、再生可能エネルギーによって様々な場所で、様々な形でエネルギーが生み出されるようになります。このエネルギーを有効に使ってゆくための鍵となるのが、バッテリーの活用です。

今はまだ、再生可能エネルギーの蓄電は、大型の蓄電池の利用が前提となっています。しかしながら、小型大容量化が進んでゆけば、身の回りのデバイスの一つ一つが、日々の生活のエネルギー供給源になる世界が来るかもしれません。その世界を安全でレジリエントなものにするためには、リスクを知り、それを回避するための知識や技術が必要と考えています。

横川慎二教授

少しの間だからと思い、スマホを放置して席を外したりすることもあるだろう。しかし、炎天下の日は、場所によってはスマホが60度を超える“熱中症”になってしまうこともある。日常で使っている物だからこそ、それを使う際の注意点を事前に知っておくことは大切だ。

スマホを長く安全に使用するためにも、自分の身だけでなく、スマホの熱中症にも注意してほしい。

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