名古屋入管に収容中亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん。

遺族らは10日、再び監視カメラ映像を視聴するため出入国管理庁(以下入管庁)を訪れたが、代理人弁護士の同席を断られこの日の視聴を見送った。入管庁は「開示は法律上の義務ではなく人道的配慮として遺族にのみ行う」との主張を譲らないままだ。

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ワヨミさん「代理人立ち会いを拒否するのはおかしい」

「代理人が立ち会って映像を見るのが私たちにとって大切なことで、拒否されるのはおかしいし、入管庁の対応はあまりにも酷い」

ウィシュマさんの妹のワヨミさんは、視聴を見送った理由を記者団に対してこう語った。

ワヨミさん「代理人が立ち会って映像を見るのが私たちにとって大切なこと」
ワヨミさん「代理人が立ち会って映像を見るのが私たちにとって大切なこと」
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ウィシュマさんが死亡するまでの13日間の監視カメラ映像は、約2時間に編集され先月12日に遺族らに開示された。しかし「ウィシュマさんを犬のように扱っていた」(ワヨミさん)映像に遺族が耐えられず、体調を崩したため視聴は中断されていた。

そして約1カ月たった10日、再び遺族らに映像が開示される予定だったが、入管庁が代理人弁護士の同席を認めなかったため遺族側が反発し視聴は見送られた。

代理人弁護士のメモが語る入管庁職員の発言

遺族の代理人弁護士のメモによると、当日入管庁職員はまず遺族側に対して、遺族の体調変化への対応のため別室に看護師や臨床心理士を待機させていると伝えた。

その際に職員が「体調判断は入管側で行う」と伝えてきたため、代理人弁護士の1人である指宿昭一氏は「体調の判断や場合によっては視聴をとめるなどは代理人弁護士の役割であって、代理人弁護士の立ち会いを求める」とあらためて主張した。

指宿昭一弁護士(右)「代理人弁護士の立ち会いを求める」。右から2人目は妹ポールニマさん
指宿昭一弁護士(右)「代理人弁護士の立ち会いを求める」。右から2人目は妹ポールニマさん

しかし職員からは「代理人の方々にご覧頂くことは考えていません」との返答があったので、指宿氏が「理由は説明できないのですか?」と尋ねると職員はこう答えた。

「理由についても説明しているかと思いますが、ビデオ映像については不開示情報とこちらは認識しております。これらについて御遺族には人道上の特別の対応からお見せするので、それら以外の方々、代理人も含めてご覧頂くことは考えておりません」

入管庁職員「遺族に直接確認していいか?」

ここで指宿氏は「人道上の配慮であれば弁護士も同席させるという考えにはならなかったのですか?」と食い下がったが、職員は「前回よりできる限り対応させて頂いております」と答えが変わらなかったので、指宿氏は「遺族の意思として今日は見られないので帰ります」と視聴の見送りを告げた。

すると職員が「遺族に直接確認していいか?」と聞いてきたので指宿氏が同意すると、職員は遺族に“交渉”を始めた。

「本日我々は弁護士の方々の立ち会いを認めることは考えていません。その上で皆さま限りであれば、ビデオを見てもらう準備があります。前回ワヨミさんとポールニマさんが体調を崩されたと聞いています。今回は別部屋に看護師と准看護師1名、カウンセラーがいて、もし皆さまに多少なり体調に変化があった場合には、対応できるよう準備をしています。代理人の立ち会いは認められませんが、我々としてはできる限りのことをさせて頂きました。それでも皆さまとしてはビデオをご覧頂くのは難しいでしょうか?」(入管庁職員)

従妹マンジャリさんが描いた映像上のウィシュマさん。この映像を見た後、遺族は嘔吐するなど体調不良を訴えた
従妹マンジャリさんが描いた映像上のウィシュマさん。この映像を見た後、遺族は嘔吐するなど体調不良を訴えた

ワヨミさん「弁護士が一緒でなければ見ません」

これに対してワヨミさんが「弁護士が一緒でなければ見ません」と断ったところ、職員は「なぜ弁護士がいないと見られないのか、その理由を教えてください」と食い下がった。

ワヨミさんが「弁護士さんがいなければ、見ても法的な意味もわからない」と答えると、職員は「代理人が立ち会うことで、心理的負担が減るということもあるのか?」と問い、ワヨミさんが「そうだ」と答えると、職員は「理由はそれだけですか?」とさらに食い下がった。

そこで指宿氏が「代理人を通さないで、これ以上聞くのはやめてください」と間に入ったところ、職員は「まず上司に報告します。我々としては今日初めて皆さまがそういうご意向だということを知りました」と主張した。

これに対し代理人弁護士団は「前から伝えてある。メールにも残っている。議論したくないので、とにかく終わりにしてください」と帰る意思を再度示した。

入管庁職員に代理人立ち会いを求めた8月27日のメール(指宿弁護士提供)
入管庁職員に代理人立ち会いを求めた8月27日のメール(指宿弁護士提供)

入管庁長官「次の機会を設けるのは難しいです」

ここで職員と代理人は「少し時間をください」「もう帰ります」と押し問答となり、職員が「佐々木(聖子)長官が長官室でご遺族や先生たちと直接話を聞きたい」と伝えてきた。

しかし代理人から「長官に会う必要がない」と断ると、佐々木長官が自らやってきてこう語った。

「法務省、入管として(代理人立ち会いは)難しいというのが結論です。そうしますと結局遺族が見ることができません。それでも皆さまは見られないという決断でよろしいのですか?そういうことであれば役所としては、もう次のこういう機会を設けるのは難しいです」

指宿氏はこの佐々木長官発言を「脅しだった」としてこう語った。

「入管庁は法律上の義務としての開示ではなく、遺族に対する特別の人道的配慮で第三者の立ち会いは認めないといいます。我々は何度もすべての映像のデータ開示を求めていますが、これは条理と社会通念に基づく請求で、入管庁が応じない法的根拠はありません」

ポールニマさん「すべての日本人に見てほしい」

また代理人弁護士の1人、高橋済氏はこう語る。

「仮に不開示情報にあたる場合でも、法律上は裁量開示というものがあり開示可能です。遺族には裁量開示して、代理人には裁量開示しないというならなぜそうなるのか理由を説明しなければいけません。裁量というブラックボックスで押し通せる話ではないと思います」

ポールニマさんはFNNの取材に対し、代理人を通して「すべての日本人に映像を見てほしい。そうすれば入管施設の中で収容者がどう扱われているかわかる」と訴えた。

ポールニマさん(右)「すべての日本人に映像を見てほしい」
ポールニマさん(右)「すべての日本人に映像を見てほしい」

代理人弁護士の駒井知会氏は「私たちが求めるのは、残っている映像全てのデータを御遺族に渡すことです」と強調する。

「そこから御遺族の許可を得たうえで、公開に踏み切れればと思っています。日本の全ての人たちが日本社会でいま何が起きているのか知って頂きたいと思います。そこから制度自体を皆で変えていくのが、ウィシュマさんの悲しい死を無駄にしないことだと信じるからです」

ウィシュマさんの問題は、日本が外国人の人権をどれだけ重視しているのかが試されている。そして遺族のため、入管制度を国民全体で考えるために映像公開は必要だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。